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イギリスのお菓子vol.13「ウェールズの伝統菓子ウェルシュ・ケーキ」

イギリスのウェールズ(関連記事)という地域の伝統菓子、ウェルシュ・ケーキ(Welsh Cakes)については、以前より雑誌やレシピ本など、いろんなところで見かけてはいました。が、見た感じ、レーズン入りの小型パンケーキといった様子で「ようは小さいホットケーキでしょ。レーズン好きじゃないし」と思い、スルーしていました。

ところが、イギリスの現地校に通うわが子が「聖デービッド・デー(St David's Day)」なるものを習ってきました。なんでもウェールズ(Wales)では、守護聖人である聖デービッドが亡くなった3月1日は、彼をたたえる祭日だそうです。

独自色が強い地域ウェールズ

イギリスという国は、私のようにもともと特段思い入れのなかった者にとっては、かなり複雑な構成をした国家です。ウェールズはイギリス(グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国)を構成する4つの地域(country)のうちのひとつです。

そのほか3つの地域はイングランド(関連記事)、スコットランド(関連記事)、北アイルランド(関連記事)ですが、ウェールズは「イングランドおよびウェールズの一部」として扱われ、イギリスの国旗にウェールズの国旗だけが含まれていないなど、スコットランドや北アイルランドと比べてもその独自性は際立ちます。

赤で囲ったところ

場所は写真のようにグレートブリテン島の南西に位置し、南にブリストル海峡、東にイングランド、西と北にはアイリッシュ海があります。Llanwrtyd Wellsとは、ウェールズにある小さな町の名前です。

守護聖人デービッドって誰?

かつて石炭を代表とする豊富な地下資源を産出し、イギリスの産業革命を支えた歴史をもつウェールズ。聖デービッドとは、6世紀にウェールズのケレディジョン州を治める王を祖父として生まれ、その後キリスト教の修道士として教会(修道院)を設置するなど、ウェールズ全体にキリスト教を広めた人物です。

エルサレムへの巡礼を繰り返し、神からの使者である白い鳩が説法中に肩に止まるなど、伝説が尽きないデービッドは589年の3月1日に亡くなり、活動拠点とした聖デービッズ大聖堂(St Davids Cathedral)内に埋葬されました(参照:“Five facts about Saint David” Visit Wales 2021.)。この地域は現在彼の名にちなんでセント・デービッズと言われ、その後も多くの巡礼者が訪れたため1120年にローマ教皇はデービッドを聖人と認定、ウェールズの守護聖人となることも宣言しました。

ウェールズの記念日「聖デービッド・デー」

ウェールズ語で(独自の言葉まであるんです!)「Gŵyl Dewi」と言うこの聖デービッド・デー当日は、シンボルである水仙や伝統的な衣装を身につけてパレードし、カウル(Cawl)という肉と野菜を煮込んだスープの味を競う大会なんかもあるそうです。

わが子が持ち帰ってきたプリントには、ほかにこの日ウェールズで食べられる郷土料理のレシピが載っており、その中にかのウェルシュ・ケーキも入っていたのです。本当は1番目のSnowdonia Milkshakeというシェークをリクエストされたのですが、バニラアイスをわざわざ買いに行くのが面倒なのと、寒いので却下。

ほかにはバラ・ブリース(Bara Brith)という紅茶風味のフルーツケーキや水仙型クッキー、チーズ・トーストのウェルシュ・レアビット(Welsh Rarebit)といった、聞いたこともないような珍しい(ハードル高そう)ウェールズ特有の食べ物が並びます。

どんなものかと頼んでみたバラ・ブリースは、イギリスらしい地味素朴さでした。
なんのことはない、またレーズン・・

ウェルシュ・ケーキならどうせパンケーキと同じだろう、と思いこちらを作ってあげることにしました。

実際に作ってみて:え、スコーンなの?パンケーキなの?どっち?

実は手持ちのレシピ本もあるのですが、明らかにそちらの方が手がこんでてめんどくさそう(めんどくさいしか言ってないな・・)。学校でもらってきたプリントは子供向けの教材なので、見るからに楽チンそうでした。

そう思ってナメていましたが、いざ作る段階になってよく読んでみると・・材料はいつものイギリス菓子お決まりで、ワンパターンかつシンプルですが、バターが100g?パンケーキにしては多いな・・。手順が・・

私の嫌いな「パン粉状になるまでバターと小麦粉をrub together」って・・

え、これってスコーンの手法では⁈なに、これってパンケーキじゃなかったの⁈と驚いて読み進めると、生地を伸ばして型抜きするところまでは、まるでスコーンでした。が、ここからが問題。

焼くのはオーブンではなくフライパン〜!

ボソボソして手間どる成型

生地に混ぜ込むカランツ(currants)とは、レーズンより小さくて硬いドライフルーツです。日本では普段あまり見かけないので、レーズンで代用することがほとんどではないでしょうか。

イギリスではむしろレーズンより安いほどなんですが、私は1度試してみたきりもっぱらレーズン派となったので、今回も手元になくレーズンで代用しました。

牛乳や水は入れないので、卵1個きりの水分で生地をまとめなければならず、難しかったです。そのあとは「めん棒で伸ばして型抜きせよ」とあるのですが、材料は見てのとおりまんまスコーンなので、ポソポソしていて綿棒なんかで伸ばしたらすぐにひび割れてしまいます。

「5㎜から1㎝の薄さまで」とあるのですが、そんなことしたらとてもじゃないけれど私の技量ではボロボロに崩れるだけなので、気持ち厚めにしました。

いざ焼くときもフライパンなのでスペースが少なく、あっちをひっくり返したらこっち、途中ハッ!「火を通すためには蓋をした方がいいのだろうか・・(子供用レシピなので細かいことが書かれていない)」と途中で気づいたりと、忙しない。

その点オーブンなら放ったらかしでラクなんだな、と改めてその便利さに思いいたりました。でき上がりは・・

予想どおりのコレ、単なる見かけレーズンのスコーン😂

やはりカランツの方が粒が小さくて見た目にカワイイし、少しでも「スコーンとは違うんだよ」とアピールするのに一役買ったのかもしれません。

作る前は、パンケーキなので、飾りにはクリームがいいかなと思っていましたが、出来あがってみたら全然パンケーキじゃないので普通に粉糖とミントを添えました。

実食レポート

あまり期待せずに試食をしたところ・・

こ、コレは!以前紹介したクリスマスのお菓子、Crimbo Crackle Cookies(関連記事)と同類の、ボソボソ→お茶(んマイ!)→ボソボソ→お茶(んマイ!)の、箸ならぬ手が止まらない「紅茶と菓子の無限ループ」です!

飲み物はさすがイギリス、コーヒーではなく断然、圧倒的に!紅茶がベストです。パンケーキには入れない量のバターが入っているだけあり、風味が芳しい。

ネット上でほかの方が記しているように、このウェルシュ・ケーキは「まるでクッキー、スコーン、パンケーキが融合したような」、けれど、味や食感はどれにも該当しないという、摩訶不思議な伝統的な焼き菓子でした。

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