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データはクリエイティブの武器になる。“天才”ではない私たちがクリエイティビティを発揮するたったひとつの方法

※前編はこちら→「データの‟分析”はもうやめよう。Wordpress無料プラグイン「QA Heatmap Analytics」が実現するこれからのWebマーケティング

デジタルシフト、DX(デジタルトランスフォーメーション)、という言葉をよく聞くようになりました。多くのビジネスシーンで、デジタル技術を用いた革新的なイノベーションが求められ、同時に、多くの企業の目下の悩みどころでもあります。

では、たとえば会社の“DX係”が、最先端の技術を取り入れたデジタルツールを導入し、データサイエンティストを雇い、たくさんの複雑なデータを扱えるようになれば、その会社のDXは達成されるのでしょうか?

答えはNOです。
「データを使って変革を起こすのは、アナリストやマーケターなど一部のプロだけが行うこと」。そう思っていませんか?

「データは、意思のある万人が公平に手に入れるべきパワーです。データ分析は1企業だけのものでも、アナリストだけのものでもないと考えています」。

そう語るのは、株式会社ウェブジョブズ代表取締役・丸山耕二。エンジニア経験を根底に持ち、長年Webコンサルタントとしてアクセス解析の浸透・支援に取り組んでいる丸山は、現在、誰もが簡単につかえる行動データ分析プラットフォーム「QuarkA(クオーク・エー)」の開発プロジェクトマネージャーでもあります。

今、さかんに叫ばれる「データの活用」。その本来の意義は、「データを使って、人々がよりクリエイティビティを発揮し、社会に良い変革をもたらすこと」にあります。そして「クリエイティビティ」とは、一部の「天才」だけにあるものではなく、すべての人間に本質的に備わっているものだと、丸山は語ります。

クリエイティビティを発揮するには、「センス」や「才能」ではなく、「データ」が武器になる。生き残りをかけたデジタル化が加速する現代で、本当に私たちが「データ」をもとにやるべきこととは何かを聞きました。

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丸山耕二(まるやま・こうじ)
株式会社ウェブジョブズ代表取締役。立命館大学理工学部 電気電子工学科卒業。伊藤忠テクノサイエンス株式会社(現伊藤忠テクノソリューションズ)勤務後、日本のSEOの草分け的存在であるECジャパン株式会社勤務を経て、Webコンサルタントとして独立し、現在へ。
SEO / SEM およびアクセス解析、システムからマー ケティングまでを包括的にカバーするWebコンサルティングを得意とする。日本初のウェブ運用に関する通信講座「ウェブ担当者通信」主催、著書に『無料でできる!世界一やさしいGoogle Analytics-アクセス解析-入門』など。
Twitter:@koji_maruyama


「データを使う」とはどういうことか?

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──いま、さまざまなビジネスシーンで言われる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。多くの企業が「データ」を集め、デジタルツールの活用に力を入れています。

はい、業界での生き残りをかけて、DXに取り組む企業は多いと思います。膨大なビッグデータをどう管理し、どんなツールを使って計測・分析するか。Googleアナリティクスをはじめ、優秀なデータ計測ツールは星の数ほどありますし、DXに関する企業の課題は山積みでしょう。

しかし、集めた数値データがまるで宝の山かのように言われるのには、少々疑問が残ります。データから魔法が生まれるわけではありませんから、単にデータの計測と分析にリソースを割くだけで企業は成長しません。逆に、データ計測ツールを提供する側も、企業やアナリストたちを膨大なデータの海に投げ込んでいるだけかもしれません。

大切なのは、「データ」を使って人がクリエイティビティを発揮することです。

──「データ」を使ってクリエイティビティを発揮するとは、具体的にどういうことなのでしょうか?

たとえば、作業服販売で日本一の規模を誇る株式会社ワークマンの「データ経営」を見てみましょう。

ワークマンでは、すべての社員が表計算ソフトのエクセルを扱えるようにしたことで、業績を伸ばし続けています。

高度な情報処理システムを導入するわけではなく、社員ひとりひとりが自分の店の担当データをエクセルで分析し、品揃えを変えたり発注の仕方を工夫するなど「データをもとに自分で考える癖をつけたこと」で、企業全体が大きく成長している。しかも、社員がエクセルで使っているのはいくつかの関数とピボットテーブルなどシンプルな機能のみだそうです。まさしく、企業のDX成功例の1つです。

DXの肝要はデータを中心としたフィードバックループの形成であり、それは人と機械が担えます。ワークマンの事例からもわかるように、DX成功のカギの1つは膨大なデータを管理し、そのデータを誰でも使えるようになることです。

