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【解説】灘中 2022年 国語 2日目について

(灘中 2022年 2日目についての解説になりますので、お手元に入試問題をご用意の上でご覧下さい。なお、全体の分量は約2000文字です。また、2022年当時に書いたものの再掲になりますのでご了承下さい)

 今回は、前回に続いて2022年度の灘中2日目について、感じたことや気づいたことをまとめていきます。最初に言いきってしまいますと、こちらも一旦難度を下げた昨年と色々な点で変わっており、さすが灘中と言うべき歯ごたえのあるテストとなっていました。
 まず、大問一の素材文は小林武彦『生物はなぜ死ぬのか』からの出題で、オーソドックスな説明的文章です。昨年も説明的文章を出題していましたが、今回は受験生の知識の範囲外を的確に突く内容の文章が選ばれていて、「知っている話題だからすいすい分かる」とはなっていません。基本に忠実に、全体の構成をきちんと把握する姿勢が試されています。設問の方は説明的文章の記述らしく、「本文の言葉を丁寧に参照すること」がカギになっています。どこに注目すると書けそうかを落ち着いて考えれば、それなりの点数が取れるはずですが、要注意なのは最後の問八です。「負/正のスパイラル」を知っていることが前提となる記述であり、「語彙力と記述力を同時に試す」という灘中の定番の1つと言えます。
 大問二は文月悠光『臆病な詩人、街へ出る。』からの出題です。この筆者は高校3年生で詩集を出版したことで知られ、とてもユニークな詩を書いています。それはともかくとして、こちらは女性の書き手による随筆文であり、これまた灘中の定番です。今年はそういう意味で言えば、素材文の面で冒険はしていないと考えることができるでしょう。
 読解としては、自分が楽しむためだけに「趣味」に取り組むことに関心が持てないことを語り、「文章を書くこと」にプラスになるかどうかでしか物事に興味が持てなかった若い頃のことを振り返った上で、今になってクラシックギターの練習に挑戦することで「趣味を楽しむ感覚」に目覚め始めた、という大きな流れを押さえる必要があります。受験生がつまずくとしたら、まずこの点かもしれません。「趣味を楽しむ感覚」を当然のものと感じている受験生がこの文章を読んだ場合、筆者の言いたいことを適切に受け止めきれなかった恐れがあります。しかし、灘中の随筆文を乗り越えるならば、「自分の感性」と「他者の感性」を切り離し、「自分の感性」を脇に置いて文章を客観的にとらえる姿勢が必須です。
 そして、設問の方は大問一と打って変わって、本文を利用するタイプの記述が鳴りを潜めています。比喩などの間接表現を自分なりの言葉で具体化する問いが多く、「表現の意図を文脈から判断する力」と「手持ちの語彙で過不足なく説明する力」がないと苦戦します。1つ触れてみると、問四は「自然に呼吸している」の意味するところを説明する問いですが、傍線部の前後には筆者が実際にバイオリンのレッスンを受けた時にどう苦しんだかということや、緊張した様子も見せずに筆者よりも遥かに上手にバイオリンを弾く小さな男の子のことが書かれているだけです。ここを使えば書けると言える材料が見当たらないため、前後の具体的な説明をヒントにしつつ、傍線部の「自然」「呼吸」から言葉を連想してまとめるしかありません。様々な表現があり得ますが、例えば「無理をしている様子もなく」「ごく当たり前に」「自在に」「思い通りに」等を思いつき、それらを用いて答えを書きたいところです。ほぼ全ての記述がこの調子のため、大問二は受験生によってかなり点差がついたのではないかと想像されます。
 大問三には森文子「大根の種まき」が出題されています。こちらも大問二と同様、限られたヒントをもとに連想力を最大限発揮して考えなくてはいけない問いが揃っています。問四を取り上げてみましょう。傍線部の「三日と待たず もたげる土を 早や」は、言いかえると「三日も待たないうちに、土を持ち上げて芽が出てくるなんて早いなあ」といったところでしょう。そうなると、芽を早々と出してみせる大根の姿に驚いているという読み方ができ、そこから答えが立ち上がってきます。このように、傍線部の言葉を分かりやすく言いかえたり、前後の言葉とつなげて読んで場面を想像したりした上で、心情を推測して答えを仕上げることがポイントです。
 さらに、大問三で最も受験生が悩まされそうなのは問六です。ヒントは2つあり、1つは第3連の「ああ まだ生きていて いい」で、ここから作者がそれなりに高齢なのではないかと予想できます。2つ目は第7連の「彼岸花」であり、ここから「死者の世界」が連想されてきます。この2点を総合すると傍線部の「あの顔 この顔」は作者がかつて出会い、もう会えなくなった死者達を指すのではと考えられ、答えの方向性が決まってきます。灘中は「老人の境地」を主題に据えた詩を比較的よく出してくるため、その意味で「大人っぽい感覚」の有無が読解の深度を左右すると言えるでしょう。
 長々と書いてきましたが、結論としては、今回の灘中2日目の平均が下がったのは、「大問二の記述の書きにくさ」と「大問三に出された詩のテーマのつかみにくさ」が主たる要因と考えられます。しかし、これらの傾向は決して目新しいわけではありません。過去5~6年の間に出題されたものと共通したテーマが含まれた文章/詩が出てきていたり、本文にない言葉を的確に思いつきながら答えをまとめる記述が多数出てきたりと、「いつもの灘中」に戻ったというのが講師としての実感です。今後、灘中を目指す受験生は過去問の傾向を十分に吸収し、時間をかけて「語彙力を強化する」「知識を駆使して考える」「大人の感覚を身につける」「本文に頼らない柔軟な記述力をつける」を念頭に置いた訓練を重ねていって下さい。

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