【緊急出版】オリンピック史に残るTOKYO2020を“いま”心に刻む――『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』第1章まで無料全文公開!
2021年8月31日にICE新書より緊急出版された書籍『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』(著:ゴジキ(@godziki_55))の第1章までを無料全文公開いたします!
はじめに
「東京五輪2020の直後に届けたい」そんな想いから、本書は1ヶ月ほどの期間で、急ピッチで書き上げた。「野球」を中心に、東京五輪を振り返ることをテーマに、東京五輪を観戦しながらリアルタイムに書き進めたものだ。
東京五輪を語るためには、コロナウイルスによる延期の影響は必須だろう。そして、過去の五輪や国際大会を振り返り、東京五輪の意義を考えていく必要がある。
そのため、第1章ではコロナ延期の影響を、第2章以降は国際大会の野球というカテゴリで、ワールドベースボールクラシック(WBC)とプレミア12との異なる点を解説している。さらに、初のオールプロで参加したアテネ五輪、史上最悪の結果と言っても過言ではない北京五輪に関しても書かせていただいた。
五輪ならではの開催前の状況、侍ジャパンが賭ける想いに加え、個人的な考察をふんだんに盛り込んでいる。前作の『巨人軍解体新書』以上に思ったことを率直に述べているので、不快に思う方も多いかもしれない。どうか野球を愛するがゆえの一意見としてご容赦いただきたい。
東京五輪直後の熱い気持ちのまま、最後まで読んでいただけたら幸いである。
第1章 コロナ延期の影響を振り返る
∟東京五輪2020、不安の中での開催
2021年開催の「東京五輪2020」は、多くの国民の理解を得られぬままに開催した。政府や国際オリンピック委員会(IOC)、日本オリンピック委員会(JOC)の対応への批判や不満も大きかった。
そんな中でも無事に開催することができ、結果として「オリンピックを開催して良かった」との声が多かったのは、スポーツがもたらす希望と感動はもちろんのこと、五輪が世界的に特別なスポーツの祭典だからだろう。
相次ぐ関係者の降板や、マスコミやアンチの否定的な意見を前に、無観客とはいえ競技が行われ、多くの感動を生んだことは奇跡に近いのではないだろうか。選手たちはベストを尽くして頑張っていたし、普段あまり見ない競技でも、観戦していると不思議と元気が湧いてきた。
また個人的には、この記念すべき東京五輪の聖火ランナーに、ファンである長嶋茂雄氏・王貞治氏・原辰徳氏・松井秀喜氏が登場したことはうれしかった。巨人軍の球界の盟主らしい一面が感じられた。
∟東京五輪2020が起こした奇跡
正直なところ、普段、野球以外の競技はあまり見ない。今までならば、たとえ五輪でも然りだが、東京五輪ではさまざまな競技を夢中になって観戦してしまった。それほどに過去の五輪の中でも類を見ない、特別な五輪だったのだ。私と同じような人は多いのではないか。
あらゆる競技で、選手たちは1年伸びた不安な気持ちを後ろ向きに捉えるのではなく、むしろパフォーマンスにぶつける形で爆発させていたように思えた。外野のグダグダ感やアンチが煽る不安感をもろともせず、各選手は待ちに待ったこの五輪で非常に高いパフォーマンスを披露してくれた。結果は総メダル数史上最高の58個(金27・銀14・銅17)を記録した。金メダルは日本史上最高の数字を記録した。
柔道では、阿部一二三と阿部詩の兄妹で金メダルを獲得、低迷していた日本柔道界復活の兆しを見せた。東京五輪から新競技として採用されたスケートボード・ストリートでは、堀米雄斗と西矢椛が男女ともに初代王者に輝いた。
野球と同様に競技復活したソフトボールでは、北京五輪で金メダルに導いた、エース上野由岐子と、キャプテン山田恵里がチームを引っ張り、山本優や藤田倭、後藤希友といった次世代を担うニュースターが躍動して、2大会連続の金メダルに輝いた。
そして野球だ。通称「侍ジャパン」は、オールプロで参加した五輪で3度目の正直となる金メダルを獲得。度重なる接戦を制して、5戦全勝で有終の美を飾り、日本の野球を世界に知らしめた。
この東京五輪をリアルタイムで観られたことを非常に誇らしく思う。まさに奇跡の大会だ。
∟1年の延期が各スポーツに与えた影響