言い換えれば、アナリストやマーケターなど一部の人間のみがデータを扱えるようになっても、会社や社会全体のDXの歩みは遅くなるばかりでしょう。

いまの「データ分析市場」の課題はここにあります。企業や社会は生き残りをかけてDXやデータ経営をしないといけないけれど、データを扱える人が限られている。

実際、現在の日本企業のIT実践活用能力は、5段階(入門、初級、中級、上級、最適化)評価中、初級だと言われています。つまり、IT部門の一部でしかITが活用されておらず、組織全体で扱えているとは到底言えないレベルということです。

本来、データとは選ばれしプロたちだけに扱えるものではなく、すべての人に平等に与えられるパワーであると私は考えています。そしてこのパワーは、すべての人に備わっているクリエイティビティ(創造性)を発揮するために使われるべきです。

とはいえ、クリエイティビティを発揮するために全員が複雑な情報処理ツールを使いこなすプロである必要はありません。現に、エクセルの関数とピボットテーブルが使えるだけで成長を続けるワークマンのような会社もあるのですから。

クリエイティビティのスイッチは「観察と発見」である


──より多くの人がクリエイティビティを発揮するには、どうすればいいのでしょうか?

先述の通り、私はすべての人にクリエイティビティが備わっていると思っています。DXに限らず、革新的なことをやるためにはクリエイティビティが必要ですが、それはつい「クリエイティブな一部の“天才”」たちだけにできることだと思われがちです。

たしかに革新的なクリエイティブをつくる“天才“たちの仕事は、一見センスと才能の塊に見えます。しかしよく聞いてみると、そのクリエイティブは「よく観察し、発見すること」から生まれていることも多いのです。

たとえば、ユニクロやセブンイレブンのロゴデザインを手がける佐藤可士和氏のクリエイティブは、緻密な計算と、果てしない「観察」から生まれています。

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「セブン-イレブン」 リブランディングプロジェクト トータルプロデュース 2011年-
(出典:佐藤可士和展HPより)

(アートディレクターとは)感覚で作品を作る、アーティスト的な仕事と思われがちだが、実際は違う。クライアントの言葉にならない熱い思いを引き出し、社会に伝えるための的確な方法を見つけ、具現化する仕事である。

(中略)

クリエイティブマインドを磨くための方法はたくさんあるが、最も重要なのは「そもそも、これでいいのか?」という疑問を抱くことである。
慣習や業界の常識といった“前提”を疑う気持ちがないと、物事はダイナミックには変化しない。
まずは常識とされている事柄に疑問を抱き、冷静な眼で様々な角度から観察し、検証してみることが、クリエイティブシンキングの原点になる。
『佐藤可士和のクリエイティブシンキング』(日本経済新聞出版社)

つまり、身の回りを冷静に観察し、気づきや発見を得ることがクリエイティビティのスイッチになっているんですね。

観察から生まれたクリエイティブでもう1つ例をあげましょう。SUICA改札機です。駅の改札でICカードをピッとやる、アレです。

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現在の自動改札機
(出典:JR東日本 Suica 自動改札機の通り方より)


SUICA改札機の開発当時、ICカードをアンテナ面に充分な時間タッチする必要があることを誰も知らなかったので、読み取りエラーが頻発し、改札をちゃんと通れない人が多かったそうです。

「うまくアンテナ面に当ててくれるように、そして、一瞬止めてくれるようにデザインできませんか」。JR東日本からそう依頼を受けたインダストリアルデザイナーの山中俊治氏は、田町の臨時改札口で2日間の実験を行うことにしました。

実験では驚くような光景がたくさん見られました。今では考えられないことですが、カードを縦に当てる人、アンテナの上で激しく振る人、有人の改札機のようにカードを機械に見せて通ろうとする人、ともかく光っている所にかざす人…。

いろいろな形のアンテナを試してみると、解決策は意外にシンプルな所にありました。「手前に少し傾いている光るアンテナ面」、それだけで多くの人がちゃんと当ててくれることがわかったのです。

(中略)それらの結果をふまえて作られた改良型による1999年の実験では、読み取り率は劇的に向上し、5割近かったエラー率が、1%以下に下がりました。これによって経営陣のGOがかかり、SUICAは2001年から導入されます。

あらためてSuicaの話でもしようか その2 -山中俊治の「デザインの骨格」
http://lleedd.main.jp/blog/2010/11/25/suica_2/


