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夢の探求は対話の中で生まれる


印象的な夢をみた。
なんだか自分のこころに強く響く感じがある。

そういうとき、スマホで「夢占い」と検索してみる。
今日みた夢はどんな意味があるんだろう?
それらしい答えを見つけ出してくる。


このような経験がある方は少なくないと思います。



さて、心理の専門家として「夢」を用いるとき、それは「占い」とは違います。

だからネットでいくら調べても、夢の心理学的分析を"本当に"知ることはできません。
("本当に"と書いたのは、ある程度の指標にすることが可能な場合もあるだろうと想定できるからです)



夢は全人類の世界であり、と同時にその人の世界でもあります。
だから夢を探っていくには、人類共通の世界を知らなければいけないし、その人だけの世界を知らなくてはいけないのです。


じゃあ....
心理士(ここではセラピストと呼ぶのが相応しいかもしれません)はクライエントから夢を語られた時、それをどのように扱うのでしょうか。

学派などによっても大きく変わりますが、一つの例として読んで頂ければと思います。




それがもつ「象徴的な意味」を知る


まずは夢に出てきたモノの「人類共通の世界」を探っていきます。
つまりこれが、夢占いで出てくる一般的な夢の解釈に類似すると考えて良いと思います。



全てのモノには、それが持つ象徴的な意味があります。


自由の女神像は、民主主義の象徴として造られました。
ハトやオリーブは、よく平和の象徴と言われています。

このように、あるモノに対して人類が共通してイメージ(連想)するものがあり、それを知ることが夢の分析にとても重要となります。


人がモノに対して持つイメージは時代が移ろうにつれ変わりはしますが、その根源となるものがあります。

それは、時代をまたいで語り継がれている昔話や神話です。


例えば先に述べた自由の女神像は、ローマ神話に出てくる自由の女神リーベルタースのことです。
ハトが平和と結びついているのは、ギリシャ神話や旧約聖書にも示されています。


つまり心理学的に夢を分析するとき、昔話や神話など文化人類学の知識を得ることがとても役に立つのです。




それがもつ「個人史における立ち位置」を知る


そうはいっても、モノに対して持っているイメージは人それぞれです。


自由の女神像の前で大きな別れを経験したことがある人は、自由の女神像から別れを強烈にイメージするかもしれません。
特別な日に特別な服をハトの糞で汚されたことがある人は、ハトから予期せぬ不幸を強烈にイメージするかもしれません。

個人の歴史における重要な出来事が、そのモノに対する大きなイメージを作り出している場合、さすがにそれを全く無視することは出来ないでしょう。


つまり心理学的に夢を分析するとき、夢をみたその人の個人史を知ることがとても役に立つのです。



これまで述べてきたことをまとめると、こうなります。


夢が何を表しているか考えるとき、まずは夢に出てきたモノがずっと昔から人々にどのようなイメージを持たれてきたかを(根拠を持って)知る。

そしてその上で、そのモノが自分のこれまでの人生においてどのようなイメージとして存在してきたかを振り返る。

この2点が夢の分析には必要でしょう。


で、結局のところそれを知ってどう心理学的に分析するの?




夢の中を一緒に探求するのがセラピスト


例えばこんな夢をみたとします。
これまでの話の流れで分かりやすいように、自由の女神像とハトを題材に例を挙げてみましょう。

『自由の女神像の近くを歩いていたら、ハトが餌を食べているところをみた』
うーん、我ながらなかなかの例を挙げてしまいました(笑)



さて、人類共通の象徴から考えると、このようにごく簡単に置き換えることができそうです。"ごく簡単に"なので悪しからず。

『自由の近くを歩いていたら、平和が餌を食べているところをみた』…①
(餌を食べるというのも象徴に置き換えられますが、ここではいったん無視します。)


では次に、個人の歴史から考えると、このように置き換えられるかもしれません。
『別れの近くを歩いていたら、予期せぬ不幸が餌を食べているところをみた』…②

なんだか不穏ですね。



今、すでに2つの解釈が出来上がってしまいました。どっちが解釈なの?

実際には、個人史を重要視するときというのは、相当に強烈なインパクトを持った何かがあるときに限られるのではないかと思います。

つまり大枠の解釈は①であり、その上で②という解釈も(同時に)存在する、といった具合になると考えて良いでしょう。


で、結局のところそれを知ってどうなるの?





ここからは、夢を見た本人とセラピストに委ねたほうが良いでしょう。

私もクライエントの夢を聴くことがよくあります。
もちろん、語られた夢から"それが何を象徴しているか"を分析し、"クライエントの在りよう"を見立てていくことがあります。(この"見立て"をどのように行っているかは、企業秘密にしておきます)

ただし最も重要なのは、夢を探求し分析することが「対話の中で生まれる」ということです。
ここがネットの夢占いとは異なります。



クライエントが夢を「語り」、セラピストが夢を「聴く」。

この二者間の働き自体が夢の探求であり、夢にtherapeuticな役割を持たせることになるのです。


夜の闇の中で一人、ファンタジーの中に(望まずして)迷い込むのが"夢"です。
その孤独で壮大な経験に、改めて別の誰かと迷いこむことができたら。
そしてその"誰か"が、ファンタジーをよく知る案内人だったら。
これほど恐ろしく、素晴らしい体験はないでしょう(自画自賛?)



(アシベさんはよく夢を見ます。私は出来るだけそれを話してもらい、聴くようにしています。
アシベさんの生きている世界の在りようを知り、こころの中でニヤニヤしている私は相当な悪趣味といえるかもしれません。)

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