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【童話訳】 3びきのこぶた (1842)

作者不明、古くからイギリスに伝わる童話。かわいい挿絵たくさん。


引用した挿絵
ジョン・バッテン (1895)
レオナード・レスリー・ブルーク (1905)
アーサー・ラッカム (1922)


 むかしむかし、お母さんぶたと3びきのこぶたがいました。育ちざかりの子たちを食べさせるのは大変なので、ある日お母さんぶたが言いました。

「ねえ子供たち、世界は広いのよ。ひとりひとり、自分の力で食べていけるか、やってごらんなさい」

 そこで3びきは、自分の暮らしを探しに行きました。

 一番上のこぶたは、道をトコトコ歩いていたら、ひとりの人と出会いました。わらをかついで歩いてくるので、丁寧にたずねます。

「もしもし、すみません。よろしかったら、それを少し分けてもらえませんでしょうか。ぼくは家を作りたいんです」
「もちろんいいですよ!」

 その人は礼儀正しい言葉づかいに感動して、わらを分けてあげました。こぶたはそれを使って家を作りました。

 ようやく家が出来上がったら、オオカミがやってきました。クンクンと鼻を鳴らしては中にぶたが住んでいると知り、戸を叩きます。

「かわいいかわいい、こぶたちゃん! ドアを開けてちょうだいな!」
「だめだめ! 開けないよ!」

 こぶたが言い返します。鍵穴の向こうに大きな前足が見えたからです。オオカミはギラッと牙を光らせて、

「そうかい、じゃあ勝手に上がらせてもらうぜ。こうやって──!」

 フンッとついた鼻息ひとつでわらの家は吹き飛ばされてしまい、こぶたは食べられてしまいました。

† 

 二番めのこぶたも、みんなと別れてから、ひとりの人と出くわしました。ハリエニシダ*をたくさん持っていたので、かしこまってたずねます。

*西ヨーロッパの荒地に自生する低木

「突然すみません。よろしかったら、その綺麗な黄色の花がたくさんある草を、分けてもらえないでしょうか。ぼくは自分の家を作りたいんです」
「いいですよ! 持っていってください!」

 美しい物腰は人の心を動かすものです。こぶたはハリエニシダをもらって、こぢんまりとした家を作りました。

 またやってきたのはオオカミです。クンクンクンクン、出来上がったばかりの家のまわりで鼻を鳴らしては、

「かわいいかわいい、こぶたちゃん! ドアを開けてちょうだいな!」

 戸を叩きました。中にこぶたがいると難なく嗅ぎつけたのです。

「だめだめ! 開けないよ!」

 鍵穴の先に大きな耳が見えて、こぶたはブゥブゥ言い返しました。するとオオカミはニンマリ鋭い歯を光らせて、

「そうかいそうかい、じゃあお邪魔させてもらうぜ。フンッ──!」

 鼻息でハリエニシダは吹き散らされてしまい、二番めのこぶたも食べられてしまいました。

 末っ子のこぶたも、ひとりの人と出くわしました。その人はレンガを運んでいるところでした。

「もしもし、すみません。よろしかったら、そのレンガを少し分けてもらえないでしょうか。ぼくは自分の家を作りたいんです」
「いいですよ! がんばってください!」

 やっぱり礼儀正しい言葉づかいで、その人も快くレンガを分けてあげました。こぶたはそれを使って、さっぱりとした家を作りました。と、またまたオオカミがやってきました。クンクンクンクン嗅ぎ回ったら、

「かわいいかわいい、こぶたちゃん! ドアを開けてちょうだいな!」

 コンコン戸を叩きます。誰が中にいるのか、わかりきっているのです。

 こぶたは鍵穴の向こうにある大きな目を見て、ブゥブゥ言い返しました。

「だめだめ! 開けないよ!」
「ざんねん、じゃあ覚悟しな──!」

 不敵に牙を光らせたオオカミは、勢いよく鼻を鳴らします。

「フンッ!」
「フンッ!」
「フンッ──!」

 レンガの家はびくともしません。とうとうオオカミは疲れきってしまい、作戦を変えました。

「こ、こぶたちゃん! おれ、カブ畑を、知ってるぜ! おいしいカブだ、た、食べたくないか!」
「カブ? どこにあるの?」

 こぶたがたずねると、息を整えつつまくしたてるオオカミです。

「すぐそこだ。あ、明日の朝、6時きっかりに、また来るから、いっしょに行こう、な、6時だぜ──」
「6時きっかりだね、わかった。ありがとう」

 こぶたの返事を聞いて、オオカミは帰っていきました。

 こぶたはそう簡単に騙されません。翌朝5時、起きがけに一人でカブ畑を探しに出ました。

 畑はすぐ近所にありました。何本か引き抜いて、家で朝ごはんをこしらえていると、オオカミがやってきます。

「かわいい、かわいい、こぶたちゃん! 6時だよ!」
「遅かったね! ぼくもう畑に行って、戻ってきたところだよ。これからカブのスープをいただくところなんだ」
「なに!」

