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【インフルエンサー】 #736


最初はほんの些細な事が始まりであった

普通に皆さんと同じようにSNSを始めて何となく日々の事を発信していた

私はちょっとだけ可愛い
それは知っていた
でもまさかこんなにフォロワーが増えるとは思ってもみなかった

私はちょっとだけ調子に乗った
ひょっとしたらYouTubeでチャンネル作ったら受けるかも

でも何のチャンネルにするの?

分からない

YouTubeはハードル高いかも

そう思った私はてはじめにTikTokにしてみた

何をする?

分からない

片っ端からあげたらいいか

なんの細工も無く
飲み物を一気に飲んで飲み干したところで
「ナオちゃんでふ」
それだけ言ってニコッと笑ってみた

毎日続けてたら沢山の人が見てくれるようになった

良いのかしら
これで

私はまたも調子に乗った

同じ事をYouTubeでもやってみた

YouTubeは飲み物じゃなく食べ物でやってみた
大食いでは無いから普通サイズの物
食べ切ってカメラ目線で
「ナオちゃんでふ」
毎日更新した

またもや沢山の人が見てくれた
チャンネル登録者数も跳ねるように伸びた

他のユーチューバーからコラボの話が舞い込んだ

困った
「ナオちゃんでふ」
以外何もしていないしできないし
それでも良いのかしら

それでも良いと回答があった

沢山のユーチューバーの人と
「ナオちゃんでふ」
を撮りまくった

そしたらテレビの出演依頼が来た

もっと困った

何を喋れば良いの?

そしたらチョコンと座ってて
司会進行の人に振られたら
「ナオちゃんでふ」
それだけ言えば良いと言われたから出てみた

なんだかアホの子みたい

私大丈夫かしら?

その後も立て続けにテレビ出演の依頼が来た

なんで?

私はただただテレビに出て
「ナオちゃんでふ」
それを繰り返すのみ

SNSのフォローが更に爆発し
いいね!どころかコメントも増えまくった
そしてその中には誹謗中傷の書き込みも増えた

バカとかアホとか
公共の電波使ってしょうもない事するなとか
酷い場合にはこの世から消えろ
そう言う書き込みもあった

怖い

ある日あるテレビ番組のプロデューサーと言う人から電話がかかってきた

「ナオさんの携帯電話でしょうか
私◯◯放送の◯◯というニュースバラエティ番組のプロデューサーをしている山田と申します
今少しだけお時間よろしいでしょうか」

「あっはい…
どう言ったご用件でしょうか」

「実はですね
ナオさんのFacebook見させてもらってプロフィール欄を見させてもらったら現役の京大生という事を知りまして
とても興味が湧いたのです」

「はぁ…」

「でですね
いつもはあのナオちゃんでふというセリフばかりだったのですが
あれには何かこだわりとかってあるのでしょうか」

「いえっ
いつもそれしか発信していなかったもので」

「なるほど
もしですよ
その例えば当番組にご出演いただいてですね
そのナオちゃんでふ以外のコメントなんかを喋ってもらえたりっていうのは可能だったりしますでしょうか」

「えっ
それはその…」

「いや何でも良いんです
ナオさんの等身大の気持ちを話して頂くだけで
SNSでは普通に普段の事とか発信されているじゃないですか
あんな感じで良いので
本当に差し出がましいお願いですが如何でしょうか
ご検討願えませんでしょうか
もちろん出演料は他の番組より沢山支払わせて頂きます」

「ちょっと考えさせてもらっても良いですか」

「もちろんです
では来週にでもまた改めてご連絡差し上げますので
ご検討よろしくお願いします」

電話が切れた

どうしましょ

私で良いのかしら

1週間後
依頼を受ける事にした

私はテレビで普通に喋った

視聴率が少しだけ上がったと聞かされた

ホントかしら?

なので次の週も番組に呼ばれた

番組が終わって帰ろうとした時
プロデューサーの山田さんがスーツのおじさんを連れてきた

はて?

その人は芸能プロダクションの部長さんだった
名刺を渡され

「ナオさん
はじめまして
私◯◯という芸能プロダクションで部長をやっております田中と申します
実はですね山田さんからナオさんの事をお聞きしTikTokや YouTubeそれにインスタやFacebookなんかも見させてもらったんですよ
でねほらテレビ番組にもこうやってご出演されるようになられたので
もし可能でしたら当芸能プロダクションでナオさんのサポートなどをさせて頂けないかと思い挨拶させてもらった次第です
多分この先テレビ出演など色々と増えて来ると思うのです
そう言った場合
出演の管理ですとか出演交渉とかギャラ設定とかスケジュール管理とか色々大変になってくると思うんです
そう言った部分のお手伝いをですね
どうでしょう?」

「はぁ…」

「よろしかったら来週にでも弊社に遊びに来て下さい」

こうして私はあれよあれよという間に芸能人風な立ち位置になった

何故か1年後にはドラマや映画で女優をしていた

大丈夫?

