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映画『トムとジェリー』感想

予告編
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お馴染みのやつ


 白状すると、最初に実写化の報を目にした時は恐怖しかなかったんです。映画『名探偵ピカチュウ』(感想文リンク)や実写版『ライオン・キング』(感想文リンク)、『ダンボ』(感想文リンク)等々、CG技術の向上もあり、様々なアニメキャラクターたちが実写の世界に飛び込んできて、まぁここ何年かは概ね成功と呼べるものが多いんだけど、『ソニック・ザ・ムービー』(感想文リンク)の時みたいなビジュアル騒動になる不安も拭えなくてさ……。

当初の報道があった時点では期待と不安が半分ずつだったんです。だから、彼らが2Dアニメーションで描かれると知った時は素直に喜べた。監督もインタビューで「3Dでリアルに作ってみようか、だなんて議論すらしていない」と仰っていたらしいけど、そりゃやっぱりそうだよね! トムジェリがリアルになったら、車に轢かれてペッタンコになったり、体に風穴が開いたりといった、スラップスティックやアニメーション作品だからこそ許されていた表現が出来なくなり、いや出来ないっていうか、もしやったとしてもグロくなっちゃうだけだもん。



 実写化とは言っても、アニメとの融合である本作は、まるでマイケル・ジョーダンとルーニー・テューンズが共演した映画『SPACE JAM』を想起させてくれるようなビジュアル(個人的には『SPACE JAM』同様、トムジェリに勝るとも劣らない、畑違いのスーパースターとの共演を期待していた部分もあったから、その辺は残念。クロエ・グレース・モレッツも素敵なんだけどね)。

本作のアニメーションの面白いところは、人間以外の動物全てがアニメーションになっているところ。まさか市場の魚までアニメとは思わなかったけど、この統一感がとても良い。



 本作は、元ネタの『トムとジェリー』(以下;「アニメ版」と表記)を好きであれば好きであるほど、 楽しめる部分が散りばめられている。

とは言うものの、実はトムジェリ好きの中でも好きな ”世代” が分かれていて(僕は個人的にキッズとかテイルスがあんまり……💦)、ハンナ=バーベラの第一期(多分、一番有名な世代なんじゃないかと)が好きな人なら笑ってしまうシーンが多いんじゃないかな。その辺りは是非とも実際に観て楽しんで欲しい。

でもトムジェリ的視点で言えば、セリフの量に人それぞれで好みがあるだろうし、それこそキッズやテイルスに対する苦手意識にも近いだろうから、「トムジェリ好き!=即オススメ」とは言いづらい難儀さがあるのも確かかもしれません。



 実写との融合に際して、カメラの使い方がとても良かったように思います。時折、彼らの映るシーンがアニメ版に比べて、視点が ”低くない” 瞬間がある。人間の視点の高さで映されることが何度もあり、実写ドラマという人間世界に違和感なくトムジェリの存在が馴染んでいた印象です。

たとえばジェリーにスポットが当たるようなシーンでも、カメラを近付けてジェリーの表情を大きく映すなど、これまであまり見たことがない絵面(えづら)を拝めます。本作では、トムやジェリーだけの、要するに人間が映っていないシーンが、若干低めの視点、或いは、引き気味の広めの画角という、アニメ版ではお馴染みの画角で描かれるだけじゃなくて(もちろん、そういうシーンもたくさんあったけど)、いわゆる実写ドラマを撮るような画角で描かれることもあった。これも二次元とリアルの融合を滑らかにする工夫だと思います。

その他にも、ジェリーの部屋など、人間という比較物が無い空間においても、ホコリや光の具合でその小さな世界観が表現されていて、とても良かったです。この工夫はたとえるなら、映画『アントマン』でも同様の描写があったように思います。

もっと言うと、アニメ版ではあまりなかった奥ゆきのある動きがたくさんあったのも面白かったです。



 ……アニメ版と比較してばっかりで申し訳ないけど、ジョークの質が変化しているのも見どころかもしれません。半世紀以上も前から存在するトムジェリにはブラックジョークや差別的な表現が用いられたことも多かったんだけど、本作にはアメリカンジョークや皮肉的なユーモアが多く織り交ぜられている。多様性・包括性を重要視する現代の潮流を引き合いにしたのか、「猫差別だ」と言って雇用をもぎ取るくだりとかは、トムジェリの中では新しめのユーモアなんじゃないかな。総じて、リスペクトもあるけど変化への挑戦も感じられます



 「喧嘩するほど仲が良い」の代表と言っても過言ではなトムとジェリーの関係。でも喧嘩って、見方を変えればただの争い事。言い方を変えると、途端に聞こえが悪くなる。でも個人的に何となく感じるのは、この二匹の喧嘩は “敵意と敵意” ではなく、“本音と本音” というイメ ージであるということ(……たまには敵意もあるのかな笑)。あくまでも個人的にはね。

物語の中でも、恨み辛みといった負の感情が膨れ上がったことを引き金にした喧嘩——敵意と敵意——の後には、何も残らなかった。大袈裟な言い方だけど、社会に蔓延る誹謗中傷や争い、ヘイトクライム……etc. そういった争いからは何も生まれないことを暗に示していたようにも見えます。



 あの凸凹コンビが劇場版では協力して大活躍!というベタな展開そのものが超楽しかったし、最期の最後にお馴染みの悲鳴を聴けたのも笑ってしまった。締めの「the end」のシーンでトムの書いた文字が反転していたくだりが活きていたし、その面白さに隠れ、書体がアニメ版の書体という粋な計らいも見受けられた。きっと多分、次に本作を観る時にはまた新しい面白さに気付けるに違いない。そう思うと、(この歳になっても未だに)繰り返し何度も何度も観てしまう『トムとジェリー』特有の面白さが構築されている気にもなってくる。


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