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賽を振るは、神か人か -5-

 特段の仕掛も確認できなかった引き戸の玄関の先に待っていたのは、一人の女性だった。第一印象でいえば、インターネット扇動行為とは程遠く見える。

 こちらに朗らかな笑顔と共に会釈してきたその女性の容姿は、長い黒髪を左肩に流す形でまとめており、高い背丈にスミレ色の給仕服を乱れなく着こなした姿だ。

 言うまでもなく、危険だ。来訪者を排除する先ほどの機構、実際に排除された先遣隊。それらの事実と噛み合わない目の前の女性は、論理的に考えるならばこの屋敷に組み込まれている脅威の一部である。

「お初にお目にかかります。私、この屋敷の主人に仕えるセレンと申します」
「ドーモ。早速で悪いんだが俺達は政府機関の業務委任を受けて御宅の調査に」

 そこまで俺が雑に説明した所で、セレンに6・Dが見とれていることに気づく。どうも一部好みのポイントがあったらしい。

「6・D」
「マスター、しっかりしてください」
「おっ、オウ!俺は大丈夫、だ!」

 俺とクリスに両端から同時に突っ込みを受けてようやくしゃんとした6・Dはしどろもどろに要件を述べた。

「あー、そう、そういう訳なんでこのお屋敷で良くない事が行われているかもしれないんで調査させてほしいんだ」
「あら……それは困ってしまいます」

 言葉通りの困り顔を彼女が見せた途端に、奥ゆかしいがありきたりな造りだったはずの玄関が一変。四方の下から鉄格子がせり出して瞬時に俺達を捕獲した。

「南無散!」

 即座に握ったままだったマチェーテでもって阻む鉄格子を切り裂き脱出口を作るが、そこから俺達が脱出するよりも早く鉄格子ごと床が下に沈み込んでいき、周囲を壁に囲まれてしまった。どこぞに設置されたスピーカーからセレンの声が伝わってくる。

「恐れ入りますが、調査をお受けすることはできません。諦めていただきたく存じます」
「諦めない、と言ったら?」
「降参していただけるまでそちらで過ごしていただく事になるかと」
「温情痛み入るね」

 少なくとも即座に酸のため池に放り込んでどうにかこうにかしようという訳ではないらしい。しかしご丁寧に通信、転送の両方が遮断されているために、遠隔でソウルアバターを起動して無理矢理脱出するという手は使えなかった。

「かといって固体の中で起動しちまうと『いしのなかにいる!』になっちまうしな……」

 この狭い空間内では無理にソウルアバターを起動するのは悪手だ。時と場所の制約が軽いソウルアバターでも完全に無制限、というわけにはいかない。

 俺が武器を収めて脱出の算段を考えている横で、6・Dはというと地面に突っ伏して落ち込んでいる。そんな彼にペシペシ衝突して喝を入れるクリス。

「6・D」
「いやあ、はは、その……やっぱり敵かぁ……そうだよなぁ……」
「失望しますよ、マスター」
「ヌグァ!!」

 大げさにのけぞったリアクションを見せる彼を他所に、トラップエレベーターがたどり着いた場所を見回す。10畳ほどの天井が低く俺の手が簡単に届く位の密室の一か所に、監禁にうってつけな鉄製のドアが備え付けられていた。もっとも、半開きなので錠はかかっていない。

「まあ元気出せ。相手の事情を知れば和解の余地はあるかもしれん」
「……!そうか、そうだよな!気を取り直して調査再開だ!」

 何とかやる気を取り戻して自ら先頭に立ってドアから出た6・D。そんな彼の後を追うべく踏み出した俺にクリスから質問が降りかかる。

「R・Vさんは和解の余地があると本当にお考えで?」
「皆無ではないだろうが、望み薄、だな」

 こちらが率直な見解を返すと了解したと言わんばかりに彼女は上下し、主人の後を追っていく。

【賽を振るは、神か人か -5-:終わり:-6-へ続く

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