大学は一旦休学し芸能活動に専念した

でもなんて言うのか
やればやるほど自分には合っていない気がする
数年続けた芸能活動だったが辞めることにした
事務所からは名前だけは残させてほしいと言われたが
見えない所で監視されているような気がしたので丁寧にそれはお断りした

私は大学に戻った

最初はジロジロ見られたが
1ヶ月も経たない内に普通の学生に戻れた

大学卒業後は世界を旅した

その中でホントの世界の現状を知った

テレビって嘘ばかり

日本では酷い国だと言われていた地域も行ってみると人は温かいし
日本人である私に対する偏見など無かった
それに比べ自由の国と銘打ったあの国は散々でアジア人というだけで差別され偏見の目で見られる
とても暮らしたいとは思えない

その後日本に戻りホントの意味での日本を逆に世界へ伝えられないか
そればかり考えていた

何をすれば良いのか

分からない

悩んだ私は父親に相談しある人を紹介してもらった

政治家だった

彼にこの話をしたら
バックアップしたい
是非政治家になるべきだと強く勧められた

政治家?

私が?

とりあえずという事で政治家のイロハを学ぶ為に秘書となった

色々丁寧に教えてもらえたし学べた

いよいよ次の参議院選挙に出馬しようとなったある日
私は彼に付いて地方へと足を運んだ
恐らくここの選挙区から出馬するのだと思う

夜は街の有力者との会食をし
ホテルへと戻った

ホテルの温泉に行き
部屋でリラックスしていると彼から電話があった

どうしても今夜目を通しておいてほしい書類があるので取りに来てほしいと

私は服に着替え言われた通り彼の部屋へ書類を取りに行った

部屋へ通される

彼は浴衣着になっていた

すぐに書類が渡されると思ったのだが
彼はその前にちょっと話そうと促された

仕方なく私は言われるままソファに座った
彼は冷蔵庫からウイスキーのミニボトルを取り出し2人分の水割りを作った

彼は言った

私の後ろ盾さえあれば必ず当選できる

わざわざそんな事を今言わなくても

彼は水割りを持って私の横に座った

私のカラダは凍りついた

ヤバい

そう大当たり

彼は私の肩に手を回した

どうする?

何故か私は腹をくくってしまった

私は彼のしたいようにさせた

選挙では彼の行った通り当選した

私はキャリアを積み役職も得た

まだ彼は私を求めてくる

しかしあの夜以来指一本触れさせていない

私の政党での立ち位置はとても重要になりつつあった

残念ながら彼はどんどんその勢力を失って行った

それでもなお彼は私のカラダを求めてくる

そうじゃ無いだろ
政治の話をしろ
私は必死に政治屋をやっているのだ

あまりにも執念かったのでクギを刺してやった

実はあの夜の出来事は全てスマホを使って録音しておいたのであった

捨身と言えば捨身だが
もしもの事を想定し消さずに残しておいた

彼に少しだけ聞かせてやった

これ週刊誌に売りましょうか

一緒に沈没します?

彼の血の気が引いた顔を撮影してやりたかった

彼はその後
政界から姿を消した

私は10年後政党の党首となり女性で初めて総理大臣となり
その後法律を改め可決し
初代の大統領となった

これで私の念願であった世界へ向けた日本大作戦がスタートできる

もう
ナオちゃんでふ
なんて言わなくても良い


とは世の中そんなに甘くは無い

残念ながら
ホントの私は別に可愛いくも何とも無い
単なる普通の女
大学にも行っていない
何となく専門学校に通う
卒業しても恐らくその道には進まないタイプの学生
夜は厚塗りでキャバ嬢のバイトをするが大してモテないから指名も付かない
女受けは良い
アホだから

試しに
ナオちゃんでふ
をTikTokでやってみたが
バズる事は無かった

その後はそこそこの彼と付き合い
そこそこの会社に勤め
そこそこの年齢で結婚し
そこそこの子を産み
そこそこ年齢を重ねた

そして
そこそこのババァになってしまった

孫が自分の洋服を私に着せて写真を撮った
SNSに投稿したら受けた
だからババァの私は孫の服を着て
ナオちゃんでふ
ってやってみたら
生まれて初めてバズった

もう思い残す事も無いだろう





ほな!

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