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【インサイトコラム】“With/After コロナ”のマーケティングリサーチ ニューノーマル

「この嵐もやがて去る。だが、今行なう選択が、長年に及ぶ変化を私たちの生活にもたらしうる」
- ユヴァル・ノア・ハラリ(歴史学者・哲学者。『サピエンス全史』『ホモ・デウス』著者)

今回の新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大はリサーチ業界にもとても大きな影響を及ぼしました。そして、ハラリ氏が言うように、リサーチ業界にも今後長期に及ぶ変化をもたらすのではないかと思います。

リサーチャーの働き方への変化としては、今後は在宅勤務が一定の割合で増えてくるのでは、と思います。元々リサーチャーの仕事は一人で作業をすることも多く、自宅での仕事には向いている部分もありますが、そもそもそうした制度が各社で整備されていなかったり、在宅勤務下では時間管理が難しくなる、などこれまでなかなか進んでこなかったのが事実です。それが今回の新型コロナウイルスで一気に加速し、在宅勤務で効率よく仕事をすることもできる、というのがわかってきました。通勤のストレスがない、移動時間がない、人によっては、周りを気にする必要もなく声をかけられることもないのでかえって集中でき、効率よく仕事ができる、といったプラスの面も見られたのではないかと思います。もちろん、個々人がしっかり規律を守り、しっかりと結果を出す、ということが大前提ではありますが、残業規制に加えてリサーチャーの新たな働き方改革、と言えるのではないでしょうか。

もう1点は、対面型(オフライン)調査についてです。いちリサーチャーとしては、まさかFGIができなくなるなどと想像したこともなく、まさに今回の新型コロナウイルスの影響は想定外の出来事でした。そんな中で急遽FGIをオンライン化したり、CLT調査をオンラインでできるだけ代替したり、と半ば強制的にオンライン化を強いられてきましたが、非常事態宣言が解除になって以降、徐々にオフラインでの対面調査が再開されてきてはいます。弊社では7月も在宅勤務を継続しており、その中であらためて今後の“With/After コロナ”の時代に、これらオフラインでの対面型調査を再開するべきか、もう少し長期的な視点を踏まえて何をするべきなのか、様々な議論をしてまいりました。
それは、今後のオフラインでの対面型調査は、調査員、対象者、クライアント、我々リサーチエージェンシーの社員、すべての関係者が厳重に感染予防対策をして実施せざるを得ない中で、効率面ではかなり悪くならざるを得ないと思いますし、仮にこうした予防対策をしたとしても、リスクをゼロにすることはできません。また、こうした状況が今後どれだけ続くか先が見通せない中、今後のオフラインでの対面型リサーチの在り方については、慎重に考える必要があると思われます。

これまでもマーケティングリサーチは様々な世の中の変化を受けて、変遷を遂げてきました。私がマーケティングリサーチを学びだした頃はまだランダムウォークでサンプリングの代表性をできるだけ担保して訪問調査を実施しておりましたが、個人情報保護が強まり、セキュリティに関しての感度の高まりなどから、今ではこうしたサンプリングは難しくなっています。電話調査も携帯電話の発達により、大きく影響を受けました。
また、インターネットが整いネット調査が主流になってくると、それまでのオフライン調査がどんどんオンライン調査に移行し、それまで蓄積してきたノームをあきらめる、というような経験をされた方(またリサーチャーでは、何とか引き継ぐ方法はないか、と様々なアプローチを考えた方)もおられるのでは、と思います。その後も生体反応を取り入れてみたり、ビッグデータとの融合、AIの活用など、様々な変化を経験してきました。

最終的には、弊社では、
1.調査関係者の保護:これは、調査員や対象者のみならず、クライアント様、我々従業員、リサーチにかかわるすべての人を感染から保護するためには、様々な対策を実施して対面型の調査を継続するよりは、できるだけオンラインへ移行するべき、と考えました。
2.調査手法としての継続性:今後の継続的な新型コロナウイルス感染症の影響発生を鑑み、調査全般のオンライン化を推進することにより調査中断リスクを軽減し、クライアントの事業活動への影響を軽減するべき、と考えました。

という観点から、「どうやればオフライン対面型の調査ができるようになるか」ではなく、「どうやれば対面型の調査をオフライン以上の価値を提供する方法で実現できるか」と考えるべきではないか、との結論に至り、オフライン対面型調査をオフラインでない、オンライン上での実施に極力移行していくことを決意しました。ですので、今回の新型コロナウイルス対策として一時的に、強制的に進めたオンライン化を、単にこれまでの対面型調査の代替手法、ととらえるのではなく、これまでよりも更に効果的に消費者の意識を把握する手法を創り上げるという意志を持ち、推進して行こうと考えました。

先にも例として挙げました、かつての訪問調査や電話調査がインターネット調査に変わっていったように、オフライン型の定性調査からオンライン型の定性調査が主流となる、またオフラインのCLT調査からオンラインCLT調査(我々はこれを新たにRemote Location Test調査=RLT調査、と呼びたいと思います)が主流となるよう、クライアントとはいろいろな試行錯誤をご一緒させていただきながら持続可能でこれまでにない新しい発見が得られるような方法に取り組んでまいります。

「多くの人は、昨年12月に過ごしていたような生活が数週間後に戻ってくることを期待するだろう。だが、残念ながら、事態はそれほど甘くはない。」
- ビル・ゲイツ(マイクロソフト創始者・ビル&メリンダ・ゲイツ財団共同会長)

今こそ何か新しい一歩を踏み出す必要がある時だと思います。


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