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【解説】灘中 2024年 国語 1日目について

(灘中 2024年 1日目についての解説になりますので、お手元に入試問題をご用意の上でご覧下さい。なお、全体の分量は約6000文字です)

大問一 くどうれいん『桃を煮るひと』より
 2024年度の大問一の文章は2023年度に比べて難しい言葉も少なく、身近な出来事をさらっと切り取って描いてみせる随筆文となっています。小難しい語彙で受験生を押しきるようなことはせず、純粋に「読む力」を試そうとする灘中のスマートな戦略が伺えるセレクトです。一見、いわゆる言葉を直接的に話題とした文章にはなっていないため、そこは過去の傾向からややずれているように感じられるかもしれません。しかし、筆者独特の言語センスがきらりと光っており、とても読み心地のいい文章です。
 ですが、読みやすいだけではない奥行きがあるところはさすが灘中と言えます。今回の文章の場合、読み取りの決め手になるのは日常的な体験の幅です。文章の中心にあるのは筆者のノスタルジーであり、「子供時代の体験を大人になってからの体験によって逆照射する」という構図が含まれています。その意味においてこの随筆文は完全に大人向けの性格を持っており、小学生にとっては未経験の状況が描かれているわけです。従って、適切に内容を理解するには「自分の体験」と「筆者の体験」をブリッジする想像力が必要になります。語彙の難しさではなく、文章の内容によって難度のグラデーションを作るという技法が観測される出題であり、わかる受験生にはわかるというラインを綺麗に引いてくるバランス感覚が垣間見えます。
 ここから語句問題について見ていきましょう。
 問三は外来語の設問ですが、前年に続いて書いて答える形式になっています。この傾向はしばらく続くのではないかと考えられます。4の答えは「リモート」ですが、こうしたところに現代の世相が反映されているようで興味深いところです。些細なことではありますが、時代への目配りを忘れない灘中の姿勢が読み取れる部分であり、温故知新の精神を持った受験生を求めている印象が伝わってきます。
 問四の方は、「二字熟語+動詞」の慣用表現が出題されています(「裏目に出る」「大目に見る」「目先が変わる」等々)。ことわざや慣用句、四字熟語等の単元がはっきりした語句に比べると進学塾で固めて学ぶ機会が少ないため、こうしたところは隙になっている場合があります。こまめに辞書を引いたり読書をしたりして積極的に見知っておく必要があると考えておきましょう。ただ、言葉の難度という観点からすると全問正解に持ち込みたい水準です。
 問五は、かなづかいと語彙力を両方とも試そうとしていると考えられます。3の「とどこおる」と4の「おおやけ」がやや間違えやすそうですが、これも問四と同様に灘中の受験生であれば標準レベルでしょう。
 総括してみると、大問一の語句問題は例年通りと言える水準です。それほど大きな冒険はしていないようですので、手堅く点数を取りきれるように準備を整えたいものです。

大問二 俳句の空欄補充
 まずは解き方を一通りチェックしておきましょう。1は「粥→七草粥→すずしろ」と連想を働かせれば、アが答えと判断できます。2は「紅白」から「梅」か「椿」という可能性が思い浮かびますが、音数や「枝差し交す」から思い浮かぶ情景を手がかりにすると「梅」と確定します。3は「雨」から「あじさい」も入りそうですが、音数の面からすると五・七・七になってしまうので不自然です。ここは「長ごうして」から花の形状をイメージし、「藤」を選択したいですね。4は直接的なヒントが見当たりませんが、「雫→雨→あじさい」と連想の広げて正解に持ち込みましょう。3とまとめて答えを判断すると、より確実性が増します。5は「葉洩れ日→上から日の光が差している(作者の頭上に植物がある)」と情景を想像し、「粒」に着目して「ぶどう」と考えられれば問題ありません。最後の6はヒントが多く、「白」「棒」「刻む」から「葱」と見当がつきます。
 季節の行事の知識を絡めて判断する1は、灘中らしさを感じさせる出題です。以前にも2018年度の2日目の詩で正月行事を絡めた読み取りを要求したことがあり、灘中の基本コンセプトはここでも一貫しています。そして、要注意なのは「雨」と「雫」をヒントにしてそれぞれに「藤」と「あじさい」を当てはめさせる3、4です。幸い、音数が手がかりになっているので切り抜けやすかったですが、答えの候補になる言葉の音数が同じになっていたら難度は大きく上がったでしょう。そういう点では難度調整が上手くできています。しかし、いつでも手加減をしてくれるとは限りませんので、1つのヒントで迂闊に答えを決めてしまうような癖はつけない方がいいでしょう。
 全体的に見ると、個々の問いの難度は低めと受け止めるのが適切です。灘中もそういう意識があるらしく、その点が選択肢の数に表れています。2023年度も2024年度も問題数が6問であるのに対して選択肢は12個となっており、選択肢の数を増やして惑わせる作戦を取っているように思われます。選択肢の数が多い時はそれぞれの設問の判断が容易になっていることが多いと予想されますので、問いの外見に騙されずに対応したいものです。

