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映画『枯れ葉』感想

予告編
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ミニマル


 劇中、主人公二人が映画館でデートをするのですが、上映終了後、入り口前で別の客が軽い映画談義をする様子が描かれます。取り立てて注目するほどの会話でもなかったですし、そこで交わされていたのは「名作だな」、「映画『○○』を彷彿とさせるようだ」程度の言葉。白状すると一字一句正確に覚えているわけじゃないし、本当に、なんてことの無いシーンだったと思います。にも関わらずこんな話を述べてしまったのは、本作もまた、劇場を後にする際にそういった感想を口にしたくなる映画だったから。

 

 しかしながら、こんなに「言葉にするのは野暮だなぁ」と思えた作品も久しぶりに観た気がします。本作は、あまりにもシンプルな恋愛映画。薄味とはまた違う、余計なことが一切無いというか、最低限のことを描いているだけというか……うーん、何て言えば良いのか。「筆舌に尽くしがたい」とも言えるのですが、それは本作が難解だからではなく、むしろその逆。とてもまっすぐに描かれていたが故に、必要以上に言葉にするのは気が咎める。そんな感じ。今時、こんな純粋でプラトニックな恋愛映画はお目に掛かれないかもしれません。明らかに現代の話なのに、一昔前の恋愛映画のような美しさがあります。 

 「じゃあ、その “一昔前の恋愛映画” で良いじゃん」となりかねませんが笑、それはまた違う。確かに名作と呼ばれる映画も良いんですけど、それは「名作だ」と知っているからこそ観たくなる。「あの感動をもう一度味わいたい」というのも同様。“知っている” からこそ、観に行く、観ようとする。けれど、ミニシアターだったり狭い劇場だったりにフラ~っと立ち寄って、気まぐれで “よく知らない” 映画を観る。そんな偶然の出逢いがあるから僕は映画館に行くのです。そしてこの物語で描かれる男女の出逢いもまた、そんな気まぐれや偶然によるものでした。だからこそ素敵に思える。繰り返しになりますが、今時、こういった映画にはなかなか出逢えないと思います。

 


 そんな本作は、あまり明るくない雰囲気から始まります。主人公の一人であるアンサ(アルマ・ポウスティ)は失業。家に帰ってラジオをつければウクライナ情勢のニュースばかりが聞こえてくる。物が少ない家の中や、無口で表情の変化も少ない彼女の人柄も相俟って、余計に暗くなってしまいそう。

 一方で、もう一人の主人公・ホラッパ(ユッシ・バタネン)もまた、口数が少なく表情の変化も乏しい。まぁ彼も彼で失業してしまうのですが、禁煙エリアで喫煙していたり勤務中に隠れて飲酒していたり等々、本人の責任によるところも多分にあったりして。なんでも本人曰く、鬱状態らしいのですが、それを紛らわすために飲んでいる酒が鬱の原因にもなっているみたいで。

 ……なんて話ばかりしていると気分が暗くなるばかりですが、これが意外と暗さを感じないのが本作の見どころの一つ。爆笑することはないのですが、どこかクスッと笑えてしまうようなユーモアが混ざっているおかげで、物語を暗くさせません。また、そのユーモアも「クスッと笑えてしまう」と述べた直後ではありますが、果たして笑えるものなのかも微妙な塩梅のユーモアになっていたのが印象的。これこそ「筆舌に尽くしがたい」というやつかもですが、変なシュールさを醸す瞬間が度々訪れるのも良い。先述の映画館のシーンもそう。「ここでこのチョイスですか」と言いたくなる、不思議な面白さ笑。

 

 本作は、そんな不器用な二人の出逢い、そして近付いていく様子を、ただゆったりと眺めていく。名前を名乗らずに再会を約束するも、偶然が重なって会えずじまいという展開に、佐田啓二×岸惠子の『君の名は』(感想文リンク)を連想した方も多かったんじゃなかろうか笑。

 また、ウクライナ情勢のニュースが聞こえてくることによって現代の物語であることが十分に理解できるのに、そのニュースが敢えてラジオから流されている(おまけに若干古めかしい型のラジオ)だとか、スマホはあるのにSNSを使っているような描写が無いだとか。日常のいたるところが少しずつミニマルになっている感じが、「一昔前の~」と言いたくなってしまう理由なのかもしれません。

 

 アンサの家で二人が食事をするシーンも素敵。いつもは暗いニュースを流すだけのラジオが置いてある位置に小さな花を生け、電子レンジでの調理で済ませる普段の食事とは違い、見栄えの良い料理を作って、でも相変わらず二人ともが終始大人しくて……。劇的なことはないけれど、小さな変化があるだけで、その場が普段より楽し気な空間であることがちゃんと伝わってくる。

 


 職を失う、酒に溺れる、気持ちが上がらない、ラジオから流れてくるのは不幸なニュースばかり……etc. そんな鬱屈とした日々の中でも決して消えることがない、人が人を想うという姿を、ミニマルに描いた映画なんじゃないかな。登場人物が特別に聖人君子でもないというのも説教臭さが無くて良いし、下品さが無いのも素敵。
 情報にせよ物にせよ言葉にせよ、現代は色々と溢れかえっていますが、本当は着飾らなくたって、言葉を並べ立てなくたって、暗い世の中になったって、どんなときも純粋な想いや愛は不滅であると教えてくれるような素敵な映画でした。

 ……まぁ観終わって間もないのでね、こんな歯の浮いたことも言いたくなっちゃいますよそりゃ笑。


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