《19歳の冬、私は大人になったつもりでいた。②》
有料にしてますが、最後まで読めます。
飲みの当日。
指定された待ち合わせ場所は、私の自宅からは遠い上、アクセスも良くない駅の改札前だった。
年上の人と会うときのクセで、待ち合わせ15分前には駅に着く電車に乗った。
夕方ともあり、まぁまぁ電車は混んでいる。
「改札前のベンチにいます」というLINEがきたのは、待ち合わせの20分前。
もう少しで駅に着くというタイミングだった。
自分のペースを崩されたような気持ちになりながら、駅のトイレでバタバタと化粧と身だしなみを整え、指定場所に向かう。
服装は、数日前から考えに考えて決めた、普段はあまり着ないような、女性的かつ強気で露出少なめな服装。
この人にどう思われたって構わないけれど、私のプライド的に万全の状態で臨みたかった。
待ち合わせ場所にいるNは、 私を見つけて手を挙げた。この人の顔は嫌いじゃないんだけどな、とぼんやり思う。
当たり障りのない話で場を繋ごうと思ってサークルの話をしたけれど、微妙な空気感で「外した」ことを察した。
何がいけなかったのかはわからないけれど、より評価を下げたのはわかった。
あーそう、嫌いなもんは嫌いなのね。
考えれば考えるほど、から回る。
もう一人の先輩が来る前に、特に何も気は遣わず、自然体で楽しようと思った。
どうせ、次はないし、どうなったっていい。
***
飲み始めると、何故かとても楽しかった。
好きじゃないはずの牡蠣も、なぜかおいしく感じる。
楽にしていようと思ったからなのか、嘘のように楽しくて、勧められるがまま飲んだ。
何を話したかまでは覚えてないけれど、先輩2人ともかなり笑ってたことは覚えている。
そして、はじめて酔っ払った。
帰るとき、店の階段から数段転げ落ちて、自分がかなり酔っ払ってることをやっと把握した。
サークルの飲み会では、どんなに飲んでも酔っ払うことはなかったのに。
ちゃんぽんしたから?体調が悪かった?普段はこのくらいでは酔わないのに?
わからない。
店を出たときには、問いかけに答えられないくらい気持ち悪かった。
***
大丈夫です、自分で帰れますという私に、二人の先輩は首を振る。
自分でもわかる、これじゃ1時間以上かかる道のりは帰れそうにないことくらい。
Nが送っていくと言い出した。本当はNなんかに借りを作りたくなかったが、一人で帰れる自信はなかったし、何より話していて「この人、嫌なだけの人じゃないな」と思っていた。
いや、正直に言おう。
「私、この人と波長が合う」と直感的に感じていたのだ。
Tは、私の状態を心配しながらも、自分もかなり酔っているからといって帰っていった。
***
二人きり。
待ち合わせ場所で喋った時とは違い、気まずさはなかった。
「意識失われると困るから、住所だけ教えて」と言われ、言われるがままに答える。
夜21:00だというのに、泥酔している私はとても滑稽で、浮いていた。
馬鹿みたいだと思いながらも、意識は溶けていきそうになる。
私の最寄り駅に着いたときには、酔いは少しさめていた。酔いがさめるのは早いのね、とどこか冷めた目で自分を見る。
どういう流れか、少し私の地元を散歩することになった。家とは逆方面にのんびりと歩き出した。
いろいろな話をした。
どんな話かは忘れたけれど、心地よかったのは覚えている。
狭い道に入ると、肩を抱かれた。危ないからとはいうけれど、泥酔してた時とは違うのはわかる。体が離れる時に、指が絡められ、ほぼ無意識に私はその指を握る。
何やってるんだろ、面白いからいいか、うん、大丈夫、別にいい。
私の地元はいかがわしいホテルが多い。その前を通るたびに、「ここ行く?」と聞いてくる。いやいや、と曖昧に笑ってごまかす。大人ぶった言葉の駆け引きは楽しいけれど、そういう関係にはなりたくない。
セカンドとか、面倒なことは嫌だし、冗談を言い合うくらいの仲のいい先輩後輩でありたい、と思った。
***
私の門限が近づいたので、私の家の方へ向かう。「今度、サシでどこか遊びに行こう」とNは言う。話していることは楽しいし、これくらいなら先輩後輩の範囲内だろうと思い、「いいですよ」と答えた。
今考えれば、この時点でやめるべきだったと思う。でも、サークル内に仲のいい人がいなかった私は、ひとりぼっちだった。
無意識に、「近しい誰か」を求めていたんだと思う。
どういう形であれ、何番目であれ、求められていることが嬉しかった。
Nの顔が近づく。とっさにそっぽを向いた。Nは私の頰にキスして、ニヤッと笑って帰っていった。
何かが崩れた気がした。
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