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映画『ライダーズ・オブ・ジャスティス』感想

予告編
 ↓

PG-12指定


 今日投稿するのは、 #アマゾンプライムビデオ の月替わりセールの中から、映画『ライダーズ・オブ・ジャスティス』の感想文。

5月31日までのセールらしいですー。

戒め


 マッツ・ミケルセン主演のアクション映画。ライダーズって言うくらいだからバイク乗りか何かの話かな?とか、序盤の流れから察するに、怒らせたらヤバいタイプのオヤジが悪党たちに復讐する痛快アクション映画かな?とか、その他にも色々……。タイトルや物語の展開など、様々な箇所で「思っていたのと違う」と思わされた不思議な映画でした。「ド肝を抜かれた」とか、逆に「期待ハズレだ」とかともまた違う。こういう出逢いがあるから飛び込みでの劇場鑑賞はやめられない笑。


 中盤ぐらいのシーンだったかな。オットー(ニコライ・リー・カース)がマークス(マッツ・ミケルセン)の娘・マチルデ(アンドレア・ハイク・ガデベルグ)とチェスをするシーン。チェスのことをよく知らない彼女に対しオットーは、

「世界で唯一、運に左右されな いゲーム」
「サイコロもジョーカーも無い」
「すべて目の前にあって、自分の行動が結果を決める」

と、説明する……まぁ言い方から察するに囲碁や将棋の存在は知らなかったんだろうけど笑。

ここで語られるチェスの性質を、ゲームというジャンルに限りながらも “世界で唯一” と形容したことで、このチェスの存在はこの物語の見方に、延いては本作全体の印象に大きく影響を与え得るものになったように感じます。


 自身を襲った悲劇に対し、何か理由や原因を求めていたマチルデ。事の大小はともかく、「あの時〇〇していれば」或いは「していなければ」などと “ほぞ” を噛むことは誰しもある。それが自身への罪悪感に繋がったり、時には他者への逆恨みに至ってしまったりする。本作の登場人物たちは、各々が繰り返し想像していた「もしもの選択」の数々によって、〈偶然〉に理由や原因を付加しようとしていたように見受けられます。

そんな「もしも」を考えることは意味が無いのだと作中で語られることもあったけれど、〈偶然〉に理由や原因を求めるのは、精神を保つために重要な思考だとも思う。心の整理というかさ。作中にもあったように臨床心理士が重宝されるのはそういった理由なのかもしれません。



 ここでチェスの話に戻りますが、“世界で唯一” という大仰な物言いは、逆説的に、チェス以外の事柄や事象のすべてが運に左右され得るものだと言い表すこともできる

映画の序盤、堅苦しい言葉使いでオットーは車の事故の原因が何だかんだとプレゼンしていましたが、周囲の大人たちからは軽くあしらわれ相手にもされず、次のカットでは綺麗に駒が並べられたチェス盤を崩していた。“世界で唯一” 運に左右されない、つまりは「それ以外は運に左右される」という命題の象徴とも言うべきチェスセットの整然とした並びを破壊することは、その命題を〈真〉ではなく〈偽〉であると彼が認識してしまったことを匂わすには充分過ぎるワンシーン。

悪党や犯人というジョーカー的な存在を勝手に見出し、電車の中で他人に席を譲った自分の行動が悲惨な結果を招いたと誤認して……。そして案の定、彼に限らず何人もの登場人物たちが、〈偶然〉に理由や原因を見出そうとしてしまう展開へと発展していく。


 本当に理由や原因があったのならば、本作はとても痛快なアクション作品になっていたことでしょう。それを簡単に勧善懲悪モノにしなかったことにより、前述の「思っていたのと違う」という不思議さに繋がってくる。主人公たちの心を突き動かす正義は、残念ながらただの激しい思い込みであり、妄信・誇大妄想。大義を失った男たちの姿によって、所々で語られる教訓めいた言葉や、先程から述べている運命や偶然の捉え方なども相俟って、どこか戒めの寓話のようにも見えてきます。視野の狭くなった正義心で私刑や誹謗中傷に直走るネット民のことを揶揄しているかのようで、それもまた面白い。

世の中が、そして人々が(勿論、自分自身も含め)、如何にバイアスというものに支配されているか、と同時にそれが如何に愚かしいかまでをも考えさせられてしまいます。



 そしてラストシーン。運命の引き金かのように思われた無実の自転車が映し出され、ぐるぐると同じ所を回りながら終幕する物語。どこへ行くこともなく、もとい、どこへも行けないんじゃないかとすら思わせる程しつこく回り続ける自転車の姿は、見つかることのない理由や原因を求め続ける人間の思考のメタフぁ……いや、考え過ぎかな?笑


 実のところ、そんなに小難しいことを考える必要はありません。教訓めいたことも語られるけど、それは作品の雰囲気を彩るものでしかないのかもしれません。全体的に暗めだし、晴れやかな気分にはなりづらい展開が続いてきた中で、最期の最後、様々な形の弱者が、「なんか色々と勘違いだったっぽいけど、アイツら悪党だし構わないよね」と言わんばかりの暴論っぷりで悪党を痛い目に遭わせてくれる。そんな不思議な痛快さが残る一本でした。


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