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映画『リチャード・ジュエル』感想

予告編
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 1996年、アトランタ五輪会場の近くで爆弾を発見し、多くの人々の命を救った英雄にもかかわらず、FBIやメディアに容疑者かのように仕立て上げられた実在の警備員リチャード・ジュエルの実話を映画化した本作。

 そして、本日8月29日はリチャード・ジュエル氏の命日。もしよければ読んでくださいー。


 本文の中で「SNSやっていない」なんて述べていますが、例の如く公開当時の感想文なのでご容赦を。ツイッター(今は「X」?)に関しても、noteにアップした感想文を載っけているだけなので、まぁほぼやっていないのと同じかな、なんて。最近はそれすらも面倒になって投稿していないし笑。


危うさ


 アトランタ五輪会場の近くの公園で実際に起きた爆弾テロについての伝記映画。爆弾を発見し、被害を未然に防いだ第一発見者である警備員リチャード・ジュエルがFBIから爆弾犯の容疑をかけられていることをメディアが報じたことをきっかけに、無実の罪を着せられ、世間から糾弾されてしまった実話を描いた本作ですが、兎にも角にも主演のポール・ウォルター・ハウザーですよ!

 白状すると、タイトルにもなっているこの男性のことは全く知らずに観ていて、鑑賞後にネットで調べた時にはホントに驚かされました。んまぁーーそっくりなこと。本音を言うと、何回か見掛けたことあるな、ぐらいの認識しかなくて、そんな彼の主演作ってだけでも貴重に思える本作なのですが、主演俳優と役のモデルになった実在の人物がここまで似ていることはそうそう無い。『ボヘミアン・ラプソディ』(感想文リンク)のラミ・マレックとか『ウィンストン・チャーチル』のゲイリー・オールドマンとか、役作りや特殊メイクといった寄せ方ではなく、本人にそっくりな人間が演じているというシンプルなキャスティングは強みだと思います。(今話題の『2人のローマ教皇』とかも同様なのかな? まだ観ていないけど。)

 あと、調べていた過程で何より驚かされたのは、劇中でジュエルがインタビューを受けている映像がTVから流れるシーンがあるんですけど、その映像が本作のために撮ったものではなく、事件当時のリチャード・ジュエル本人の映像を使っているということ。もうね、ま……ったく気が付かなかった。悔しいっ笑! でもそれこそ、作品にリアリティを追求し続けているイーストウッド様々ってやつですかね? 悔しいではなく、「参った」と言うべきでした。



 本作で描かれているのは四半世紀近く昔の出来事ですが、現代の社会とまったく同じことが起きていると考えられてしまうから恐ろしく感じてくる。疑惑、容疑という、本来なら推定無罪とされるはずの事柄をマスメディアが過剰に吹聴するだとか、誤報が真っ先に、訂正や謝罪は最後に報じられるだとか……。マスメディアへの負のパブリックイメージの典型みたいなことが描かれているのは、人によっては不快に感じるかもしれません。とはいえ、現代ではSNSの普及によって、個人がマスメディアよろしく、無責任に正義を振りかざし、人を追い詰めている。SNSをやっていない僕からしてみれば、どっちも酷いもんだと思うし、むしろ訂正や謝罪すらしない現代のSNS中心の潮流の方が悪性というか質(たち)が悪いと言いたくなっちゃうのが本音です笑。



 本作はジュエル及びその周囲の人々の視点で描かれているから、基本的に彼の味方ではありたくなるし、事実、ジュエルは悪人ではない。ただ、ジュエルを含め誰しもが被害者に、そして加害者になり得ることを暗示しているのが本作の面白いところで、同時に怖い部分でもある。ジュエルは、人混みの中で一人だけ違う動きをしていたザックパックを背負った男を不審に思い、その後をつけたり、警備員として立派に職務を遂行していた。実際に彼が見つけた爆弾はザックパックに入っていたわけだから、その警戒心はあながち間違ってはいない。ただ、そのシーンに出ていたザックパックを背負った男は、友人に飲み物を差し入れに行っただけのただの一般人。かく言うジュエルも、その怪しげな動きをしていた一般人と同様に、同業者にジュースを差し入れていたし、爆弾が見つかった場所に直前まで座っていたり……。

 主人公だろうとモブキャラであろうと、誰もが疑われる、誰もが容疑者にされかねない危険や恐怖が絶えず潜んでいることを認識させらます。そして「してない」「やっていない」という「〜ない」ことを明示しなければならない悪魔の証明に手こずっている内に、彼の見た目やホワイトトラッシュという状況だけを理由に、ただの疑惑が “思い込み” や “決めつけ” へと変貌し、顔も名前もわからない人々が群れを成して襲って来る。たとえば「人種が〇〇だから」「宗教が△△だから」などもそう。未だに根深く残っている先入観、もとい、偏見や差別は、目に見えない凶器のように牙を剥き出す。先述のSNSが蔓延る現代の恐怖そのものと言っても過言ではないかもしれません。


 もっと言えば、味方目線だったとしても「疑われても仕方がない」と言いたくなるジュエルの言動も面白い。「何でそんなことしちゃうんだよ」「余計なこと言っちゃうんだよ」という危うさに翻弄されっぱなしになる。人によっては可愛くも思えるかもしれないジュエル自身の人柄は、文章だけでは上手く伝えられそうにありません。



 本作を見る限り、この事件によって失墜した彼の名誉は完全なまでには回復できていなかったように思えます。味方が居ない、そんな状況下で疑惑と相対し、彼が導き出す答えは、マジでかっこいい。心から尊敬します。


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