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大学生のいいわけに流される

 ある都内の私立大学、後期は「対面授業」だった。新型コロナとともに遠隔授業が流行っているが、語学は演習科目として事務方から夏にお達しがあったのだ。ただし「学生が体調不安など訴えれば個別に対応せよ、既往症や家族構成等から通学に不安のある学生もいるので柔軟に」との注記あり。

 要するに希望があれば「対面と一緒に遠隔もやりなさい」というわけである。もちろん給料は変わらない。教員の負担など目クソ鼻クソにしか考えていない職員の言い分だが、非常勤風情に文句は言えぬ。

 10月第一週の後期初回、1限の「TOEIC英語」、いざ教室へ入ってみればたったの4人しかいない。準備していたZoomを開けばぞろぞろ50人、訊けば上記「個別対応」の御触れが学生にも回っているとのこと。

 そりゃ「不安」の一言で朝から出てこなくて済むのならこうなるわよ。揃いも揃って「通信環境」のせいでカメラOFF/マイクOFF、それを言われちゃ手も足も出ないと災禍2年めにもなればよくわかっている。

 さすが現代の大衆教育が頂点、どこも似たり寄ったりだ。

*

 今週、その授業の試験日だった。教科書付録のリスニング模擬テスト計30問、毎週来ていた4人の対面勢をその場で採点すると、

26点、27点、29点、29点。

1問1点・30点満点

 な、これまでやってきたことを毎日10分でも続ければTOEICごとき屁でもない。ただ、ことばは道具でしかないってこと、くれぐれも忘れずに。

 いつだって50余名だった遠隔勢には、夜23:59までに答案をPC作成→PDF化してメールせよ、その点数で成績をつける、と通達して解散させた。

 まっくらな背景に丸アイコンでしかなかった人々から次々メールが届く。その中に、ぽつぽつ添付ファイルの印なき数通がまぎれている。

うーんコ ピペだねえ

 これら十中八九ほぼ十は「リモートなら何していてもバレない」という魂胆から教科書さえ買っていない者どものテンプレで、最近の大学で横行しだしているいいわけである。

 まあ、大学英語の教科書なんて買いたくないよな。卒業後にも参照できるような専門書ならまだしも3ヶ月たった週一90分だけしか使わず内容は中高のくりかえし、単位もらえば一転して用済み、それに二千三千円は高いよな。特にはやりの「コミュニケーション」系に乗っかったやつなんて中身スカスカ類似品ばかり、これほど資源にならないゴミもない。

「しかしどいつもこいつも『なくした』なんてダセエなあ小学生かよ、たとえそれが真実でも恥ずかしくて口が裂けても言えないだろ」

 大同小異の個性なき文章に、呆れを通り越して悲しみが募る。こんな幼稚ないいわけしかひねり出せないお子ちゃまたちの相手をせねばならないのが大学なのだ。

「いや、いや、聞き入れてやろう。ウン、恥ずかしいけど勇気を出して告白してくれたんだ。その心意気に応えてやるのが大人ってもんだ(反撥したところで食いぶちを失うだけだブツブツ)」

 上掲プラス駆けこみ1人の「教科書なくした勢」計5名に、試験該当ページを写真で撮ってメールに添付して送ってさしあげる。翌日正午を期限として、遠隔勢のうち提出者は平均22.6点だったことも念のため添えておいた。

 結果メール左上から時計まわりに、プラス駆け込み一名、

7点 4点 11点 9点 9点

点数までうーんコ ピペかな

 ご苦労さん。単位はあげますよ。

*

 成績をつけていると、合格した遠隔勢のうち2名に正誤まるっきり同じ答案があることに気づいた。30問すべて4択だから天文学的な確率、確認したら名簿で前後に並んでいる同学科の男子ペアである。

 あーあ。せめて1、2問くらいズラしておけよ。

 しかし遠隔授業というものが生まれてからというもの、提出物の名前しか見ていない手抜き教員があまりに増えたのも事実である。30問×50数人なら見過ごされるだろうと期待させたのは、そんな教員のせいも多分にあろう。

 だがそれらとわれ一人を同一視する未知(無知ではない)は捨ておけぬ。ちゃんと見ている教員もいるのよ。

 試験での「不正」は、その学期すべての科目の単位剥奪が原則である。朝方その旨を送信したら、さっそく午前中のうちに返電。

「見苦しい」のお手本

 なあ、もっと気のきいたこと言ってくれよ。一回やると決めたなら最後までやり抜けよ、すっとぼけてみろよ、うまいこと言い逃れしてみせろよ。それができる度胸も知恵も覚悟もないなら、最初からこんなことするなよ。

 そんなに単位がほしいならくれてやる。だが返信はしない。後期の成績が開示される3月上旬まで、いつ大学から「不正通告」が届くか、せいぜい怯えていろ。

*

 翌朝、試験問題の解答をネット経由で配布した。夜、教科書なくした勢の「7点」からメールが届いた。

パパパパードゥン?

 だからさ、自分がそれでいいと思ってやってきたんだろ。じゃあその不安も後悔も抱えていろよ。なにが「どのようでしょう」だ、甘ったれんなよ。

 ……とか言っちゃったらダメなのよね、「学生の質問には真摯に対応するように」が遠隔授業の金科玉条だとされているから。

心配いらないよ! 実は今だいたいどの大学でもさ、遠隔授業は「基本的に『出席』を単位認定基準とせよ、ただし試験は建前として実施せよ」って方針なんだ。だから、いくら赤点でも出席率さえ満たしていれば単位はもらえるんだ。カメラOFF/マイクOFFで出席もクソもないのはご承知だろうけど、細かいことは気にしないでいるのが人生うまく生きる秘訣だよ。非常勤講師が相手ならなおさら心配なしだ。じゃ元気でね! バイバーイ!

😇
😈

 別にいいんじゃないの、授業ごときズルしてもサボってもウソついても、そのときの自分がそうしたかったのなら。その積み重ねがどれだけ貴様敬語を将来つまらない人間にしようと、「大学」がそれを許しているんだから。

 ただし責任は自分でとってね。もうコドモじゃない成人ってそういうことだよね。まあ世の中どうも責任とらないオトナばかりだから説得力ないけど。








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