見出し画像

いま、そしてこれから。ファシリテーション型リーダーシップの時代へ

半年間にわたって連載してまいりました「光と影」。いかがでしたでしょうか?

最終回となる今日は、これまでの振り返りも含めて、「なぜいま、コーチングが必要とされているのか?」について、改めてお話したいと思います。

その理由は、大きく2つあります。

まずひとつ目として、不確実性の時代のなかで課題が複雑化していることが挙げられます。

「不確実性の時代」、そう言われ始めてかなり時間がたち、思いもよらないことがどんどん起きる世の中になりました。これまで「そんなのは他人事だ」と、なじんだ習慣に流されてきた私のような人たちも、新型コロナウイルスでとどめを刺された感があります。経済活動から人としての生き方まで、私たちはいま待ったなしで人類としての大きなパラダイムシフトを迫られているように思います。

こんな環境では、どんなに優秀なリーダーでも、単独で結論を出して組織を導くことはできません。部下の方も、言われたことを鵜呑みにしているだけでは、自分の足場が組織もろとも崩れてしまう事態になりかねません。全員が互いに尊重しあって、組織の課題を「自分ごと」としてとらえ、協働していかなければ生き残っていけない時代なのです。

だからこそコーチングを有効に使って、部下が自ら目標を立て、主体的にコミットする場を創ることができるリーダーの存在が不可欠となってきています。


もうひとつは、ダイバーシティ時代の到来です。

100年前の社会と比べれば、ジェンダーの選択から働き方・人生観に至るまで、「個が尊重されて当然」という時代になってきています。「多様性」は、人種・年齢といった属性の違いを指すばかりでなく、個人の価値観や思考・行動パターンの違いも含むという本質的な理解も徐々に浸透してきています。

かつて日本で一般的だった終身雇用や同質的組織は影を潜め、関わりの薄い人達が一定期間だけひとつのプロジェクトに集まり、仕事が終われば解散していく。そんな労働環境も出はじめています。リーダーは、そのままではバラバラなメンバーたちを速やかに融合させ、皆がひとつになれる方向性を生み出していかなくてはなりません。

このような背景のなかで、リーダーにはこれまで以上に広い「器」が求められるようになってきています。リーダーが自身の「光と影」を統合しつつ、器を拡大していくためにコーチングが有効であることは、この連載でご紹介してきたとおりです。

そして、そうしたリーダーが部下に対してコーチ的に接することで、部下同士の間でも自然にコーチング的コミュニケーションが根付いていくことも、山崎社長の例でお伝えしてきました。

ファシリテーション型リーダーシップとは

今回はこれまでの連載を踏まえて、リーダーの前にさらに開けていく新しい道についてお話します。それは、「ファシリテート」することによってチームや組織を導いていく道。私が “ファシリテーション型リーダーシップ” と呼んでいるものです。

ファシリテート(Facilitate)とは、「容易にする・促進する」という意味です。会議やプロジェクトなどの場に例えるなら、中立的な立場でチームに関わり、メンバーの相互関与を促進しながら全体の生産性を高めるような働きかけです。これからの時代、私は組織リーダーがファシリテーション型のリーダーシップを身に着けることが必須だと考えています。

ファシリテーション型で回っているチームとはどんなものなのか。以下、私の実体験をもとに話していきますね。

多様性の中から自然にアイデアがうまれ、磨かれていく

私が外資系広告代理店で営業の部署にいたときのことです。
ひとつの広告を完成させるためにクリエーターやマーケッターなど異なる部署の専門家をまとめるのが、私の仕事でした。私は彼らの直接の上司ではありません。ですが、プロジェクト内における横の関係で、リーダーの役割を果たす必要がありました。

彼らの中には、同時に複数のプロジェクトに入って多忙を極めている方々が少なくありませんでした。私の関わり方がまずく、やらされ感を持たれたりすると、必要最低限の仕事をこなすだけになりがちでした。そういう人が一人でもいればチームの空気が乱れ、成果もそれなりのものになってしまいます。