東京五輪2020は、その名の通り本来であれば2020年に開催される予定だったが、世界的に流行した新型コロナウイルスの影響で1年の延期となった。この延期での経済的損失は大きく、各メディアによって金額は異なるが、数千億円単位の損害と言われている。さらに、中止になった場合は数兆円単位とも言われており、日本にとって大打撃であったことは間違いない。ぎりぎりまで開催の是非を問われながらも、なんとか開催はしたが、無観客開催の損害金額は多額であり、日本にとっては踏んだり蹴ったりの五輪だっただろう。
コロナウイルス感染症の拡大は、各スポーツ界にも大きな影響を及ぼした。野球においては、春の高校野球のセンバツ大会が中止、夏の甲子園も中止になった。プロ野球でも開幕を延期し、6月に開幕するというイレギュラーなシーズンになり、セントラル・リーグ(以下セ・リーグ)のクライマックスシリーズは中止になった。試合数だけではなく、球場販売にも大きく影響した。東京ドームの飲食販売では、アルコールの販売を制限され、売り子の販売にも影響していた。
また、プロ野球だけではなく、世界的な大会でも延期が続出した。サッカーのUEFA欧州選手権は、東京五輪と同様に2020年開催の予定が翌年の2021年に。野球ではWBCの開催が、本来予定していた2021年から最短でも2023年になると発表された。パンデミックは、世界のスポーツの祭典を次々と延期や中止に追い込んだのだ。
∟失われたファン獲得の機会
マーケティングの視点でも、コロナウイルスの影響は大きかった。本来であれば五輪は、スポーツへ関心を寄せる潜在層、ライト層に観られた上で、各競技のファンを獲得できるものだ。しかし延期によって獲得に向けた動きができなかった。これは五輪以外でも言えることだ。
例えばサッカーの日本代表は、ワールドカップ予選はもちろんのこと、五輪代表としてU23代表をメデイアに打ち出すことによって、ライト層のファンを獲得している。野球も似たような方法で獲得する。巨人、阪神、ソフトバンクといったプロ野球の人気球団に加え、サッカー同様、国際大会であるWBCの日本代表を大会期間中に打ち出していくことによって、ライト層を獲得しているのだ。また、高校野球もその役割を担っている。特に夏の甲子園大会期間中は、テレビ朝日で「熱闘甲子園」が放送されていたり、大会開幕前はバラエティ番組でも取り上げられるほどだ。
コロナ禍ではこのようなライト層を獲得できるイベントが、一切なくなってしまったのである。
∟競技普及のための「スター選手」の重要さ
新規層やライト層、準コア層を取り込むには、注目度が高い五輪でメダルを獲得することや、スター選手の出場がポイントになってくる。
かつてサッカーでは、歴代最多のバロンドールを獲得しているリオネル・メッシが北京五輪に出場し、アルゼンチンを金メダルに導いた。さらに歴史を遡ると、バスケットボールでは、マイケル・ジョーダンなどのNBA(National Basketball Association)のトッププレイヤーを揃えたアメリカ代表が「ドリームチーム」と呼ばれ、バルセロナ五輪で金メダルを獲得している。その他の競技でも、水泳なら北島康介、柔道なら野村忠宏、レスリングなら吉田沙保里などはレジェンドとして誰もが知る人気選手で、競技の人気や普及面に大きく貢献しているだろう。
最近での最大のスター選手といえば、大谷翔平だろう。今ではメジャーリーグのスター選手であり、その活躍は誰もが知るところだ。ちなみに東京五輪日本代表の4番を務めた鈴木誠也と同い年だ。大谷が選出された2015年のプレミア12では、最も注目される韓国戦2試合に先発し、優勝した韓国打線を圧倒した。視聴率は、1戦目19.0%、2戦目25.2%を記録、大会を通して1位、2位の視聴率であった。ライバルである韓国戦だからこその注目度はあったかもしれないが、大谷効果が著しくあったことは間違いないだろう。
このように野球の人気回復を狙っていくためには、かつてのイチローや松井秀喜、松坂大輔といった、普段野球を見ないライト層でもわかるスター選手をいかに打ち出していけるかが鍵である。
その上で、スポーツアナリストのボブ・ドーフマン氏は今後、さらに選手個人の魅力を発信することが大切だと指摘している。「野球界は、あらゆる手段を使って彼らの宣伝にもっとお金をかけるべき」と提言し、「この日本生まれのスター選手には、マーケティング上の大きな可能性がある」と、野球人気復活のキーマンに大谷を挙げた。大谷は、日本だけではなくメジャーリーグにおいても、オールスターのファン投票で1位を獲得している。日米でこれだけの実力と人気を誇る大谷は、今後、世界の野球人気を担っていく存在になるのだろう。
