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探偵物語(1983)

薬師丸ひろ子が女子大生探偵を好演
昭和の魅力を再発見できる角川映画

1980年代は昭和のアイドル大ブーム。たのきんや松田聖子、小泉今日子など、トップアイドルたちが主演したアイドル映画が夏休みやお正月映画の目玉となりました。当時10代の私も、友達と観に行くのが本当に楽しみでした。

そんななか、角川映画の女優としてデビューし、主演と主題歌を務めた『セーラー服と機関銃』(’81年)でアイドル的な人気を得た薬師丸ひろ子は、歌謡曲を歌って踊る従来のアイドルたちとは一線を画した、独特の存在感を放っていました。当時は学業優先のため、メディアへの露出は控えめで、たまにテレビの歌番組に出演しても、緊張しているのか、あまり笑っている印象がなく、ミステリアスでアンニュイな雰囲気をまとっていました。

本作は、大学受験のため休業していた薬師丸ひろ子の復帰作であり、原田知世のデビュー作となった『時をかける少女』('83年)との2本立てで公開され、大きな話題となりました。もちろん、中学生だった私も観に行ったのですが、当時はあまりピンときませんでした。

けれど、数十年経って、再び観たときに、薬師丸ひろ子の抜群の愛らしさと唯一無二の魅力、そして、錚々たるスタッフが結集した貴重な作品であることに驚きました。

また、令和の今、観ると、バブル景気へ向かう1980年代前半の日本の時代の雰囲気がよく分かり、リアルタイムを知っている世代はもちろん、知らない世代も、とても興味深い映画だと思います。

【ストーリー】
富豪の令嬢・女子大生の直美(薬師丸ひろ子)は5日後に父のいるアメリカへの移住を控えていました。
ある日、ほのかに恋心を寄せる大学のサークルの先輩・永井(北詰友樹)に誘われ、彼のバイクで海へ向かった直美は、永井に促されるままホテルへチェックインします。ところが、2人が良いムードになったところへ、直美のおじを名乗る男が現れ、永井を追い返してしまいました。
男の正体は、素行不良な直美のボディガードとして雇われた私立探偵・辻山(松田優作)。以来、アメリカへ行くまでの間、直美の行動を見張るようになった辻山に対して、直美は反発しますが、辻山の元妻・幸子(秋川リサ)が殺人事件の容疑者として追われていることを知り、辻山とともに真犯人探しに奔走することになります。

原作はミステリー作家として、’80年代を中心に高い人気を誇った赤川次郎。ユーモアを交えた読みやすい作風で、私も中・高校生の頃にたくさん読みました。女子大生のスリリングな冒険とほろ苦い恋の行方を描いた『探偵物語』は、映画化を前提に書かれた小説で、直美は薬師丸ひろ子に当て書きされているそうです。

好奇心旺盛で大胆な行動を取る直美は、田園調布の瀟洒な邸宅で家政婦の長谷沼(岸田今日子)と2人で暮らしている境遇から、実は孤独で満たされない思いを抱えています。夜遊びを繰り返したり、軟派な永井の誘いに乗ったり、果ては辻山のために危険を冒したり。寂しさのために、“誰か”を必死に求める健気な直美を、薬師丸ひろ子がナチュラルに演じています。

本作の見どころになるのは、共に事件の真相を追ううちに、辻山への恋心を募らせる直美の姿。愁いを帯びた大きな瞳と、透明感のある高い声に加え、古風なボブカットにした薬師丸ひろ子が本当に愛らしいです。少女にも大人の女性にも見えるボブカットは、辻山に恋をして、大人の階段を登る直美にぴったり。ウブな直美が大人の辻山と幸子を前に、懸命に背伸びをする姿が何ともいじらしい!

とはいえ、実は、私が中学生の頃に観たときは、松田優作のキャスティングに違和感を覚えました。でも、それはまだ私が子どもだったからでしょう。テレビドラマ『探偵物語』や『太陽にほえろ!』などでの破天荒な役柄や、ハリウッド映画『ブラック・レイン』(‘89年)公開直後の役者魂を感じさせる衝撃的な死を経て、伝説的な俳優となった松田優作が、アイドル映画に出演したことは「本当に貴重なこと」だと今では思えます。

ラストのラブシーンを感動的なものにしたのは、演じることにストイックな松田優作だからこそ。直美の思いをがっしりと受け止める辻山の漢気と色気があふれる情熱的なキスシーンは本当にシビレます。

監督は、にっかつロマンポルノからキャリアをスタートさせ、一般映画デビュー作『遠来』(’81年)、『ひとひらの雪』(’85年)など、若手ながら手堅い演出手腕で注目を集めた根岸吉太郎。脚本は、社会現象を巻き起こしたテレビドラマ『金曜日の妻たちへ』シリーズ('83~'85年)の鎌田敏夫。テレビドラマのイメージが強いですが、『戦国自衛隊』('79年)、『里見八犬伝』(’83年)など、角川映画の脚本も手がけています。

また、何と言っても作詞・松本隆、作曲・大瀧詠一のコンビによる、主題歌『探偵物語』が素晴らしいです。哀愁のあるメロディーに、「好き」という気持ちに戸惑う直美の切ない心情を表した歌詞。薬師丸ひろ子が儚げに歌う「好きよ。でもね。たぶん。きっと。」という名フレーズに胸がキュンとします。

ふんわりとしたワンピースにポシェットを下げた、直美の清楚な女子大生ルック。大学構内で青空プロレスをしている、のどかな大学生たち。そして、女子大生がラブホテルに出入りする、大胆(令和の今では“不適切”)な舞台設定などを観ていると、バブル絶頂前の’80年代前半という、まだまだ垢抜けない、大らかな昭和の時代性が随所に感じられて、とてもおもしろいです。

今から40年以上も前の映画になってしまいましたが、薬師丸ひろ子&原田知世の角川映画と聞けば、遠い青春の日々を懐かしく思い出す人も多いのではないでしょうか?

すっかり穏やか雰囲気になった薬師丸ひろ子が女優や歌手として、今なお活躍しているのも感慨深く、アラフィフの私はとても励まされます。
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