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映画『スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~』感想

予告編
 


 明日9月6日(水)よりアマプラにて配信開始予定なんだそうです。

 本文中で「今年公開の映画で~」などと述べていますが、例の如く公開当時(3年ほど前)の感想文なので、現在の時勢・時節とは色々とズレておりますが、ご容赦くださいー。



自分のリズムで 好きなように


 いやぁ、わかりますとも。こういう文言に弱い人が多いから、興行成績とか集客のことを考えた結果なんでしょう、きっと。……にしたって、副題が長過ぎやしないか笑。作品の掴みとなる冒頭のシーンが薄まっちゃう気がしちゃいました。

冒頭、人混みを駆け抜けていく少女。今年公開の映画で言えば『イントゥ・ザ・スカイ』(感想文リンク)とか『ストーリー・オブ・マイライフ』(感想文リンク)にもあったような、嬉しいとか楽しみといった逸る気持ちを浮き彫りにして表現するための走りとは違うもの。例えるなら “追われている” とか “逃げている” かのような緊張感のあるシーン。

予告編とか事前情報はともかくとして、こういう「何かが起きている」というシーンについて、タイトルから容易に想像出来てしまうのは勿体なく思えてしまいまして……。すみません、余計な話でしたかね。



 さて本題。やたらと「『最強のふたり』の監督が……」という旨の宣伝を見聞きしていたせいか、ついつい比べながら観てしまいました。上記の冒頭シーンも然ることながら、作品全体を彩るサウンドトラックのピアノの音色や、本作のエンドロールに物語の実在のモデルとなった人々の映像を流す演出、そして様々な違いがあってもそれを乗り越えた絆や信頼が描かれていること等も含め、たしかに映画『最強のふたり』にも通じるところが幾つかある本作。

そして何よりの共通点は、本作がとても心温まる素敵な映画であるということ。


 まず、凄く小さいところですけど、本作の主人公ブリュノ(バンサン・カッセル)を含めた施設の職員たち皆が、自閉症の子供たちのことをちゃんと名前で呼んでいるところ。当たり前のこと過ぎますけど、ここの施設以外の人の多くが施設の子供たちのことを「患者」とか「彼」「彼女」などと呼んでいたこともあり、その差が浮き彫りになっていた印象です。

そしてこの “一人一人の名前を呼ぶ” ということが、クライマックスのシーンでしっかりと活きているように感じました。「無認可で施設を運営している」という色眼鏡で睨みを利かせてくる監査員たちに対し、「子供たち一人一人のことをしっかりと理解しているんだぞ」と言っているかのような啖呵の切り方はマジでかっこいい。「引き受けてくれ」というセリフの字面だけじゃ伝わらないかもしれませんが、その言葉の裏に「やれるもんならやってみろ」とか「お前ら(政府)にできるのか」と言わんばかりの迫力を感じます。
——“施設を守る”——それは要するに “子供たちのことを守る” ということ。その覚悟、自負が溢れんばかりに滲み出ていたシーンでした。



 守る立場と守られる立場のようになりかねない設定ですが、この物語ではそれぞれの前進が感じ取れるのも凄く良いところ。特にディラン(ブライアン・ミヤルンダマ)とヴァランタン(マルコ・ロカテッリ)の二人。

重度の自閉症のヴァランタンとの距離の取り方がなかなか見つけられずにいるディランが、精いっぱい彼とコミュニケーションを取ろうとしている姿は胸が熱くなる。自身も仕事の事や他人との付き合いに苦労しているはずのディランが歩み寄ろうと頑張っているからこそ、より一層そう思えます。自閉症の子供たちと運動(ダンスというか体操というか、体を動かす類の遊び)をしている時、マリク(レダ・カティブ)が皆に向かって言う「自分のリズムで」「好きなように」というセリフが、そのままディランへの応援にもなっていたのも素敵でした。



 ヴァランタンは長い間ずっと施設に閉じ込められていました。施設職員の努力も甲斐なく、なかなか外に出ようとはしません。そんな彼が、ディランと共にようやく外へ出たシーンは非常に良い。日の光が眩いまでに画面全体を覆っていたそのシーンは、“馬に触ってみる”——たったそれだけの小さな体験が、彼にとっては物凄く大きなこと、新鮮な感覚なのだと示しているかのような美しさがあります。

そしてここでの光の使い方が印象的だったからこそ、後半の高速道路でのシーンで、車のフロントライトや街灯といった光の怖さも色濃く感じられるのかもしれません。



 やっぱり、まだこういった話題はアンタッチャブルなものになりがち。特に日本ではそうなんじゃないかと、個人的にですが思います。でも本作は、悲しみや辛さの中でもちゃんとコメディが生きている。自閉症であるということを活かしたユーモアの数々が、閉じられたものとして認識されがちな本作のテーマをまろやかにしてくれているような気がしました。


 フランスは行ったことないので憶測でしか書けませんけど、移民のこととかもあるし様々な宗教や文化的背景があるんだと思います。経済的格差もあるでしょうし、マリクの下で働いている人たちのような、社会からはみ出し者扱いされたことがある人も多くいるはず。

ただでさえ意思の疎通というのは難しい。残念ながらそれが現実。だからこそ、コミュニケーションに難を抱える自閉症の人々と、色んな困難や悩みを抱えた人々が互いに手を取り合いコミュニケーションを取り、前に進む姿が描かれている本作は魅力的なのかもしれません。


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