こうして、斜めに傾いて中心が光る「タッチ&ゴー」の原型がつくられたのです。

駅の自動改札は何万人もの人が毎日使うものであり、万国共通で本能的に使えるものでないと運用には耐えられません。それが、全世界から集めたビッグデータではなく、数名の被験者の「観察」から生まれたのです。本来の「分析」とは何か?に、深い洞察を得られる事例です。


こうした「観察と発見」によって生まれたクリエイティブの事例は、いたるところにあります。クリエイティビティは、よく観察し、発見することで発揮されます。決して、一部の“天才”の中から湯水のごとく湧き出てくる超能力ではありません。

使いづらいキッチンの壁に棚をDIYしてみることや、いつもの散歩道からより景色のいいほうへ散歩コースを変えること、自分に似合う服やメイクを見つけること……歴史をもっと遡れば、種を植えることで安定的な食糧供給を可能にした農業も、すべてが観察から生まれるクリエイティブです。クリエイティビティは、すべての人間に原始から備わっている能力です。

私たち自身が「データ分析」をやる意味

──すべての人に備わっているクリエイティビティを発揮するスイッチが、「観察と発見」なんですね。では「データ分析」は意味がないのでしょうか?

いいえ、そうではありません。「データ分析」とは、「観察」の一部だと私は考えています。

そもそも「データ」とは、事象をある角度から記録したものです。Webサイトの閲覧回数も、コンビニの監視カメラの映像も、SUICA自動改札の実験結果も、すべて「データ」と言えます。

大切なのは、その「データ」を集めることではなく、どう観察(=分析)し、何を発見するかです。数値という「データ」の一種に埋もれてしまいがちな現代では、もう一度この原点に立ち戻ることで、世の中はずいぶんとシンプルに、かつ楽しくなるのではないでしょうか。


──つまり、「データ分析」によって何かを発見したり気づきを得ることが重要?

そうです。私たち人間は、さまざまな「データ」を観察し、発見し、仮説を立て、検証を繰り返すことで、クリエイティビティを発揮します。

言い換えれば、データの「計測作業」だけに時間やリソースをかけるのはあまり意味がありません。
企業の”DX係”が高度な情報処理システムを導入し、IT専門家を雇ったとしても、現場の社員たちに理解されなければ、その企業のDXはなかなか進まないでしょう。性能の良い監視カメラをスーパーに設置しても、監視員が映像から何を発見すべきかわからないと万引きは減らないはずです。

つまり、クリエイティビティを発揮するためのスイッチが観察と発見であり、観察する対象が、いま私たちの目の前にある大量の「データ」です。

そして「データ」の観察方法は、複雑な情報処理システムである必要はありません。エクセルでもいいし、実験でもいいし、通行人をただ眺めるだけでもいい。

“天才”ではない私たちでも、目の前の「データ」を上手に観察し、スイッチを丁寧に発見できれば、必ずクリエイティビティを発揮できるはずです。

──とはいえ、「データ分析」ができる個人や企業は限られてくるのではないですか?

たしかに、現代ではGAFAなど一部の巨大企業やIT専門家たちだけが「データ」を独占し、活用しているように見えます。

ここに、私たちひとりひとりが「データ分析」を行えるようになったほうがいい理由があります。

「データ」はプラットフォーマーから自社で持つ時代へ移行しつつあることです。

というのも、いま世界で最も多くの「データ」を持つ企業の1つであるGoogleは、2021年3月、個人情報追跡からの決別宣言をしたのです。

つまりGoogleといえども、消費者に許可を得ていないビッグデータから個人を特定し追跡するのはプライバシーの観点で問題を抱えていることが明白になりました。

こうした「データは誰が管理すべきか?」というデータオーナーシップについての議論は、今後もより激しさを増すでしょう。これを受け、これからは巨大なプラットフォーマーだけが「データ」を独占するのではなく、各企業が顧客から得た自社データを正しく使うことが求められるのではないかと、私は考えています。

もともと、データとは顧客の許可を得て使うものです。今でも、閲覧履歴からどこまで追いかけてくる広告表示は嫌がられますが、車の営業マンから誕生日に手紙が送られてきてもいやな気分にはなる人は少ないはず。

だからある意味、自社データ時代への正しい逆行が進みつつあると思っています。財産となる大切なデータは、自分たちで管理し、分析し、正しく活用する。そんな時代が見えつつあるのです。


「データ」を武器に、“天才”と戦おう

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──「データ」を上手に観察しクリエイティビティを発揮するために、私たちはどうすればよいのでしょうか?

