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『ブラッカムの爆撃機』レビュー

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『ブラッカムの爆撃機』
~チャス・マッギルの幽霊 / ぼくを作ったもの

ロバート・アトキンソン・ウェストール (著)/ 宮崎駿 (編) / 金原瑞人 (訳)

イギリスの図書館協会CLIP(Chartered Institute of Library and Information Professionals)から贈られる児童文学の賞「カーネギー賞」を受賞している児童文学作家ロバート・ウェストール(1929-1993)の作品集です。

表題作『ブラッカムの爆撃機』と『チャス・マッギルの幽霊』『ぼくを作ったもの』の3編。それに、彼の晩年ともに暮らしたリンディ・マッキネルによる略伝『ロバート・ウェストールの生涯』が収録されています。

なんて、言うだけならばまるで(?)普通の本なのですが、この本は違います。

そう、あのアニメ映画監督の宮崎駿さんがこの作家、ウェストールさんに惚れ込み、彼の故郷であるイギリスはタインマスを訪ね、描いた『ウェストール幻想 タインマスへの旅』という漫画が入っているんです!
本編を挟むように前後編で、味わいのある水彩フルカラーで24頁もあります。

これがまた熱い内容なのです。

収録3作の、日本人(そして当時の爆撃機の事を知らない読者)に分かりにくそうなところをビジュアルで説明してくれているほか、実際に宮崎さんがこのお話を読んで感じたこと、

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ウェストールさんのすごさなど微細にマンガで描いてくれちゃっています。

私も本編を読んで感服してしまいましたが、ウェストールさんの文章はほんと、ものすごい描写力なんです。

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(これが児童文学ってところがまたすごいですが)
それを、さらに(兵器・航空機マニアでもある)宮崎駿さん描くビジュアルでマンガで説明してくれているんですからもうスゴイが凄くて相乗効果で何乗にもなっている感じです。

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↑こんなの、豪華すぎるでしょ!! 英爆撃機マニア(なんてどのくらいいるのか知りませんがw)はヨダレをたらして紙面を汚してしまいそうですw

そして、ウェストールの足跡を訪ねてあるく宮崎駿さんの哀愁がまたよいですね。

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※『"機関銃要塞"の少年たち』は1975年のカーネギー賞受賞作

戦争大嫌いな兵器マニアである宮崎さんの、いつも先を歩いていたウェストール。

彼もまた、宮崎さんのようにとてつもない描写力でひどく丁寧に(子供向けの児童文学だからといってまったく手抜きをせずに)戦争で使われる兵器を描き、その兵器に乗り込む血の通った人間たちを描きました。

幻想の世界で出会う二人の巨匠の姿は、そのまま宮崎駿さん描くところの『風立ちぬ』のゼロ戦設計者・堀越二郎と、イタリアの飛行機設計者のジャンニ・カプローニ伯爵の姿と重なって見えてきます。

『風立ちぬ』が2013年の映画で、この本が編まれたのは2006年ですから、このマンガは確かに『風立ちぬ』につながっています。そして、もう一つのヒコーキ映画『紅の豚』が1992年。『紅の豚』公開の翌年にウェストールさんは亡くなっているんですね。タイミングがもし会えばお二人は現実で出合えていたのかも。。とか、詮の無いことをつい考えてしまいますが、ともに同じところを歩いた文学と映像の表現者どうし、すこしの時間の差など関係なく同じ空の下で通じ合っているのでしょう。

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さて、『ブラッカムの爆撃機』と宮崎駿さんの話ばかり書いてしまいましたが、一緒に入っている『チャス・マッギルの幽霊』と『ぼくを作ったもの』ももちろん素晴らしい作品です。

どちらも少年の勇気や憧憬と時間をテーマにした逸品です。こりゃあ宮崎駿さん好きになっちゃうだろうなあというお話たちです。
『ぼくを作ったもの』なんて、男の子の作られ方、構成要素がとてもよくわかります。なるほどねえ。

そして、三篇読み終えてから、また宮崎駿さんの漫画を読むと、これがまたしみるのですよ。

お話の中で描かれていた風景や人物が「そうそう! こんなかんじ!」と眼前に現れます。(なぜか犬のタウンゼント大尉かっこいいぃ!!♡)

おそらくは大きくなっても子供の心を持っている男子必読の書なんじゃないかなー。

二度読み、三度読み推奨の、児童文学の傑作。それが宮崎駿さんの漫画と装いとで丁寧に包まれて、日本語で読めてしまうのです。

大人の味の苦い珈琲でも入れて、秋の夜長にゆっくり読んでほしい。そんな逸品です。

(トップの写真はミルクいれちゃってますけどねーw)


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