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【アート×離島医療×教育】 〜女性が幸せな島は幸せな島〜

先日「対話型鑑賞」というアートを利用した教育方法に出会いました。


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対話型鑑賞で学んだことを活かせる場所はないかな?って考えている時に、ある案件が転がり込んできました。


僕が産婦人科医として働いている奄美大島には奄美看護福祉専門学校という専門学校があります。奄美大島の子だけじゃなくて沖縄や隣の島からも将来看護師、介護師になりたいという子たちがここで資格をとり、自分の島に帰っていきます。


そこで、「母性」の授業をしてくれませんか。という依頼が来ました。


「ここだ!ここで【アート×離島医療×教育】の実践をして、素敵な看護師さんを育成すれば将来の離島医療に絶対貢献することになるぞ!」とワクワクしながら授業の資料を作りました。


そして、迎えた当日。


僕はアートが生み出す奇跡の瞬間を見る事になりました。



授業前、奄看(奄美看護福祉専門学校の略)出身の看護師さんに「母性」の授業覚えてるかを聞いてみると、大体みんな「覚えてない」「寝てた」という返事が返ってきました。


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まあ、確かにラーニングピラミッドから考えると「授業」する事自体が意味ないよなと。


そこで、今回僕は「対話型鑑賞」「演劇」という二つのアートを軸に授業をする事にしました。


今回「対話型鑑賞」に使ったのがこちらの絵。


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コトク「みなさんこの絵にはどんなことが書いてありますか?どんな絵ですか?気づいたことはありますか?」


生徒「大事なお腹が取れて涙が流れています」


コトク「お腹が取れて、面白いですね!どこからそう思いましたか?


生徒「その赤いお皿みたいなのと、お腹の穴が一緒の形だから」


生徒「女の人が泣いています」


コトク「女の人という意見が出ましたね!どこからそう思いましたか?


生徒「髪の毛が長くて、顔の形とか洋服とか、、」


などなど




「どこからそう思いましたか?」


「対話型鑑賞」では、自分が感じたことや思ったことを「どこからそう思いましたか?」と尋ねられる事によって実際に絵の中にあるものから「根拠」を探すようになります。

そこで、事実と考察を分けて考えるようになり、理論的思考が身につくようになります。


また僕が「どこからそう思いましたか?」と尋ねるとみんなの視線がまた絵に戻り、発話者が話始めるとみんな耳を傾けて答えを聴くようになりました。


そこで、発話者は表現力を、他の人は人の話を聞く力洞察力が鍛えられます。


対話型鑑賞をする事によってケアに大事な観察力考察力そして表現力が身につきます。

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次はより実践に近い形でケアの力を身につけていきました。


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劇作家の平田オリザさんは「生きることは演じること」と言いました。


僕らは医療者であるが、その前に1人の人間です。


根っからの聖人君子なんていません。


それでも、僕たちはプロとして、患者さんの前では常に医療者としていなければ、完璧な医療者を演じなければなりません


そこで、医療者を演じる、患者役を演じる事により、独りよがりでない、良いケアができるようになると考えられています。


4-5人のグループになっていただき、①新米看護師役 ②患者さん ③付き添い ④観察者の役割を短時間で回して、色んな症例をたっぷり60分間演じてもらいました。

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毎回、役作り30秒、ロールプレイ2分、フィードバック90秒を繰り返しました。


フィードバックが終わった後に、僕は色んなグループにインタビューに行きました。

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コトク「評価者の方は誰かな?看護師さんはどうでしたか?」


評価者「患者さんの目をみて、丁寧な話し方で良かったです」


コトク「素晴らしいね!”相手の目を見る”のはケアの基本だね!ケアしているよ、という気持ちを”非言語的に”表現する一つの方法だね!良いですね!」


そうすると、次の回では全部のグループで相手の目を見るようになりました。



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こんな感じで僕はあえて難しい単語が入った症例を準備しました。もちろんあきこさんは架空の人物です。


最初はみんな凍結胚移植、NIPT、、こんな難しい単語を知りません。それでも役作りの時に必死で調べて、それを何度も説明したり、同級生が説明しているのを聴いているうちに、最後の方は「NIPTは胎児のDNAの異常をお母さんの血液の、、」とスラスラ、患者さん役の方にわかりやすく説明するようになりました。


あっという間に90分が経ちました。


授業の最初に僕は

「良いケアってなんだろう?」


と聞いてみましたが、それを具体的に説明できる子はいませんでした。


しかし、90分後には一人一人の子が「良いケア」とは何かを理解し、実践できるようになっていました。


それが一番実感できたのは、評価者の子にインタビューをした時に、後半になるにしたがって、どんどん素晴らしい言葉が出てきたからです。


「知識がしっかりあり、それをわかりやすく患者さんに説明していました。」


「優しく、丁寧な言葉で患者さんのことを気遣っていました。この看護師さんなら信頼して良いなと思いました」


などなど、アートが医学教育にもたらした奇跡を目の当たりにして、僕自身が感動してしまいました。


僕は女性が幸せなコミュニティは持続可能で、幸せなコミュニティだと思っています。


「母性看護学」を学ぶ意味はなんだろう?


僕の授業でそれをみんなが見つけてくれたら幸いです。






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