映画「天使のくれた時間」がなぜ今、心に刺さるのか

愛おしいほどに込み上げる切なさが

心のど真ん中を貫くラストが忘れられない。

もしあの時、YESとこたえていたら?

もしあの時、別の選択をしていたら?

今、ふたりはどうなっていたのだろう。

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                   出典:映画.com

名作「素晴らしき哉、人生!」を大胆にアレンジした作品だ。

ただ私にとってはこの名作を超えて

大きく人生に影響を与えた大切な映画の一本。

ジャック(ニコラス・ケイジ)はウォール街で成功し、フェラーリを乗り回し、超高級マンションのペントハウスに住んでいる金融マン。

そんな彼が体験するもう一つの世界。

それは13年前に空港で別れた恋人のケイト(ティア・レオーニ)と結婚し

ニュージャージー郊外でタイヤのセールスをして

2人の子供を養っているささやかな生活。

そんな全く違うもう一つの人生を送る彼が

クリスマスイブの夜に迷い込む。

最初、彼はあまりの生活格差に愕然とし

全くその世界を受け入れられない。

そしてもうひとつの世界の愛娘には

パパではない宇宙人と疑われてしまう。

彼女が投げかける台詞が最高だ。

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Welcome to earth !  笑

娘は彼がパパではない宇宙人だと

彼の本質の違いを感じている。

そんな彼もすっかり忘れていた友人や愛する人との

愛を思い出していく中で

やがて顔つきが明らかに違っていく。

13年前に置き去りにしていた愛する人を

人生のささやかな瞬間を愛する感情を

一つ一つ思い出していく。

ケイト扮するティア・レオーニが素晴らしく魅力的だ。

彼女は現実世界では彼の愛を信じたまま13年前に別れた恋人。

もう一つの世界では美しく聡明な妻ケイトとして扮している。

全編に渡って、彼女の溢れんばかりの魅力が映画を包んでいる。

昔結婚を約束した最愛の人の面影とより美しくなった彼女に

深く心を揺さぶられるジャック。

しかし成功して数々の浮名を流してきたプレイボーイの彼は

近所に住む自身に気があるように感じる妖艶な人妻と

一夜の関係に踏み込もうとしする。

そんな時、地元の親友だった友人が

「いいかこの街でケイトを抱けるのはお前だけなんだから思い直せ」

と諭され、ジャックは思いとどまる。

(この場面をアンジャッシュ渡部に見せたかったがもう遅かった。。)

そしてその後ケイトと娘との何気ない日常を過ごす中で

彼はケイトへの愛を心から感じ始める。

戻りたくない。このまま一緒にいたい。

でも、それは自分が生きていた人生を否定することになる。

そんな揺らぐ価値観にうろたえるジャックにケイトは呟く。

「私の人生でたしかなものはあなたと子供たちだけ」

彼女の迷いのない吐露に

人生の根幹が揺らいでいく。

でもこれはもう一つの世界。

途中、ジャックは自分の知らない、

自分たちの結婚パーティのホームビデオを眺める場面がある。

和やかな雰囲気の中

もう1人の知らない自分が皆に囃されて

彼女に歌を歌い始める。

♪La La La La La La La La La ~♪means, I love you~♪

最初は必死に歌う彼の姿が滑稽で

バカだねーと笑いながら見ているが

あまりにストレートに愛を捧げる彼の熱唱に

だんだんと顔つきが変わってくる。

2度と来ないかけがえの無い瞬間。

幸せの絶頂で破顔する自分。

でも、そこにいる自分は自分では無い。

言葉をなくしたジャック扮するニコラスケイジの表情が

たまらなく深く心を揺さぶる。

そして

クライマックスの切ない余韻に

人生の限りある時間の

切なさと愛おしさを噛みしめる。


この物語は決して社会的成功か家族との幸せかという

二律背反を唱える映画では無いと思う。


心の奥底がキューンとしめつけられるようなトキメキや

懐かしくて温かい感情を呼び起こし

一度きりの人生で

自分が愛する大切な人や好きなことを

悔いなく選択することの重みを

痛切に感じさせてくれる映画だ。

人生を左右する瞬間は誰にでもある。

この映画は

きっと誰もが命を閉じる前に湧き上がる感情を

これ無くしてはきっと後悔するという大切な何かを

発見するきっかけを与えてくれる。


今は先行きの見えない不安に社会全体が包まれて

とてもこの苦境を“天使のくれた時間”と思える人はいないかもしれない。

でも流れていく人生の中で

一度しっかり立ち止まって

今までしてきた選択

これからしていく選択を

心静かに考える時間にできるかもしれない。

不安

恐れ

怒り

見栄

常識

人目

思い込み

一つ一つ自分にまとわりついたものを削ぎ落としたら

最後に残るものは何だろう?

全ての人にとって形は違えど

きっとそれは、なんらかの愛。

苦しい時こそ全てはそこから始めたい。

私の人生で大切なもの。

健康、家族、そして映画と映画を愛する人すべて。

この苦境をいつの日か

あの日、私は立ち止まって

そして幸せに向かって歩き始めたんだ。

そんな“天使がくれた時間”だったと

笑って言える日がくるように。

今、そこにある愛を抱きしめていきたい。


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自己紹介

世界に愛を届けるシネマエッセイストのクワン Q-Oneです。皆さまにとって、心に火が灯るような、ほっこりするような、ドキドキするような、勇気が出るような、そんな様々な色のシネマエッセイをこれからもお届けします。今年中に出版を目指しています。どうぞ末長くよろしくお願いします✨☺️✨