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映画『Summer of 85』感想

予告編
 ↓

PG-12指定


過去の感想文を投稿する記事【34】


明日3/15(水)より、Amazonプライムビデオにて配信予定の本作。

もしよければ併せて読んでくださいー。


共感なんて不要


 冒頭、予告編のそれとはだいぶ違う印象の雰囲気から始まる本作。そして突然、第四の壁(観客の方)に目線を向け、語り出す主人公。おそらく本作で描かれることになる物語について「君の物語じゃない」などと言い出す。

どことなく突き放すような優しくない言い方に違和感を覚えた直後、映画はとても明るく陽気な雰囲気の本編へと切り替わる。最初は、斜に構えて観た方が良いのかな? ぐらいの認識で受け取っていましたが……うーん、多分、なんか違う。16 歳の主人公アレックス(フェリックス・ルフェーヴル)の繊細な心の在り様を誤魔化すことなく、ただただ丁寧に描き切った本作には、”共感する、しない” という次元の話は全く不要なのだと教えられたよう。



 ネタバレというか、結末を告知した上で始まる本作。冒頭で描かれたところから過去数週間の物語が描かれていく中で、何かしらの出来事や、友人ダヴィド(バンジャマン・ヴォワザン)との関係の変化といった、物語の節目ごとに、現在のアレックスたちのシーンに戻ってくる。そこでアレックスが何を考え、感じていたのか、そこにフォーカスする折、彼自身が上手く言葉にできない、或いは口にしたくないというタイミングで、過去シーンへと切り替わり、映像を通して追想するという構成。

特に過去パートについては、彼のモノローグが映像を補完しているように見えることがとても 多い。それは現在のシーンで、過去に何があったかを彼が文章に書き起こしているという描写に呼応させているよう。そんなとても正直で赤裸々な独白からは、深く傷つき混乱する彼が自分自身の頭の中、ひいては心の中を整理していることが窺い知れる。まるでそれは、悲しい現実を受け入れるかのような儀式にも見え、デリケートな十代の、たおやかで華奢で複雑な心理状態を体感しているよう。もしくは、想い出させられたようです。



 作品の造りというか性質上、アレックスとダヴィドの数週間の物語を描くシーンは、フランスの街並みの美しさや、80年代という時代感に合わせた映像の風合いも相俟って、非常に綺麗に見える。幻想的といっても良いかもしれません。まぁ人にもよるんだろうけど、過去の想い出をサッパリと記憶する方も居れば、その当時の感情に補正され、美化された記憶として残す人もいるわけで……。二人のシーンにはどこか現実以上に素敵な時間だったのだと思わせるロマンチックさがあります。

中でも好きなのが、”二人だけの世界” の描き方。例えば映画館のシーンでは、観客がいっぱいの一階席に対し、まばらにしか席が埋まっていない二階席に座るアレックスとダヴィド。一階席を映すカメラが上にトラックして、二階席の二人を映し、そこから徐々にカメラが寄って、同じ二階席に座っている周囲の観客も見切れていき、最終的に画面に映っているのは二人だけになる

あと、クラブで踊るシーンも良かった。爆音の音楽で大盛り上がりのクラブ内でヘッドホンを付け、周囲の音楽とは無関係の曲に浸る。 周囲を置き去りにした二人だけの世界のBGMの完成。少し妄想気味の意見を述べるなら、クラブ内を照らすストロボ照明により静止画の連続のように錯覚して見せることで、想い出の写真をパラパラめくっている時のようなエモさも同時に感じられます。まぁ、どれもこれもベタっちゃベタかもしれないけれど、幻想にも似た美化された過去と、十代という若さがその青臭さを成立させてくれているように思えます。


 あとは、そんな美しい過去の記憶を下品に見せない感じも凄く素敵。ある若者グループと揉め、お互いに怪我をして帰ってきたアレックスとダヴィド。洗面台の前で傷の手当てをし合い、消毒液が沁みるのか、若干の痛みみたいなものに体が一瞬強張る、もしくはそう思わせるよう小さな声・吐息が聞こえる。口元、身体、距離感等々、ここでの消毒し合う様子は、十代が迎える初夜のような空気感があります
その後、二人で部屋に入り、ドアを閉めるタイミングで「何が起きたか想像するのは自由」というアレックスのモノローグが入るシーンがあるんだけど、まぁ当然の流れだから、何が起きたのかは誰にだってわかる。ただ、そこでの出来事が、決して乱暴なものではなく、穏やかで、とても濃厚な時間だったのだと想像できたのは、前述の傷の手当てのシーンが活きているからなんじゃないかな。



 通常の、って言ったら何か不自然だけど、普段の映画鑑賞における考察は、いくら根拠や論理を並べ立てたとしても、ある種の思い込みに近いものがある(少なくとも僕の感想文はそうなんじゃないだろうか笑)。けど本作はもはや ”アレックスの想いでしかない” ので、本来なら僕のこんな考察やら感想文は必要ない。「共感する、しないという次元の話は全く不要」と前述したのは、そんな理由からだ。しかし、簡単には共感できない他者の想い≒知らない世界を追体験できるからこそ、映画の魅力であり醍醐味の一つ。とても素敵な作品でした。


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