一方で、リーダーとしての私との関係性やチームの空気感が良いプロジェクトにおいては、各自が積極的に仕事をしてくれる傾向がありました。

当時の私はコーチングもファシリテーションも知りませんでしたが、いま思えば、空気感の良いプロジェクトではメンバー全員がファシリテーション型で参加していました。専門性の異なるメンバーがそれぞれにアイデアを持ち寄り、自分と違う意見に関心を持ち、補い合いながら「より良いものを創ろう!」というエネルギーに満ちていたのです。

コーチングを基盤としたファシリテーションの影響力

数年後、私はコーチングを学んで、部下やチームとの関わりに活かし始めました。
しばらくして、その会社の人事・広報・総務・ITの部門を統括する役員職に就任。未経験で全く知識がない分野ばかりなのに、統括本部長として最終判断をしなくてはなりませんでした。結果的に、各々の分野の専門家である部長たちに対してコーチングをベースに接するマネジメントスタイルに転換し、彼らが主体的に動ける環境を整えることが私の仕事になりました。

その頃、2週間に一度のペースで上記の各部の部長たち全員を集めた定例会議を開いていました。そこで私は、まず彼らの体調や家族の様子などを話してもらって場を温めた後、各部の業務進捗を共有する目的で「悩み事や課題を教えてください」と促していました。

例えば、人事部長が自分の抱えている課題について話したとします。
それを受けて、私は「○○さん(人事部長)のために、私たちにどんなサポートができるでしょうか?」と問いかけます。

すると、他の部長たちの間で「それはこうしたらいいかも」「そこは自分の部署のスタッフが手伝えるよ」と意見交換が始まります。色々な施策が検討されたころに、私が「スケジュールはどうしましょうか?」と尋ねると、彼らが実現性を検証しながら計画を立て、各自で分担を決めていくのです。このような感じで、会議は毎回活気に満ちていました。

彼らの信頼関係は、この会議でPDCAを回し、現場で協働経験を重ねるごとに強くなっていきました。私の器はいたく狭量でしたが、自分に知識・経験がないゆえに、専門家である彼らを心から信頼していたことが功を奏したのだと思います。

メンバー各自が、チーム全体のために動き始める

この定例会議の場で、私が知らずに行っていたのがファシリテーションです。
1対1のコーチングは自分とメンバーとの間を耕すには有効ですが、メンバー同士の関係性を育てるには間接的になるため、時間がかかってしまいます。一方でファシリテーションを用いるとメンバー同士の関係性に直接タッチすることができ、各メンバーが自分の守備範囲を超えてチーム全体を視野に動き始めます。大きな枠組みから自分の仕事を捉えなおし、相互に協働する姿勢が自然と醸成されていくのです。

すべては、リーダーの「器」を広げる道へ

ファシリテーションについては、スキルや方法論の本もたくさん出ています。ですが、コーチングと同じく、やり方だけ習っても効果的にできるようにはなりません。自分の考えを脇に置き、様々な意見をフラットに聞けるようにリーダー自身の「存在」が変らなければ、本当の意味で機能しないからです。そのためには、まずリーダーが自分の「光と影」を見つめ、器を広げる道を歩み続ける必要があります。

そして、そのような「存在」を目指して日々試行錯誤を重ねることが、そのままリーダーとしての器を広げるトレーニングにもなっていくのです。

*****

「光と影」の連載は今号をもって終了いたします。
最後までお付き合いいただき、本当に有難うございました。

私自身、自分の光と影の統合を目指して歩みつつ、この道には終わりがないのだとわかってきました。気付かないうちに傲慢になったり、自分の正しさにこだわったりして横道にそれてしまいがちな自分がいることも認識しています。共感して下さる読者の皆さんと、励まし、刺激し合いながら、これからも一緒に歩いていけることを願っています。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
インタビュー / 執筆:大村 たかし
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?