ワークマンの例でも言ったように、クリエイティビティを発揮するために全員が複雑な情報処理ツールを使いこなすプロである必要はありません。要は「発見」ができれば良いのですから、データの可視化を得意とするツールを活用したり、さらなるレベルアップのために多角的に分析できるプロと共創した方が生産的でしょう。

何より、「数字とにらめっこする」時間は多くの人にとって苦痛な作業です。本来、「分析」とは「発見」をするための楽しい作業のはずです。

私たちQA開発チームは、本来楽しいはずの「分析」が数字とにらめっこする苦痛な作業だと認識されている現状に問題を感じています。意志あるすべての人が気軽に「分析」し、「発見」を楽しみ、クリエイティビティを発揮できる世界をつくりたいと思っています。

だからこそ今、誰もが簡単につかえる自立分散型Behavioral Data Platform(行動データ分析プラットフォーム)である「QuarkA(クオーク・エー)」を開発しています(詳しくはこちらの記事へ)。

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QuarkAは、「発見を楽しむ」をコンセプトに、プロではない人でも「分析」と「発見」を楽しむことができる世界を見据えて開発している、行動分析プラットフォームです。サイト訪問者の動きが直感的に理解できるヒートマップ機能をはじめ、将来的には自社にデータを溜めてAIに分析を任せられるような設計でつくっています。

世の中に行動分析ツールはたくさんありますが、現代のデータ分析市場の根本課題である「人のクリエイティビティの発揮」を真剣に考えているところがQuarkAの特徴です。

──データ分析ツールは世の中にたくさんありますが、既存サービスとの違いはどこにあるのでしょうか?
たとえるなら、エクセルのようなサービスを目指して開発しています。エクセルは、全ての人にとって優れたデータツールだと思っています。簡単な計算も、複雑な解析も、使う人に合わせて自由にできます。多くの人が自分のレベルに合わせて使えて、創造的な行動に注力でき、もっと生活が便利になる。

当然、ウェブ業界にも似たようなソフトウェアがあっていいと思いますが、それがまだ登場していないのではないかと思っています。

たとえば、Web上のデータを扱えるサービスとしてGoogleアナリティクスという非常に優れたデータ計測ツールがあります。しかし、近年のGoogleアナリティクスはどんどん初心者向けではなくなってきていますし、いつ終了になってもおかしくないと思っています(詳しくはこちらの記事で解説しています)。

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私自身、長らくWebコンサルタントとしてアクセス解析の浸透・支援に取り組み、Googleアナリティクスを用いたサイト改善の著書も出したことがあります。Googleアナリティクスの一部の機能を用いて、どう「発見」し、クリエイティビティを発揮するかの考え方を伝えたかったのです。

しかし、その本の感想をいただいたときに、とても歯がゆい思いをしました。「内容は面白いけれど、もっとGoogleアナリティクスの機能の使い方の説明がほしい。次はもっとレベルの高い解説書を出してほしい」とご意見をいただいたのです。

私としては、著書に書いたことがすべてで、それ以降の解説はもうありませんでした。使い方の良書はたくさんありますし、大切なのはデータを使って「発見」し、新たな価値を創出することなので、「発見」のためのヒントを提供すれば、あとはユーザーの皆さんのクリエイティビティにゆだねるつもりでいました。しかし現実では、ツールの使い方はますます難しくなり、分析作業そのものにのめりこんでしまう人が少なくありません。

私はツールの説明書をつくりたいのではなく、人のクリエイティビティの根源となるインスピレーションを提供したかった。だからこそ、次回作として解説書ではなく、QuarkAという人のクリエイティビティを発揮するスイッチとなるサービスをいま開発しています。

テクノロジーが人を重労働から解放する流れは、今後も加速するでしょう。人はより思考と創造にリソースを割けるようになり、思い描くものを自由に実現できるようになる。その中で私たちは、新たな価値創出の裏付けや支援ができるサービスを提供したいと思っています。

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人間が原始より持つ「観察」の能力を充分に用いてデータを活用できれば、“天才”ではない私たちも必ずクリエイティビティを発揮できる。
クリエイティビティのスイッチをつくり、より多くの人に届けることで、すべての意志ある人にデータに基づくインスピレーションを。
私たちQA開発チームは、意志ある万人がクリエイティビティを存分に発揮できる世界を目指しています。

> QuarkAについてはこちら

※前編はこちら→「データの‟分析”はもうやめよう。Wordpress無料プラグイン「QA Heatmap Analytics」が実現するこれからのWebマーケティング


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