 オオカミは顔を真っ赤にして怒りかけます。が、こぶたを食べるためだと我慢して新しい誘い文句を続けました。

「そりゃよかった! でもよ、もっとおいしいもの食いたくないか?」
「もっとおいしいものって、なに?」
「リンゴさ! 甘い蜜たっぷりのリンゴの木が生えているところがあるんだ。明日の朝5時きっかりに来るからよ、いっしょに食べに行こうぜ!」
「5時だね、わかった。どうもありがとう」

 そうして約束したら、オオカミは帰っていきました。

 翌朝こぶたは4時に起きて、リンゴの木を探しに出ました。しかしオオカミだってバカじゃありません。同じ手に引っかかるものかと、こちらも4時から向かっていました。

 こぶたはリンゴの木を見つけてよじ登り、一個ずつカゴにしまいます。

「おーい! 早起きさんよーう! 朝のリンゴはうまいだろお!」

 ふと声がして見ると、あっちからオオカミがやってきています。舌なめずりをしながらふてぶてしく笑っています。

「おいしいね! 一個ためしてごらんよ」
「おっ、ありがとよ! おれは熟れすぎて落ちたリンゴしか食べられないからなあ」
「ほら──!」

 こぶたはもいだリンゴを遠くの方へ投げました。それをオオカミが取りに行っているうちに、さっさと木を下りて家へ帰りました。

 そろそろオオカミは辛抱たまりません。次の朝こぶたの家へ行くと、ドア越しに甘ったるい声を出します。

「かわいい、かしこい、こぶたちゃん! まいった、もう降参だ。おわびにさ、今日は移動遊園地が来る日だから、いっしょに遊びにいこうぜ」
「いいね。何時ごろ?」
「3時きっかりに迎えにくるよ」
「わかった、準備しておくね」

 そう返事しておいて、こぶたはお昼ごろ、もう回転木馬に乗っていました。めいっぱい楽しんだら、大きな樽をひとつ買って帰りました。

 見晴らしのよい丘まで来たら、家の方から駆けてくる影が見えました。オオカミです。まだまだ3時まで余裕があるのに真っ赤な顔をして、怒っているのは一目瞭然です。

 こぶたは落ち着いて、買ったばかりの樽の中に隠れました。が、フタを閉めたとき、こてんと樽ごと倒れてしまいました。

「しまった!」

ゴロ、ゴロ、ゴロゴロ──

 樽はゆっくり、だんだん勢いづいて、丘を転がり始めます。

ゴロゴロゴロゴロゴロ────

 ぐるぐる、ぐるぐる、たまりません。目が回って、気持ち悪くなって、吐き気がします。

「オエーッ! オエーッ!」

 オオカミだってたまりません。丘の頂上から大きなものが、くぐもった奇妙な音を発しながら、ものすごい速さで転がってくるのです。

「ぎゃあ!」

 オオカミはしっぽをまいて逃げていきました。

 次の日、オオカミがやってきて、何が起こったのか話しました。

「あんな変な音を出すもの、見たことも聞いたこともないぜ。遊園地、いっしょに行けなくて悪かったなあ……」

 本当に怖かったみたいで、後ろ足にしっぽを挟んでいます。でも、やっぱりまだこぶたを食べたくて、ドア越しにしゃべりに来たのです。

「それ、ぼくだよ! きみが丘を登ってくるのが見えて樽に隠れたんだけど、転がりだしちゃったんだ。こっちこそごめんね、怖がらせちゃって!」

 こぶたが笑いながら打ち明けました。オオカミはみるみる真っ赤になって地団駄を踏みます。

「くそ! 生意気なぶため! 今日という今日は許さねえからな!」

 そう叫ぶやひさしに飛びつき屋根へと駆け上がりました。こぶたの家には煙突があるので、そこから侵入しようというのです。

 足音を聞きながら、こぶたは水を張った大きな鍋を火にかけました。

「さあ! 晩飯はどこだ!」

 ついに声が煙突づたいに響いてきたら、鍋のフタを開けました。オオカミがぐつぐつ茹だった中へザブンと落ちたら、すかさずフタを閉めます。

 そうしてこぶたは、晩ご飯にオオカミをおいしくいただきましたとさ。


おしまい



○もともとはイギリスにつたわる作者不詳の童話(桃太郎的なもの)。1848年にジェイムズ・ハリウェル・フィリップスというシェイクスピア研究者が初めて「本=作品」として出版する。

○それ以前にも以後にもいろいろな異説がある。現代では兄弟だれも食べられることなく末っ子のレンガの家に匿われて、オオカミともいざこざの後で仲よく暮らす、という筋書きのものもある。






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