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営業と奉仕

 「北朝鮮の人は、必ず韓流ドラマを見ているはず」というのは、過去何度も訪朝している在日コリアンのコメントで、一応ご禁制の品ではあるにせよ、水面下で相当量流通しているのであろうと推測される。

 そこに描かれているのは財閥(なぜか韓流ドラマでは定番である)の子女の豪奢な生活ぶりや、何でもそろうコンビニエンスストアだったり、北朝鮮と比べると明らかに物質的に豊かな生活ぶりである。

 結果、北朝鮮の若い人たちの間では、ソウルのことばを真似たり、ファッションや髪型を”韓流”にしてみせたりして、当局はその取締に躍起というが、外国人にはそんな姿を決して見せない。女性接待員に聞いてみれば「南朝鮮のドラマですって?そんな退廃したものみるわけじゃないですか」そういってくれるに違いない。いや、そういわせてみたい。

 だが実際は彼女たちも気づいているはずだ。物質的には圧倒的に南の方が豊かであるということを。金正恩総書記も「南(の高速鉄道。KTX)に比べてわが国の鉄道は貧弱で」と吐露していたではないか。

 しかし貧しいからと言って、彼女たちはそのことに引け目を感じたり、逆に虚勢を張ったりするわけではない。彼女たちはいつも誇らしげなのだ。

 親しくなった何人かのレストランの女性接待員たちがこんなことを聞いてきた。客はぼくと数人で、接待員の方が数が多い。「私たちのサービスはいかがですか」と。料理は美味いし、みんなかわいいし、みんな笑顔が板についてきたし(初めはみんな硬い表情だった)、いいじゃないのと答えると、彼女たちは満足げに笑った。

 ひとりの女性接待員が聞いてきた。
「先生様は南にも行かれたのですよね。南と比べるとどうですか」
 ほぅ。とその女性接待員に他の女性接待員の視線が集まる。誰もが聞いてほしかった質問だったのだろう。
 
 難しいなぁ。韓国では若いお姉さんのいる店なんてまず行かないからなぁ。ソウルに何軒か行きつけの食堂があるけど、パーマかけた顔なじみのおばちゃんが「ほれ食えやれ食えもっと食え」とおかずやご飯を大量によそってくれるのだが、おばちゃんだもんなぁ。

「日本の学生さん。異郷暮らしは色々大変だろう。私のことをソウルの母と思え。何でも困ったことがあったら言いなさい」とまで言ってくれた優しいおばちゃんもいたけど、おばちゃんだもんな。ごめんソウルのおばちゃん、ぼく、平壌のお姉さんの方がいいわ。

「北の方がいいですね」と答えると満足げに女性接待員は笑い「なぜだかわかりますか」と聞いてくる。そりゃおばちゃんとかわいい女性接待員だったら、勝負は見るも明らかではないか。え?違うの?

「わが国ではお店が開いている時間を봉사시간(奉仕時間)と言いますね。南では確か영업시간(営業時間)と言いますよね。さて奉仕と営業。どっちが心がこもっていると感じますか」。

「奉仕!文句なく奉仕!」そう答えると彼女はにっこりと笑って言ったのだ。
「先生様もわが国のことをよく理解されるようになりましたね」

 こんな他愛もないやりとりが懐かしい。

■ 北のHow to その123
 北朝鮮の女性は総じて誇り高い。その誇り高さがぼくは大好きなのです。目鼻立ちだけではない、その内面を少しでも感じることが出来たら、北朝鮮へのイメージは大きく変わることでしょう。

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サポートいただけたら、また現地に行って面白い小ネタを拾ってこようと思います。よろしくお願いいたします。