∟1年でずれる選手の「旬」と「ピーク」
東京五輪の延期は、待ち望んでいた観客側の熱を冷ましたことは否めないだろう。これは、野球に限らず他の競技でも言えることだ。自国開催ゆえに、国民全体に大きく影響しただろう。選手側の視点で見ても、ピークを2020年に合わせてきていた中で延期になり、最悪の場合は中止もあり得る状況は、モチベーションとパフォーマンスに大きく影響したのではないだろうか。
野球では、東京五輪の前哨戦「プレミア12」が、2019年に開催。この大会をベースに東京五輪のメンバー構成がされるのが既定路線の中、2年のスパンがあったことにより、選手のピーキングは難しいものになった。また、選手個人の「旬」の時期という意味合いでも、パフォーマンスのピークが変わってくるため、代表のメンバー構成は難しかったに違いない。さらにモチベーションの面にも大きく影響する。これも「心技体」全てを2020年に合わせてきたからこそだろう。
逆に延期して良かったこともある。今大会選出されたクローザーの栗林良吏と、フル回転で活躍した伊藤大海は、昨年段階ではプロ入りしておらず、従来であれば選出されなかった可能性は高い。また、多くの試合で活躍してMVPを獲得した山田哲人も、昨年の7月下旬から8月頭にかけては、上半身のコンディション不良で登録を抹消されていた。さらに田中将大も、昨年はニューヨーク・ヤンキースに所属していたことから招集は難しかったが、1年ずれたことにより東京五輪に出場できた。
このように1年ずれるだけでも、チーム状況は大きく変わる。その中であのような活躍を見せて世界に「日本の野球」を知らしめたことは、まさに「プロフェッショナル」そのものだと思う。
∟選手の移籍やドラフトにも影響
野球は日本では屈指の人気を誇るスポーツである。国際大会をはじめ、日本シリーズや高校野球も春夏大会とも、毎年地上波で放送されている。またインターネット配信が普及した今では、DAZNをはじめとした配信サイトにも多くのユーザーが加入している。さらに、ドラフト会議や契約更改、移籍情報まで、オフシーズンでもプロ野球を中心に野球のニュースがスポーツニュースのメインを飾っている。
野球界も、長い歴史の中ではストライキや震災など様々な困難に向き合ってきたが、今回のコロナウイルスによる騒動は、かつてないほどに難しい選択を強いられただろう。
シーズン開幕前、オープン戦の段階で「無観客試合」としつつ、プロ野球同様に人気のあるJリーグと異例の提携を組み、さらに対策を強化したのだ。そしてNPB(日本野球機構)が開幕延期を正式発表する前に、Jリーグが公式戦の一時休止や延期を発表した。これがプロ野球界に大きく影響した。開幕の大幅延期によって、選手のコンディションはもちろんのこと、チケットやグッズ等の販売に莫大な影響が生じたことは想像に難くない。
プロ野球は、高校野球や国際大会のように短期的なものではなく、3月から11月までのシーズンで長期的に利益を生み出さなければならない。特にシーズン中トップクラスの興行が見込める「開幕戦」を無観客にしてまで開催することは、相当な痛手になると考えたのかもしれない。オープン戦での無観客は状況が良化するまでの様子見の施策だったと思われるが、「開幕延期」は、度重なる他競技やイベントなどの延期や中止、Jリーグの延期や中断なども含めて自粛ムードがさらに加速した状況を鑑みての選択だったのだろう。
また、コロナ騒動は選手の移籍事情にも大きく影響した。メジャーリーグに移籍できた選手もいれば、できなかった選手もいたのだ。
巨人の菅野智之は、条件面等の問題もあったが、多かれ少なかれコロナの影響があり、移籍を断念したと言えるだろう。
2021年の開幕前に、田中が楽天に復帰したが、これも田中本人が年齢的な衰えを感じたこともあるだろうが、コロナが影響しているだろう。
また、巨人に所属していたジャスティン・スモークは、移籍後に家族の状況を心配して帰国を決断し退団した。
他にもドラフト会議や球団スカウトにも影響が出ていた。昨年は春夏通して甲子園が中止になったことから、ドラフト候補に挙げられた選手は、一昨年の高校2年時点で評価されたに違いない。
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