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映画『tick,tick...BOOM! チック、チック…ブーン!』感想

予告編
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 来月に二度、7月1日(土)と7月28日(金)にWOWOWにて映画『RENT/レント』が放送予定なのですが、本作はそんな『RENT/レント』の作曲家であるジョナサン・ラーソンの半生を、アンドリュー・ガーフィールド主演で実写化した映画

 #Netflix で配信中の本作ですが、配信開始当時、ヒューマントラストシネマ渋谷で上映されていた際に観に行って……たしか一年以上前だったかな? その時に書いた感想文ですー。


焦り


 本作は、有名ミュージカル『RENT/レント』の作曲家であるジョナサン・ラーソンの半生を描いた、ネットフリックスのミュージカル映画。「これは是非とも劇場で観たい」と思わされた(まぁ常に思っている)んですけど、集客的なことを考えれば、配信でも観られる作品を上映するのは劇場にとっては簡単なことじゃないんだろうなぁ……。そんな中、上映してくれてありがとう! ヒューマントラストシネマ渋谷!

 とはいえ、観るタイミングが良かった。映画を観る時には、実はタイミングもとても重要。もしも落ち込んでいる時に本作を観ていたら……きっとヤバかったと思う。明るい曲調の歌から始まる本作ですが、その歌詞にはどこか後ろ向きな言葉が混じっていて、しかもその一つ一つが妙に自分とリンクする。「気持ちは22歳のまま」「30歳になりたくない」という、“自身の若さ” が少しずつ失われていってしまうような感覚が言葉になっています。その “自身の若さ” というのは、ある種、自身が持つ可能性とも同義な気がしてしまう。実際にはそこまでシビアじゃなかったとしても、当事者にとってはそう思えてならない。

 「中年に近付いてきて、腹が出てきた(太ってきた)」とか「既に子供が二人いる」とか、同級生や同世代の変化に気付き、自分とは時代も環境も違う縁の無い成功者たちの存在までもが目に入ってしまい、まだ何も成し遂げていない自分に気付いている。そんな心情を、主人公ラーソンが、時計の針音になぞらえて語る——導火線に火が付き、時計がカウントダウンを始める。チックタック……——。決して速いリズムじゃない、でもその一音一音が心を焦らせる。たしかにまだ導火線は残っている、でも短い。だから “BOOM!” の瞬間をついついイメージしてしまう。日に日に鮮明に、明確に。

 こういったセリフだけをなぞっていると、まるで自分への説教にも聞こえてくるからしんどい。その後のシーンでも、一つチャンスを逸する度に「今までの努力は一体~」「またアルバイトしながらの生活が続くのか~」等々、いい歳して夢を見ながらこんな生活をしている自身を恨みそうになる。



  ……そんでさ、わかるよラーソン。今回は形にならなかったけど、偉大な人、一流の人、力を持つ人から、シンプルな言葉で称賛されるだけで、「つらい」とわかっていながらも立ち上がってしまうんだ。その人たちは何の気無しに言っていたのかもしれないけれど、その言葉一つで救われてしまうのだから、それはある種、偉大な人や一流の人、力を持つ人たちの罪なのかもしれません。結果は出なかった、でもそれぐらいの価値を認められた。“その瞬間だけ” は、チックタックという音が、導火線のカウントダウンではなく、何かが動き始めたような前向きな音に聞こえてきてしまう。本作でもそんな瞬間があった……いや、そう願っていたからそう聞こえてしまっただけなのかも。



 ラーソンの独白みたいな内容の歌唱シーンが多い中、時折そうではないシーンが挟まれていたのも面白かったです。彼の作品の視聴会で、演者の一人がソロで歌い出すシーン。彼自身の状況と歌詞が重なり、彼と彼の元恋人スーザン(アレクサンドラ・シップ)との二人だけのシーンへと変わっていく。自分のやりたいことで頭がいっぱいになっていたラーソンと、それをわかっていたから我慢しながらも彼を応援していたスーザンが、互いに想いを吐露し合う。そこへの繋ぎ方が綺麗だったのと、その歌がラーソンにとっての晴れ舞台を彩る歌唱だったのもあり、物語の中でも特に印象的なシーンだったんじゃないかと思います。


 一方、親友のマイケル(ジョシュア・ヘンリー)とのシーンでは逆に歌唱を挟まない見せ方になっていて、これまた面白かったです。喧嘩……というか彼からラーソンへの怒り・説教みたいなシーン。わかってはいる、わかっちゃいるけど、実際に言葉にされると胸に刺さる「君は大切さを見落としている!」という言葉。どれだけつらかろうが〈夢を追える幸せ〉を見失っていたラーソンに対し、〈有限の時間〉を強く理解しているマイケルの言葉。ラーソンに限らず、観客にも訴えかけているくらい力強いセリフ。

その後、マイケルがあることを告白するシーンでも同様に歌唱は挟まれなかった。そしてその告白にこそ、時間が有限であることを彼が強く理解している理由がある。前出のシーンがちゃんと呼応していた素晴らしいシーンだったと思います。

もっと言うと、作中、歌のアイディアの為にラーソンが様々なことをメモする描写があり、その都度「恐怖か愛か」「籠か翼か」などといったワードを視覚化して表現していたため、観客目線としてはより一層、ラーソンが大切さを見失っていたことが浮いて見えていたのかもしれません。



 選ばれないつらさ、努力に付随する不安感や焦燥感、応援してくれる人達への有難さ等々。人によってはめちゃくちゃ感情移入してしまう作品かもしれません。


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