大問三 和語の空欄補充
 和語についても書いて答えさせる形式が復活してきています。そして、外来語と同様にこのパターンは当面続くと考えるのが良さそうです。というのも、入試結果を見る限りでは書かせる形式になっても平均点が下がっていないからです。出題の仕方を難しくしても平均点が変動しないのならこのままでもいいだろうと灘中が考える可能性は高く、出題形式で手加減してくるという期待は持たない方が賢明です。
 なお、今回の出題は接尾辞の知識を試しているところがあり、注意が必要です(「おためごかし」を書けた受験生はどのくらいいるのだろうかと思うと、少々鳥肌が立ちます)。ここも進学塾の一般的な教材ではあまり扱わないため、普段から多様な言葉にアンテナを張り巡らせておく必要があると言えます。

大問四 副詞の空欄補充
 こちらは大問三とバランスを取ったのか、難易度が低くなっています。選択肢に含まれる言葉はどれも塾のテキストやテストで見かけることが多いため、全問正解できていないと平均点を大きく下回る恐れがあります。なお、いつもの灘中に比べると例文が長めなのが面白いところです。灘中の語句問題の例文は「短くて端的」が定番なのですが、1、3、4は2行目まではみ出しています。また、2が例文だけからでは確定的に答えが定まらないように感じられ、やや緩やかでいつもと雰囲気が異なります。2については他の言葉を当てはめてもしっくりこないため、恐らくアだろうと判断して問題ありません。しかし、慎重を期すならば2以外を埋めてから消去法で確定する方が安全でしょう。今回はまだ迷わされる要素が少ないですが、大問二の3、4と同じように工夫次第でいくらでも難度を上げられるところですので、「慎重さ」を自分のデフォルトとしておいた方がいいと考えておいて下さい。

大問五 和語から漢語への変換
 少し目新しい出題です。灘中は1日目で色々な出題の仕方を試してきますが、これもその一環と考えておくのが適当でしょう。毎年一題くらいはこうした問いが出てくる可能性がありますので、それ以外の標準的な出題を全て取りきるという意識を持って答案を作れるようにしておいて下さい。
 ここは特に1、3を取り上げておきます。
 1は「やまかわ」に注意したいところです。漢語にすると「山木(サンセン)」ですが、一瞬迷った受験生もいるかもしれません。「山川草木」という四字熟語が思い浮かぶと即座に気づけるところですが、目の前の問いが四字熟語や慣用句等の知識をカギにすると解けるというケースが灘中ではよくあります。頭の中で色々な知識を結びつけながら考える習慣を身につけ、「知識で考えて切り抜ける」という姿勢を作り上げておくことが大切です。ただ、ここは「やまかわ」を漢語に変換できなくても「よるひる」が「昼夜」とわかるので答え自体は容易に導けます。1は「やまかわ」を入れることで少し受験生を迷わせようとしている気配が漂っています。
 3に関しては、「めおと」が厄介です。これを漢語にすると「夫婦」ですが、「め=妻」「おと=夫」なので、和語と漢語で前後が入れ替わっていることがわかります。ただ、問題なのはそもそも「めおと」の意味がわからなかった受験生が一定数いそうだという点です。そうした中で、関西圏の受験生ならば「夫婦(めおと)漫才」という言葉を知っていて、あれのことだと気づけた可能性はありそうです。雑学が助けになる問いという意味では、幅の広さを試されているという言い方ができるかもしれません。

