私をスキーに連れてって(1987)
‘80年代後半の熱い時代がよみがえる
スキー場の恋を軽やかに描いた大ヒット映画
バブル経済真っただ中の1987年に公開された本作は、元気で華やかな時代の雰囲気を反映した、ポップでオシャレな要素がたっぷり詰めこまれ、トレンドに敏感な若者たちの心をがっちりつかみました。
恋が生まれるロマンティックなスキー場、非現実的な世界へ誘うスタイリッシュなユーミンの楽曲、等身大の若者たちの恋と友情を描いたトレンディなストーリーなど、36年前にリアルタイムでこの映画を観た人々は、当時の熱い時代を思い出して胸がキュンとするのではないでしょうか。
今ではスノーボードが主流のスキー場ですが、やっぱりスキーも楽しそう。パラレルでコブを攻めたり、友達同士で“ムカデ”をしたり、スキー板を椅子にして寛いだり……。映画序盤では、『サーフ天国、スキー天国』や『恋人はサンタクロース』などの軽快なリズムに乗せて、白銀の世界を思い思いに楽しむ若者たちの様子がたっぷりと描かれます。
夜、ロッジで開かれたパーティでは、ヒロコがバニーガール姿でカクテルを配っていたり、和彦がタキシードを着ていたりと、バブリーな描写に思わず笑ってしまいますが、’80年代の“イケイケ”ぶりを垣間見られるのも、この映画の醍醐味でしょう。国産スポーツカーを乗りまわすヒロコと真理子は、当時は斬新な女性像でした。かなりぶっ飛んだ女性たちですが、素直にカッコいいです。ちなみに、切れ長の目元が凛々しい真理子を演じる原田貴和子は知世ちゃんの実のお姉さんです。
とびきり陽気なムードの中で描かれるのは、シャイな文男と奥手な優とのもどかしいロマンス。クリスマスイブに出会った2人は、互いに離れて過ごした新年のサプライズ、そして、やっと一緒に過ごせたバレンタイン・デーのアクシデントを通して、徐々に距離を縮めていきます。
主演コンビの原田知世と三上博史は、当時は意外なキャスティングでしたが、映画の成功の立役者となりました。角川映画のヒロインを数々演じ、一躍人気者となった原田知世にとって、本作は角川映画以外の初主演作。角川映画では、ミステリアスな女子高生ばかりを演じたので、本作での普通のOL役はとても新鮮でしたが、控えめな優をキュートに演じています。まっ白なニット帽とスキーウエアにサングラスをアクセントにした優のスキールックは本当にかわいくて、女性の間で大流行したのもうなずけます。
そして、三上博史はまだ無名だったのですが、超絶なイケメンぶりに人気爆発! 瞬く間にトレンディ俳優となりました。(当時高校2年生だった私も大ファンになりました)
製作を手がけたのは、’80年代の若者カルチャーを牽引したクリエイター集団、ホイチョイ・プロダクションズ。広告業界を舞台に、流行を生み出す“イケてる”ギョーカイ人たちの生態をパロディ化した4コマギャグ漫画『きまぐれコンセプト』(‘81年~『ビッグコミック・スピリッツ』で連載中)や、現代日本の消費文化史を国内外の歴史的事件になぞらえて解説したテレビバラエティ番組『カノッサの屈辱』(’90年~’91年)など、ホイチョイの独創的な作品は、笑いのツボと知的好奇心を大いに刺激し、本当に面白かったです。
2007年に製作されたコメディ映画『バブルへGo!タイムマシンはドラム式』以降、あまり目立った活躍のないホイチョイ・プロダクションズですが、便利なモノと同時に生き辛さも増えた令和の時代の停滞ムードを、元気な‘80年代を牽引したホイチョイが上質なユーモアで振り払ってくれたらいいのですが。。。
ここ数年、Z世代と呼ばれる若者たちの間では、‘80年代カルチャーがブームになっているそうです。ユーミンを代表とする当時ニューミュージックと呼ばれた音楽は、今はシティポップとなり、海外でも注目されていますが、’80年代は“新しいもの”を生み出そうという意欲に満ちた時代だった気がします。誰もが 新しい世界に期待し、ワクワクできた時代。だからポジティブで楽しいのです!
とはいえ、この後、日本は浮かれまくった‘80年代の代償を払うことになるのですが(汗)、そろそろ’80年代の前向きな意欲を取り戻してもいいのではないでしょうか。〈時代は繰り返す〉といいますが、未来に希望を抱けた明るい時代が再び訪れることを願ってやみません。
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