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映画『ようこそ映画音響の世界へ』感想

予告編
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底なし沼


 何年か前に『すばらしき映画音楽の世界』(感想文リンク)っていうドキュメンタリー映画がありましたけど、本作の邦題はそれをもじったのかな? 気のせいか……。
 映画の音響制作に携わってきたプロ、或いは、ジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグといった名匠や、各アワードの音響部門では無類の強さを誇るクリストファー・ノーラン監督……etc. 様々な人たちのインタビューを交えながら、文字通り、映画音響の奥深さや魅力について迫るドキュメンタリー映画。



 『スター・ウォーズ』『プライベート・ライアン』など、本作でインタビューに答える監督たちが手掛けた作品は勿論、古いのは『市民ケーン』から、近年で言えば『ROMA/ローマ』まで……。新旧問わず、そしてネット配信の映画まで、ありとあらゆる作品の話題が飛び交う本作故、大なり小なり映画についての知識が無いと話に着いていけないかもしれませんけど、音響への興味さえあればちゃんと楽しめるとも思います。

 そして、映画が好きで、尚且つ音響にも興味があるならば、本作は凄まじく面白いに違いない。たしか、本作の情報をネットで見つけた時だったかな? キャッチコピーだか何だかに「映画中毒が加速する」と書いてありましたけど、言い得て妙とは正にこのこと。この修辞を凝らした文句の一つだけで、僕の駄文を読む価値なんて薄れて消え去ってしまう笑。


 基本的に映画館は、真ん中辺りの座席で観るのが、一番具合が良いように作られていますけど、正直に言うと端の方の座席で観ても充分に楽しい。しかし内容が内容だけに、本作に限って言えばド真ん中の席で観られれば良かったなぁ、と若干後悔しています。「どこのスピーカーから、どのくらいの音量で音を……」といった、映画の音響に関する工夫の数々を、実際にそのシーンを見ながら確認できる瞬間が何度もあったので。


 映画には「セリフ」「効果音」「音楽」という音が存在し、それらが更に細かく分類される。その一つ一つに触れながら映画音響の魅力や重要性を知れるのですが、なにぶん、上映時間が90分程度しかないため、それぞれに費やせる時間がそれほど長くない。それ故、人によっては「物足りない!」「もっとこの話を聞いていたい!」と感じてしまうかもしれません。(余談ですけど、映画音楽に関しては先述した『すばらしき映画音楽の世界』、SEに関しては『アトムの足音が聞こえる』(感想文リンク)なんかを観ておいたおかげで、より楽しめたような気がします。)

 もちろん、その一つ一つについて触れることも大切なんですけど、本作で一番大切なのは、あくまでもそれらが合わさった “才能の輪”。作中で何度も語られたこの言葉は、多くの才能が集まり輪を為して作り上げるのが映画音響であり、延いてはそれが映画というコンテンツを何倍にも何十倍にも素晴らしいものにしてくれることなのだと教えてくれる言葉。

 物語を彩る音楽を作る者が居て、画面内の状況を鮮明にする効果音を作る者がいて、登場人物を演じる(セリフを言う)役者が居て……。音響デザイナー、映画監督、役者など、様々な立場の人たちが映画音響についての話を聞かせてくれるのですが、皆総じて、音へのこだわりが凄まじい。現実世界ではBGMが流れてくることは無いし、過度な効果音も聞こえてはこない。そういった正解の無い音作りに必要なのは単なる技術だけではなく、こだわり、つまりは音への愛。こういった信念を持つ人達だからこそ、“才能の輪” という形容がしっくりくるのだと思わされました。


 本作のラストは、様々な映画シーンの詰め合わせ。映画音響の話をいっぱい聞けて、繰り返しになるが映画中毒が重篤化した観客に対し、「映画が観たくてしょうがない!」と思わせるような締め括り。しかも最期の最後に流れるのが『スター・ウォーズ』のワープシーンなんですけど、まるで「これからも映画音響の世界は未来向かって進み続けていくんだ」とか「まだまだ味わったことのない映画(音響)体験に行くぞ」と言ってくれているかのような最高のフィナーレ。

 僕自身、映画への中毒はなかなかのものだと思っていた、いや、自惚れていましたけど、まだまだ軽症だったのかもしれません。この沼から抜けられなくなるかもしれないけど、それでも良いと言えるくらい映画が好きな方には是非お勧めしたい一本でした。


 ちなみに、世界初の長編トーキー映画である『ジャズ・シンガー』が紹介され、その過程で有声作品の難しさなどが『雨に唄えば』のシーンなどが用いられながら語られていくのですが、あくまでも本作は(ざっくり言うと)「セリフ」「効果音」「音楽」の順で話が進んでいきます。だから『プライベート・ライアン』の話の後にデヴィッド・リンチ監督の初期の長編映画の話になる等々、時系列を気にしてしまうと「ん?」となりかねないので、紹介される映画の順番自体はそんなに気にしない方が楽しめると思います。


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