【読書感想文】言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか (集英社新書)

著者はお笑い芸コンビ ナイツ塙さん。出版されることを知ってから、このタイトルにどうしても惹かれてしまって、ついに購入に至った。

心の声(えーなんでなんでー!教えて教えて!)

この本は「言い訳」だ、と前置きをして、芸人人生の多くを捧げたM-1グランプリについて、事細かに語り尽くすこの本。

この本が興味深いのは、単純な芸人評価でも、番組論でもなく、「M-1」を他にはない独特なコンテストとしてとらえているところ。

M-1はどうして、他のコンテストと一線を画すのか。そして、関西芸人の漫才と、関東芸人の漫才では何が違うのか。タイトルの通り「どうして勝てないのか」について。様々な芸人さんの強さと、M-1漫才としたときの弱点についてまで、細かく描写している。劇場に足を運ぶお笑いマニアから、M-1は一応みる、くらいのライト層まで同じように楽しめる作品ではないだろうか。

M-1ってどんな大会?

この大会は、吉本興業が主催する漫才コンテストだ。

2001年から2010年までで一度幕を閉じ、その後復活した2015年から現在まで続いている。第一回に中川家さんが優勝してからというもの、優勝すればスターになれるという印象が強く根付いている。

12月の風物詩となった。多くの視聴者が次の年のスターが生まれる瞬間を見つめている。

M-1漫才、について

審査員を毎年務める松本人志さんは、審査員としてステージに登壇する際、「すべてのお笑いの歴史は、彼以前、彼以後に分かれる」と紹介されている。個人的にこのコピーがとてもすきで、M-1だ!という感じがしてゾクゾクする。天才を天才として称えることがすきだ。

M-1の漫才はほかの漫才のカタチと違う、と芸人さんがよく言っているのを目にするが、塙さんが陸上競技に例えているのが最もイメージしやすかった。M-1は短距離走、寄席漫才は長距離走、というもの。その違いについても本書では細かく説明されている。

素人目には、制限時間が違うのだか違うんだろうな、というように取れるが、本質はそこではないのだろうと思わされた。制限時間が違うということは競技そのものが違うということに等しいということ。M-1と寄席では戦い方そのものが違うのだ、という表現を繰り返していた。

プレイヤーとしてみるM-1、審査員としてみるM-1

なんといっても、自身が挑戦した時代のM-1と、今この時のM-1を、審査員の視点から説明されているというのが面白い。

SNS上で何度となく繰り返される、「あの審査は間違っているのでは?」といった批判に、「なぜこんな審査になるかというと」と、現場の【うねり】審査の基準【漫才はどうあるべきか】と、丁寧に解説されている。

低い点数をつけられたことがあるからこそ、低い点数をつけるとき、勝者を選ぶときの苦悩についてまで。

今年のM-1はどうなるのか

とろサーモンさんが優勝した時のような、大逆転劇。

霜降り明星さんが優勝した時のような、新しいスターの誕生。

今年のM-1は、どんな結末を選ぶのか。今のうちからワクワクする。いつも応援している人に勝ってほしいという気持ちと、自分も思いもよらない優勝者が生まれることに期待感に揺れ動いている。

すでに準決勝にGAOの投票ポイント制で金属バットが勝ちあがり、それだけで話題になっている。金属バットさんは去年の準決勝でも大きなインパクトを残したコンビだ。決勝進出は逃したものの、今年一年、目に見えて露出が増えていた。M-1の注目度はやはり、計り知れない。

今後のM-1はどうなっていくのか。

もう一度本書を読み返し、12月22日を待ち望みたいと思う。スターが生まれる瞬間を、期待しながら。


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