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【ロックって結局なに?】 #973


高校生で音楽にのめり込んでバンドを始め高校卒業後上京してアルバイトを続けながらバンド活動をしたが
上京組の他のメンバーは大学生で次第に学校優先になり
1人減り2人減りしていき自然消滅状態だった時
知り合いのライブハウスの店長に飲みに誘われた

そこにはそうそうたるメンツが顔を揃えており
オレみたいなヘナチョコは焦った

「山口さんっ
オレどこ座ったらええっすか」

「おおっヤスが
急に呼び出してすまんな
まぁじゃあココ座り」

店長である山口さんが勝手に隣のテーブルの椅子を
これまた無理矢理置いて僕を座らせた

「お久しぶりです
山口さん
凄い人ばっかりやないですか」

「そうかぁ?
まぁそやわな
せやけどそんな凄い人がオマエに会いたい言うもんやから連絡したんやがな」

「マジっすか」

「マジよぉ」


店長が言うには今集まっている連中はバンドを解散していたり嫌気がさしてたり色んな事情で新しいバンド組みたいなって話になって相談されたそうだ

だからそんな連中を全部集めて話したらええやん
ってこんなジャンルレスなインディーズでもそこそこ有名な人たちが集まってる
何人居るんだろ

でたまたま店長の側に居た数人から僕の名前が出たらしい
最近ライブしてないけどどうしたんだとか
アイツの声とパフォーマンスええよなとか
顔もファッションも良い
なんて褒めまくられていた

何が起こったんだ?
そんなのメンバーに言われた事無かったよ

まぁよーするに店長はコイツらとバンドやってみる気は無いか
そういう話だった
このバンドに関しては
予約の入っていない時間帯や夜中だったら無料で練習スタジオを貸してくれるそうだ

僕にとったら渡に船だ
元々のお遊びバンドは消滅し1人でもやるつもりだったが
やっぱりバンドが良くってバンドで有名になりたかった


なので店長の山口さんがマネージャーのような感じで新しいバンドは始まった

最初はそれぞれのメンバーに慣れて行くため色んなジャンルの曲をカバーしてみた
好きなサウンドとこのバンドだから出せる音のバランスを整える為に

順調に進んだかのように見えたが
やっぱりそこは人間同士の集まり
違和感が出る者も現れた
そして1人のギターが去りまた新しいギターが入った

この彼こそ僕の盟友となり
数年後のデビューではほぼ彼との共作が中心となった

奴の名はQと書いてキュー
そのまんま
どうしてQなのかは分からない
そう呼ばれるのが好きだからそー呼んでほしい
そう言われた
まぁ本名も知っているがQで良い


僕たちのバンドは先にも書いたが数年後メジャーデビューを果たした
スグに有名どころのFM局でガンガン鳴らしてくれたのと
CMのタイアップがあって瞬く間に有名アーチストの仲間入りになった

ライブをするしレコーディングをするしアルバムができたらラジオ局やテレビ局を周りその合間に雑誌などのメディアの取材を受ける

広報活動は大切だが
あまり好きでは無い
でもフロントマンであるボーカルの僕が参加しないというのは事務所が許してくれなかった
渋々取材を受けたりその他広報活動を行った


毎年ツアーの規模が大きくなって行った

デビューして3年目くらいから自分がちょっとずつおかしくなってきているのは気付いていた
他のメンバーは知らない筈

バンドが大きくなるにつれてバンドが一流企業のように膨らんできた
特にツアーの時なんて恐ろしい数の人間たちが関わってくる

自分はこの企業から出た製品で
その製品の顔であるのが自分である

代わりは居ない

ロックスターにはなりたかったけど
こんなに大きくなるとは思っても居なかった

正直言って最近ライブが怖い
お客もメンバーも怖い
極度の緊張感が生まれる

ライブが終わるともう死にかけ状態になる
基本的にライブする時はツアーなので
コレが移動日以外は毎日続く
極度の緊張と緩和
恐ろしい
孤独感が僕を閉じ込める

普段喋ってるのも行動するのもライブ以外は僕とは別のロボットが勝手に動いて喋っている
僕はそのロボットの真ん中の小さな部屋でうずくまっている

でライブが始まる時はその部屋から
無理矢理ずり出され
ステージに立つ
恐怖と覚醒が混ざり合う

だいたい成功している

打ち上げには参加しない
他のメンバーはいつも参加している
あんな会社員みたいな飲み会なんてゴメンだ


気分を落ち着かせようと安定剤を服用して深呼吸する
その後ベッドで瞑想する

でも瞑想が瞑想にならない
頭の中でなんだか分からない
でもとても恐ろしく気分の悪い塊が頭の中を侵食しようとする
そのまま支配される方が楽かもしれないと思ったりもするんだけど
いつも怖くなって途中でやめてしまう

ここ数年は酒は殆ど飲まない
たまに飲む事もあるが
一旦飲み始めると恐ろしい程に飲んでしまう

数ヶ月前もツアー中
1人ホテルでウイスキーを飲み始めたら止まらなくなって
次に意識が戻ったら全然知らない風俗店の中でサービスを受けていた

向こうはきっと僕がだれだか分かっている
そんなサービスは無いのは後で分かったが生でやろうとしてきた
断って服を着て店をフラフラと出て行った

どこか分からないからタクシーを拾ってホテルの名前を言ったら
歩いた方が早いよって断られた

どこだか分からないのにタクシーより早いだと?

適当に歩いていたらホントに直ぐにホテルに着いた


こんなだから特にツアー中は酒は飲まないようにしている


5年目に入った頃はもうボロボロだった
完全に医者から処方されたクスリで無理矢理人間にさせられている

なんだろ?
思い返すと無理矢理何かをさせられたりしている事が多いな

サングラスをかけている事が多い
焦点が合いづらくなってきた
そんな目付きの写真なんて撮られたく無いからな


デビュー当時ほどでは無いが
ありがたい事にまだ出す曲出す曲そこそこ売れている
ドラマなんかの主題歌にも使ってもらえる
ありがたい

でももうそろそろ一回停止して休まないとホントにヤバいかも

そう思っていたら
僕より先に行きやがった奴が

Qがビルの屋上からツアー初日ライブ前に飛び降りして死んでしまった

当然ライブは全て中止となった

テレビやなんかではQの事をああだこあだとどっから引っ張り出してきたのか子供の頃の写真や学生時代の友人と呼ばれる人の証言
恋人と噂されていた女優をつけ回し質問攻めする

僕が先だったら
Qが同じような光景を見て同じような感覚になっただろう



Qのお陰で活動は停止になった

好きなだけ休んで良いって事だ
ありがたい

先ずは僕を知らない人が多い外国に行こう

そして一旦無になりココロもカラダも浄化しないとQと同じ道に戻ってしまう
自分もギリギリだったし


ロックスターって
ロックンロールって
なんや?
職業なんか
快楽なんか
アホなんか




ほな!

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