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映画『アトムの足音が聞こえる』感想

予告編
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 昨日投稿した、映画『ようこそ映画音響の世界へ』感想文の中で少し触れていたということもあり、本日はドキュメンタリー映画『アトムの足音が聞こえる』の感想文を投稿しようかと。



新しきと古めかしきは時として表裏一体


 作品の途中、ある音が幾つか流れる。それぞれとても短いけど文字にするのは難しい、そんな音。でもたったそれだけの音なのに「あ、タラちゃんが歩いている」「カツオの頭の上に“?”マークが浮いている」なんて映像が頭に浮かんでくる。

 そう、アニメ『サザエさん』で使われている効果音が紹介されていたんです。幼少の時分から何の気なしに耳にし続け、もはや心象風景と相違ないぐらい脳内にインプットされている音の数々。現実には存在しないのに、本物以上に本物らしいそれらの真髄に(遠回りながら)迫っていく本作は、タイトルだけを読むと、アトムの足音から始まり、音響効果が作品にもたらすものを考察していくような内容だと思われるかもしれませんが、実際はアトムの足音を生み出した大野松雄という人物に焦点を当てたドキュメンタリー。

 ……なのに、その本人がなかなか出てこない笑。




 前半の間は、虫プロの頃から時間を共にしてきた人や彼の影響を大きく受けた人たちのインタビューが続いていきます。全体を通して「彼は変人だ」と言っているように聞こえる話ばかりでしたが、ここまででわかったことは、彼が音響の分野に関しては常人の域をとうに超えていること、そして何よりも、皆から尊敬されているということ。口にするエピソードの端々からそれが感じ取れてきます。



 途中からようやく本人の顔を拝めるのですが、彼は今、知的障がい者施設で舞台音響の仕事をしているという。「一体どういうことなんだろうか」なんて思いながら見つめていると、不明瞭ながら次第に感覚的に掴めてくるんじゃないかな。彼がここでやっていることは、延いては彼自身を表現しているに等しいということなのかもしれません。

 ここで改めて記しておくべきだと思いますので、繰り返します。本作はタイトルから想起されるようなものではなく、大野松雄という男の世界を映した作品です。




 「シンセサイザーで出せるか」という問いに何の迷いもなく「無理だ」と言い切ってしまう彼が生み出すその音は、間違いなく耳にしたことが無い類の音なのですが、その中にもどこか古さを感じてしまう。それはきっと、その音の数々が古い作品に使われていたからに過ぎなくて、シンセサイザーで作られたような音を新しく感じるのは、EDMなど現代のポップミュージックに用いられているからに過ぎないんじゃないかと思うんです。

 まぁ知ってはいたつもりでしたけど、自分は音に関してまだまだ凡人なのだと改めて思い知らされます。そんな本作は、ただでさえ形のない “音” から、見たことも聞いたこともない世界を聴き手の脳内に生み出せる彼が、何を考えているのかを、勿論到底計り知れるわけもありませんが、それでも、少しだけは理解したような、近づけたような気になれる映画なのかもしれません。


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