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心不全と闘う。フィンランドの医療機器ビジネス専門家
40%。
心不全を患った方で亡くなる、または一年以内に再入院する人の割合です。ヨーロッパだけで年間約20万回の冠動脈バイパス手術(CABG)が行われていますが、手術時の動脈遮断を原因に虚血再灌流障害という重篤な合併症を引き起こすことがあります。
「虚血再灌流傷害とは、血流が止まって酸素不足(虚血)になった組織に、再度血流が復帰(再灌流)することで引き起こされ、急性心筋梗塞や脳梗塞、さらに手術時に物理的に血流を止めた場合にも起こりうる傷害です。虚血により壊れた細胞の内容物や損傷部位に集まった物質が、再灌流で全身に運ばれて障害を引き起こすと考えられています。また、再灌流によって大量に活性酸素が発生し、より組織障害が増大します。」
これにより心室壁の筋層が薄くなり心臓の収縮性が弱まる(心臓を収縮させる心筋の動きが悪化する)ことで、心不全のリスクが上がってしまいますが、現状この傷害に対する確立された治療法はないと言われています。
しかし、フィンランドのヘルシンキ大学では10年以上に渡り"CARDIAC MICROGRAFT THERAPY"という新しい治療方法の研究が行われてきました。
CARDIAC MICROGRAFT THERAPY:
"The starting point of the developed treatment is to utilize the patient’s own cardiac tissue as a therapeutic graft, which can be done easily in connection to a CABG surgery."
" A small sample of the patient’s cardiac tissue can be collected safely in connection to the surgery for the graft. "
"These grafts are then cleaned and positioned on top of the damaged area in the heart muscle with the help of a commercially available cell-free connective tissue matrix (epicardial application)."
この治療方法は、患者自身の心臓組織の一部をバイパス手術中に抽出し、細かなサイズにして損傷した心筋の箇所に移植するという方法です。画期的なところは、その効果は勿論ですが、一連の移植作業がオペ室で行われることで細胞操作(cell manipulation)に通常必要な高額なコストを抑えられること、そして関連する法規制*の対象外になることです。
*欧州 ATMPs: 体細胞治療医薬品を含む先端医療医薬品
*米国 HCT/P: ヒトの細胞や組織、またはそれらを基にした製品
数々の臨床試験(動物・ヒト)を経て、本治療方法をより多くの病院で用いられることで心不全患者を減らすことを目的に大学からスピンアウトしたのがEpiheart社です。
その創業者の一人、現在CEOを務めるのはKai Kronström氏。
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医療機器ビジネス立ち上げのスペシャリストです。
これまで医療機器を中心としたスタートアップを複数立ち上げ、CEOとしてビジネスを軌道に乗せた経験を有します。本人曰く「常に何か新しいものを創り出したいという「好奇心」と、世の中に必要なことを誰もやらないのであれば自分がやらねばという「責任感」に突き動かされてきた」とのことです。Kronström氏のこれまでのキャリアや価値観について、詳細をインタビューにて伺いました。
Nokiaから従業員1人のスタートアップへ
タンペレ大学の経営工学科*で修士号を取得したKronström氏は、卒業後に大手テレコム会社を得てNokiaに就職します。「何か新しいものを創り出したい」という強い信念は当時から顕在でした。同社でProduct managerとして活躍していましたが、社内のスピード感や携帯電話というカテゴリー内に限定して何か新しいものを創り出すことへの物足りなさを感じてしまいます。結果、Nokiaは1年半ほどで退職し、その後他のテレコム会社に転職します。しかし、それでもまだ知的好奇心が満たされずにいた矢先、アールト大学のある教授との出会いでKronström氏は大きな決断をします。同氏が従業員第一号となるスタートアップへの転職です。
*当時の名称:Tampere University of Technology
*経営工学科:Engineering, Industrial Engineering and Management
2006年、人生を変えた医療機器との出会い
教授は初期のMRI装置の開発に携わった方でした。Kronström氏が関心を持った点は、MRI装置を含む医療機器のそのカテゴリーの多さです。携帯電話は携帯電話しかありませんが(スマホのようなイノベーションは除きますが)、医療機器であればメスなどの小型の器具から、心臓のペースメーカやMRI装置などの大型の機器まで、多種多様です。「医療機器では新しいカテゴリーを創り出して、それをMRI装置のようにスケールさせるチャンスが多い」と直感で感じました。
そんな教授が新たに開発したのが介護施設向けのフロア・センサーでした。介護施設利用者が倒れたときに、床に敷いたセンサーが介護者にアラートを出すというものです。
Kronström氏はこのセンサーの会社への入社を考えます。医療機器分野に自分の人生をコミットしても良いのか。答えは明確でした。実は30代の頃、ガンを患い120日間の入院、闘病生活を送ったことがあります。それはとても長く、心身ともに辛い経験でした。このセンサーを広めなければ、病院送り、または最悪のケース死亡してしまう人が増えてしまう。
同氏は本製品のビジネスとしての大きな可能性もですが、このセンサーをより多く広めることへの責任感も感じ、社員第一号として入社する決断をします。
Epiheartの創業、今後の展望
センサー会社を最後はCEOとして首尾よく率いた後は、スマートニードルの会社を共同で創業、CEOとして事業を拡大し、2,5Mユーロの資金調達を成功させた後に代表としてのバトンを後継者に引き継ぎます。医療機器ビジネス立ち上げのスペシャリストとして箔を付けます。
その後次の新たな医療機器を模索していたところ、ヘルシンキ大学のEsko Kankuri教授と出会います。教授より上述のCARDIAC MICROGRAFT THERAPYのニーズや実証実験の進み具合い、オペ室で完結する作業でコスト減の実現と法規制の対象外という明確な差別化要素などの説明を受け、教授と共同でEpiheart社を創業します。
そして創業して数年後、同氏の力強いリーダーシップのもとでEpiheart社は大きなマイルストーンを達成します。2022年8月、初めて同社の治療方法・関連機器が実際の患者に使用されました。
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初めて患者に使用された時の様子
「どの医療機器も初めての患者に対する使用は大きなステップ。今後はその有効性をより立証するために、さらに多くの使用ケースを増やしていく」とのこと。
Kronström氏の飽くなき好奇心と、同社の治療方法と関連機器を必要としている人たちに応えていくための責任感でどんな困難も乗り越えていくと確信しています。
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