大問六 漢字しりとり
 2024年度は三字熟語を絡めた漢字しりとりということで、再び新しいパターンの登場です。近年、漢字しりとりは二字熟語以外の知識と関連づけた形での出題が何年かに一度出てきており、今回もその流れに則っていると見ることができます。今後も色々な単元とのコラボレーションを仕掛けてくることが想定されますので、漢字しりとり単体の対策では点数が取れなくなるという想定の下で準備を整えておくのが現実的です。
 さて、今回の漢字しりとりは三字熟語の知識がきちんと定着していると難度を大きく下げることができます。具体的には、意味から三字熟語をさっと思いつけるレベルになっていればということになります。まずは手始めに、イ~オの説明を見て三字熟語が思いつけるかどうか確かめてみましょう。それぞれイは「走馬灯」、ウは「度外視」、エは「短兵急」、オは「心技体」ですが、この段階で1つでも思いつけるとかなり有利です。なお、出てきている三字熟語はいずれも一般的な進学塾で学習するレベルのものなので、普段の積み重ねがしっかりと点数に直結するように作られています。しかし、逆に言えば意味から三字熟語を思いつけないとかなり難しい出題とも評価できます。三字熟語の知識がうろ覚えという受験生はⅠ~ⅢのA、B、Cをチェックして答えを思いつけないか試し、じわじわと答えに迫るしかありません。上手く行けば、取っ掛かりが見つかって「三字熟語の穴埋め問題」へと難度を押し下げることができます。知識の定着度合いで大きな差が生まれる仕様になっているという点で、この出題はなかなか計算高い作りをしています。
 なお、今回も注目ポイントは〔例〕です。その中には「漢詩」「物議」が入っており、これが答えになる語彙のレベルを予告しています。「漢詩」は小学校の授業等で聞いたことがあるかもしれず、「物議」は「物議をかもす」という形で学んだ受験生も少なくなさそうです。ですが、こうした言葉が〔例〕に含まれているということは、同じ水準の熟語が問いの中にも出てくると考えるのが適切であり、頭のギアを切り替えて解きにいく姿勢が必要になります。
 今回は三字熟語をすぐに思いつけなかった場合を想定し、特にⅢを取り上げて考え方を検討してみましょう。
 漢字しりとりに対応する時には、答えを思いつきやすそうなところを見つけ出してそこに集中的に時間を投下するのが基本戦略です。しかし、Ⅲは実は弱点を見つけにくくなっています。なぜならば、答えになる熟語に小学生にとっては普段使い慣れていない言葉が多いからです。具体的に言えば、「母体」「体得」「得心」「実技」がそれに当たります。これらの言葉は「母体を保護する」「技術を体得する」「説明に得心する」「実技試験を受ける」というように用いますが、小学生が書き言葉として使う機会はあまり多くないはずですし、友達との会話や学校の授業で頻繁に耳にするような言葉でもありません。こうした熟語はいわば「盲点に入っている言葉」と言えますが、灘中はこの盲点を突くのが恐ろしいほど上手い学校です(盲点だった言葉を指摘されると、多くの受験生は凝りをほぐされた整体の患者のように「あーっ」と叫びます)。塾のテストやテキスト、本等で目にしてかすかに記憶に残っているという程度だと、試験のプレッシャーがかかっている状況で即座にアウトプットするのは困難です。あるいは「体得」なら少し馴染みがあるかもしれませんが、「得」が下に来る熟語は意外と多いので「体得」にたどり着くのに少し時間を要する恐れがあるでしょう。こうした中で攻めどころがあるとすればCかもしれません。「師」があとに来る熟語はあまり多くなく、かつ盲点になっている言葉があまり多くありません。「教師」「医師」「恩師」「講師」「漁師」辺りがすんなり出てくるところまで訓練ができている受験生なら、「技師」も思いつけて「実技→技師」にたどり着けるでしょう。そして、それを手がかりにオが「心技体」になるのではと推測できれば残りのA、Bの答えも確定できます。
 2024年度の漢字しりとりは「ステップ1:三字熟語が思いつけるかどうか」と「ステップ2:問いの急所に気づけるか」の2つのポイントがあり、ステップ1を乗り越えられた受験生と、ステップ2で対応した受験生、そしてどちらのステップにも到達できなかった受験生の間で大差がついたと予想されます。事前準備の積み重ね次第で難度が劇的に上下するように作問されており、受験生の力量を見極める高性能かつ優秀な設問です。対策としては盲点となる言葉を減らすことが必須であり、日常会話や読書を通して接する語彙の質を高めておくように心がけましょう。
 かつて漢字の十字パズルや漢字しりとりは「ボーナス問題」と言われた時代があり、ここで取れていると少し点数が稼げるという程度の受け取られ方もしていたのですが、ここ最近は「合否を決める総合問題」へ進化しつつあると言えるのかもしれません。

2024年度のまとめ
 全体を見渡してみると、2024年度の1日目の最大の特徴は和語と三字熟語が出題の中核になっていたことだと考えられます。一方で、これまでの定番だった四字熟語や慣用句、ことわざ、文法の割合が減ってきており、少し様子が変わってきているようです。そして、重大な点は和語、三字熟語がメインになっていたにも関わらず、1日目の平均点が去年よりも上がっていることです。以前、和語、三字熟語は受験生にとって弱点になっていることが多く、この2つの単元が出題されると平均点が明確に下がる傾向が見られました。ところが、この数年の様子を見る限りではそうした現象がほとんど見られなくなってきています。俳句の穴埋めの難度を調節する等、学校側が巧みにコントロールしているという面もありますが、それ以上に灘中の受験生全体のレベルが上がっていることが関係していそうです。ますます「弱点単元がない状態」が求められるようになることは必至であり、灘中が日本屈指の最難関校である最大の要因は受験生のレベルの高さにあると言いきってまず間違いありません。将来、灘中を目指す受験生は「全国大会に挑む」という気持ちで日々の学習に取り組んでいってほしいものです。

【入試分析】灘中 2024年 国語 2日目
受験国語指導室ピクセルスタディ岡本教室について(開室のあいさつ)

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