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映画『イーディ、83歳 はじめての山登り』感想

予告編
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本日8月11日は「山の日」! ということで、山登りの映画から一本。

最近はやたら暑くて……かと思いきや大雨で、外出するのも億劫になりがちですが、都会の喧騒を忘れられるなら山登りも良いかもしれませんねー。
……映画を観てばっかりで出不精の僕が言うのも変な話ですが。


 よければ読んでくださいー。


人間賛歌


 親戚や知り合い等々、自分の周囲の人間を思い出してみますが……、平成生まれの僕の一意見としましては、83歳は山登りできる年齢ではないと思います。ましてや誰のサポートも受けずに単独で山登りだなんて……。もし身内の誰かがそんなことを言い出したら全力で止める、乃至は遺言を書くなり身辺整理を勧めるに違いないことでしょう。

 本作はフィクションですが、主人公イーディを演じている女優シーラ・ハンコックは、撮影当時の実年齢が83歳。だからこそ生まれるリアリティが、観客を勇気付けてくれる。先に述べてしまいますが、本作はまさに人間賛歌の映画。人生というもの、生きていることそれ自体を肯定してくれるような心地よい作品でした。



 30年間、夫の介護を続けてきた女性が、ふとしたきっかけで長年の夢だった山登りに挑戦する物語。個人的に好きなポイントなのが、飲食店で追加オーダーが可能か確認した際の「何も遅すぎることはないさ」という店員の言葉がきっかけだという所。何もかもに悲観的でネガティブな思考ばかりが先行していると、どんな出来事・言葉も心には響かない。逆に常に前向きに楽観的な心持ちで生きていれば、どんなことだってポジティブに受け取れる。人生を動かすきっかけは必ずしも劇的とは限らないんだ、その者の心の在り様で全てが輝き得るんだと思わせてくれるんです。



 序盤、家の中で夫の介護をする時も、家事をしている時も、部屋全体が暗い。老人ホームに行った時も同様。外出していても陽が差すこともなく常に曇天という辺りなんか、特に印象的でした。娘と口論になった時は雨にも降られていた。部屋だ何だ以前に、画面全体が暗く調光されていることで、イーディの心情を把握し易くなっていた気がします。そしてだからこそ、その対比として彼女が登頂に挑むスイルベン山の荘厳な景色が美しく映える。


 また、「やっぱり老い先短いから……」なんて言い方は多方面に失礼な気がしますが、決意してからの彼女の行動の速さ、迷いの無さも、観ているだけで楽しくなってくる。もともと性格に関して少し意地悪な側面を持つイーディだからかもしれませんが、他人の目なんかお構いなしの老人の素振りに、ジョニー(ケビン・ガスリー)ら若者が気圧される感じは、どこの国でも変わらないんだなと思ってしまいます。そんなジョニーとイーディが次第に心を通わせていく感じも、心が温まるようで凄く良い。



 物語が佳境に入り、遂に山登りに挑むイーディが、真っ直ぐゴールに向かわない感じも面白い。決して望んだ形ではない人生を歩んできた不自由な彼女だったからこその “何てことのない” シーンが幾つもある。ボートに揺られながら湖の水面に手を入れてみたり、樹々に触れ、緑葉から太陽を透かしてみたり、必要ではない瞬間のそれぞれが、彼女が “何てことない” という幸福、何も無いという自由を謳歌していることを印象付けてくれます。人生を山登りに例えることがあるけれど、それに準えるならば彼女の山登りは素敵な人生の暗喩であり、冒頭の言葉に戻りますがそれこそ人間賛歌。劇的ではなくても、人生を謳歌している、肯定している姿に見えてきます。当の本人にとっては堪ったもんじゃないでしょうが、夜中に冷たい雨に打たれたり、たまに厳しさを味わってしまうのもまた人生だと思わされる。

 それ以外にも自分を見つめ直す瞬間や人との触れ合い等、人生というものを考えさせてくれる瞬間が多くあり、彼女が頑張る姿も相俟って、本作は観客を勇気付けてくれるに違いない。何も遅すぎることはない、人生は美しいのだと、我ながら歯の浮くようなことを積極的に言いたくなってしまう。


 ラストシーンも非常に素敵。物語の中で描かれていた、イーディとジョニーそれぞれのこと——恋人のフィオナ(エイミー・マンソン)と揉めてしまったジョニー、娘と喧嘩をしてしまい未だ仲直りが出来ていないイーディ——について、最期の最後になって解決させないまま終わっている。←こうやって文字にしてしまうと、未見の人からすれば「え、それって消化不良じゃないの?」と思われるかもしれませんが、イーディとジョニーの2人だけを使ったとてもシンプルなラストにすることで、雑味の無い後味になっている。延いてはそれが、先程から幾度も述べている “人間賛歌” 的な思考を誘発する明るい気持ちにさせてくれて、そしてもっと言えば、その人間賛歌的な思考で言えば、人を信じているからこそ本作のエンディングに余計なものが必要無いのだと理解できる。

 ……うーん、 上手く伝わっているか心配……笑。「皆それぞれ解決しました~」みたいな付け足し話は野暮だと思うわけです。きっと彼らのように心の美しい人たちなら大丈夫だ、人生を、人間を信じ、肯定できる人たちが、人と人との繋がりを簡単に失ったりはしないはずだ、という信頼みたいなもの で、まぁ要するに「人間賛歌の一言で十分じゃない?」ってこと。決して説明を放っぽり出しているわけじゃありません笑。


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