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【解説】灘中 2023年 国語 1日目について

(灘中 2023年 1日目についての解説になりますので、お手元に入試問題をご用意の上でご覧下さい。なお、全体の分量は約2300文字です。また、2023年当時に書いたものの再掲になりますのでご了承下さい)

「稠密的」「遡行」「摩天楼」「ファクト」「校閲」「筋交い」「強靭」……。これらは、2023年度の灘中1日目で大問一に出題された文章に含まれていた言葉です。どれも注釈はなく、知っているのが前提、または文脈から意味を推測できることが前提になっています。語彙に関しては、大人であれば常識と言えるレベルの言葉をどこまで自分の中に取り込んでおけるが、読解のカギを握っているという展開が今年も続いています。
 文章の内容もとても現代的です。SNSの隆盛を背景に、「事実」の取り扱いが問題となる出来事が昨今増えてきていますが、今回の文章はそうした社会的な状況を踏まえて書かれたものと判断できます。「客観的な事実」と「文章を書いた個人にとっての真実」の折り合いはどうしたらつけられるのかという問題意識が筆者の中にあることを見抜き、それに対して提示されている「答え」の核心に耳を澄ませられたかどうかが読解問題の点数を左右すると言えるでしょう。こうした文章を読みこなすには、社会で起こっている問題について普段から関心を持っていることもさることながら、ただ字面を追っていくのではなく、書き手の「意図」を考えながら読む姿勢を身につけることが不可欠です。灘中を目指す受験生は、「考えて読む」という視点を意識した訓練が求められることを自覚しておきましょう。
 一方で、「校正係」「編集者」といった言葉が出てくることからもわかる通り、「言葉を扱うこと」「言葉に関わる知識に関心を持つこと」という灘中1日目に一貫するテーマは健在です。例年通りの傾向を保ちつつ、新しい文章でそれを更新していくという灘中らしい「賢明さ」の光る良質なセレクトがなされており、テストとしての完成度はとても高いです。
 知識分野の出題に目を転じてみると、まず注意したいのが大問一の問四です。ここ数年、外来語の問いは選択式で出題するケースが多かったのですが、今年は書かせる形式の出題が復活しました。これで来年からは再び、「外来語は書けるところまで覚える」が目標となったと言えますので、受験生は心して準備を進めていって下さい。
 さらに、今年の受験生が苦しめられた可能性がありそうなのは大問四と大問五です。どちらも今までに灘中で出題されてきた形式ではありますが、豊富な語彙力と高度なアウトプット能力が必要とされています。
 大問四は例文から状況や心情を推測し、それに合わせて言葉を思いつくことがポイントです。例えば、2は「ぼくを見くびっている→馬鹿にするような笑い方」という状況を読み取り、それを表すのに適切な笑い方はと考えて「せせら笑い」と答えるという具合です。こうした一連の思考を直感的にできるようにすることを目指して下さい。
 大問五では、慣用的な表現の知識が問われています。1は「受け止めた」とあるので「はっし」が、5は「~の幸い」とあるので「もっけ」が入るというように、この言い方が来たらこれが来るという言葉を思い出せないと正解に持ち込めないため、出来不出来が大きく分かれたと予想されます。類似の問いをこの数年は選択式で出題していたのですが、こちらも書かせる形式にシフトしています。与えられた条件に合う言葉を的確に頭から取り出し、かつ正確に書けるという状態に自分を仕上げておくことが灘中1日目では必須となってきています。
 大問二の俳句の穴埋めもチェックしておきましょう。今回は選択肢が多くて悩まされそうですが、空欄の前後にある言葉が割合分かりやすいヒントになっており、さらに季節の指定もあるので例年よりも難度が抑えめです。大問四や大問五の厄介さを考慮してバランスを取っていると思われます。灘中はこのような細かい難度調節が巧みですので、試験に挑む際は微調整の痕跡に気づいて押さえるべき問いを選び出せるようにする方が望ましいでしょう。設問としては、3が要注目です。「かじる」だけをヒントにすると「林檎」も入りますが、「花付」とあるので「胡瓜」が適切です。胡瓜の花についての知識がある受験生は迷わず正解を選べるようになっており、「知識の有無がわずかな差を生む」という灘中特有の繊細な設問の作り方が見え隠れする問いでもあります。
 そして、もはや定番となっているのが大問六の漢字しりとりです。たくさんの条件が設定されており、さらに答えになる漢字の読みを選ばせる形式にしてあるため、大問二と同様に去年よりもやや難度が下げられています。これも恐らくバランス調節の一環でしょう。ただ、興味深いのはやや易化させておきながらも、「理非」「方円」「官民」といった受験生にとってやや馴染みの薄い熟語を答えに含ませ、つまずかせることを狙っています(例題に「火水」を入れて、そうした熟語が答えになる可能性もあることを示唆している点が面白いところです)。熟語の知識がうろ覚えだとこんな言葉あっただろうかと戸惑ってしまい、自信を持って答案を作れなくなるわけです。受験生にこうした心理戦を仕掛けてくる灘中のセンスには、感心するしかありません。
 総括すると、灘中はやはり灘中だったということになるでしょう。「言葉に対する感性と知識を磨く」「どんな形式の問いでも対応できるアウトプット能力を鍛える」「わずかな情報から場面や状況を豊かにイメージする力をつける」「心理戦に負けない冷静さを身につける」を心に刻み、受験生の皆さんは日々の鍛錬に励んで下さい。

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