見出し画像

北朝鮮でのサッカーの作法 #4 ボールは友だち

 日本、韓国、台湾、中国。日本列島周辺の地図から、北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国だけが、ぽっかりと抜け落ちている。

 野球の話である。

 元プロ野球選手の金村義明の「在日魂」(講談社)や、韓国プロ野球の黎明期に韓国に渡った在日コリアン選手の活躍ぶりを描いた「海峡を越えたホームラン」(関川夏央・双葉文庫)など、野球界での在日コリアン選手の活躍を描いた秀作はある。だが野球は世界的に見ればマイナーな競技。北朝鮮にプロ野球はない。朝鮮学校にも野球部はないようだ。

 むしろサッカー。国技であることに加え、日本でも東京朝鮮中高級学校の強さはよく知られたことで「無冠、されど至強」(木村元彦・ころから)に詳しい。ホ・ジョンマン朝鮮総聯議長もサッカー部出身として知られる。

 なぜ野球ではなくサッカーなのか。国技ということだけが理由ではないだろう。30代の在日コリアンの友人に聞いたことがある。友人は笑っていった。「そりゃ道具の差ですよ。全員分のグローブ、ミットにボールにバット。あとはキャッチャーマスクもいるかな。これだけの道具が必要でしょ。お金かかるんですよ。その点サッカーは、原っぱとボールひとつあればいい。昔は貧しかったからなおさらでしょ」。

 なるほど。この点南米などと同じ理由だ。

 もうひとつ、平壌市内を移動していて目に付いたスポーツがある。バレーボールである。同行してくれたカメラマン氏も、その豊かな腹を揺らせながらアタックを見せてくれた。

 これも同じ理屈。広場の真ん中にふたつ棒を立て、紐を結べばコートの出来上がり。あとはボールひとつあればいい。そういえば昼休みに会社の屋上でバレーボールをする人たちは、今もいるのだろうか。ニッポン無責任時代のワンシーンを思い出した。

 貧しさというキーワードだけで見るのは失礼に過ぎるだろう。手軽さと置き換えるべきだ。

 訪朝する直前に毎回会食し、様々なアドバイスをもらう在日コリアンの”師匠”がにやりと笑って言う。「北岡さん、朝鮮へのいい土産をひとつ教えてあげましょ。ボール。サッカーボールでもバスケットボールでも、バレーボールでもいい。日本製のちょっと高めのボールを買っていくといいですよ」

 訪朝の際、学校見学はよく行われるプログラム。ぼくも平壌国際サッカー学校と、平壌6月9日高等中学校を見学している。サッカー学校では団長がたばこを渡していたような気がする。ああ、もったいないことをした。

 ”師匠”は言う。「もちろん朝鮮にもボールはあるんだけど、やっぱり日本製に比べると明らかに質が落ちるんですよね。そこにしっかりした日本製のボールを渡してみてくださいよ。もうそれだけで子どもたちのヒーローですよ」。

 さすがの在日コリアンの慧眼。まさにボールは友だち。朝鮮人の子どもたちにはボールをプレゼントした日本人は強烈な印象を残すだろう。ボールにはしっかりマジックペンで「日朝友好」と日付を朝鮮語で書いて渡そう。  

 だが思うのだ。日朝友好と書かれたサッカーボールが、子どもたちに蹴られる絵というのは、実に皮肉ではないかと。だが一方で思う。記念品のように校長室に飾られるボールは、ボールとして幸せなのかとも。

 次回訪朝の際はどこか学校見学を建議するつもりだ。そしてボールと共に、ぼくは海峡を越える。

■ 北のHow to その68
 大人の朝鮮人とはそれなりに会いますが子どもとはなかなか。大人を前に緊張している子どもたちの前にいるのは、ぼくらにっくき日本人。子供たちの緊張と憎悪のイメージを180度逆転せねば。”師匠”のいう通りボールというのは、その道具として間違いないでしょう。

#コラム #エッセイ #北朝鮮 #北のHowto #サッカー #国技 #野球 #編集者さんとつながりたい #ボール #おみやげ #会話術 #スポーツ #広島カープ #ジャイアンツ #在日 #朝鮮学校 #日本人  

サポートいただけたら、また現地に行って面白い小ネタを拾ってこようと思います。よろしくお願いいたします。