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#認知症

介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑲

介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑲

 そんな記憶の断片を思い出していると、
「今日はゆっくり休みな」
 と井上さんに言われ家に帰って行った。

 いつも会社まで自転車で来ているが、歩いてゆっくりと家まで帰った。
 自分の住んでいる街に、高齢者がこんなに住んでいると思わなかった。

 授業でも、どんどん高齢化が進み日本はどんどん少子化社会になっていくと習った。
 自分の住んでいる近くにも沢山の高齢者が住んでいるし、孤独の老人もいるの

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介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑱

介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑱

 井上さんが笑いながら
「昨日、すごい酔っていたね?体調大丈夫?」

 僕は申し訳ない気持ちで、
「本当に迷惑をかけて、申し訳ございませんでした?」
「いやいや、大丈夫だよ。最後の方は良く話してたから面白かったよ。覚えている?」
「全然、覚えていません。何か失礼な事言ってたらすみません」
「大丈夫だよ。楽しかったよ」
と笑いながら井上さんが言ってくれた。

 これが、高校の同級生やコンビニのバイト

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介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑰

介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑰

 目を冷ますと、職場にあるベットで寝ていた。いつ、ここに来たのかも分からなかった。
 職場は真っ暗で時計の針は3を指していた。やっと、ここがどこかを把握する事ができた。

 勤めていた介護事業所はマンションの一室を借りていた。10人くらいの職場においては、わりと広い部屋なのだろう。
 パソコンが5台。コピー機があり、トイレ、小さいキッチンがあり部屋は机で囲まれている。
 そして、奥に仮眠用のベット

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介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑯

介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑯

 自分が今過去に戻りたいと思った事はないし、戻った所で良い大学に行って有名になりたいとも思わない。
 映画では過去に戻ったり未来へといくSF映画が流行っているが、僕には理解できなかった。

 この介護の仕事をして、未来には行きたいがこの人が認知症になる前はどんな人だったのかと気になる事がある。

 昔を知っているのは、その人の友人や家族などだけだからである。
 職業、性格や趣味などはアセスメントを

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介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑬

介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑬

 初任者研修もいつの間にか最終日を迎えた。
 現場で働きながら通えたおかげで、とても為になった。最初は知らない人ばかりだったが、良い先生のおかげもあり有意義な時間を過ごせた。

 何気なく人と付き合ってきたデジタル化した僕の生活だったが、アナログ的な生活は産まれ変わったみたいに新鮮だった。

 最終日にはテストがあった。難しいかなと思い解いてみたが授業とレポートをこなしていたので合格する事ができた

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介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑫

介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑫

 初任者研修に通いながら、訪問介護(以下ヘルパー)で実践する事は凄く為になった。コンビニという仕事はコンビニの上司に習うだけだが、介護という仕事は、介護を熟知した先生に習うので面白かった。

 勿論、井上さんに聴くとがあったが、自分自身が何が不得意なのかもわからなかった。学校の試験でも何が不得意という分析など自分自身に何が必要という事を考えなかったからかもしれない。

 授業を受けた事で、井上さん

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介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑪

介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑪

 介護の実習でベットメイキングの仕方など、今迄にやった事が無い事を教わった。シーツはシワがないように伸ばす。これは床ずれ(以下、褥瘡(じょくそう)を防ぐ為でもある。
 褥瘡と聴いて、仕事でもお尻に褥瘡が出来ている人がいて、アズノールという薬を塗る事がある。

 その経験もあり、最初は小さな傷がお尻に出来るだけだと思っていたが、写真を見せられてグロテスクな後に少々ひいてしまった。
 重傷の褥瘡の人は

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介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑩

介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑩

 初任者研修当日、僕を含め受講者は7名だった。介護士として現場に居る人は3名で他は介護士ではなく。福祉に携わる人だったり、介護を経営したい人など一人一人目的が違っていた。

 初日は自己紹介が始まり、授業にはいった。
僕は自己紹介では「訪問介護をやっています」くらいしか覚えていない。他にも何かを話していたのは確かだが。
 隣の僕より少し歳上の人では、
「介護施設を経営したい」
 と自己紹介をしてい

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介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑨

介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑨

 利用者さんによっては、オムツ介助やご飯や買い物の援助など様々だったが。
 利用者さんと一緒に住んでいるご家族さんの中には、ビデオやテープレコーダーを設置している所もあり、利用者さんにしっかりとサービスをしているかなど見ているご家族さんもいた。

 これは、高齢者が虐待されているのが、ニュースで流れていたりするからでもあるらしい。防止をする事だろうか?
 
 産まれてきた中で1番、集中して物をこな

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介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑥

介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑥

 年齢は大正14年生まれで、90になるかならないかだった。
 高級住宅なので、内装はとても綺麗だったが、使われていない部屋は散乱していて、昔描いたような絵画が沢山あった。

 こんなに大きな家に一人暮らしなのかと、僕は印象を受けた感じだった。 
 逆に大きな部屋が孤独なのかなと感じる程であった。
 朝の食事を社長が作り、女性に提供した。
 「ありがとう」
 と、言って黙々と女性は食事をしていた。

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介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑤

介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑤

 その日夜に、電話がかかって来た。
 着信を見ると、昼に面接にいった介護の所だった。
「どう、働いてみない?」
「いえ、僕には向いてないと思うんですよね?」
「最初から、向いている人はいないわよ」
「でも…」
「ベテランの人と一緒に最初は行くから大丈夫よ」
「そうですか…」

 半分、僕は上の空で聞いている感じだった。
 やっぱり、僕にはコンビニ店員がいいのだと思った。今から新しい事をするのは、実

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介護小説 《アリセプト〜失われる記憶》 ③

介護小説 《アリセプト〜失われる記憶》 ③

 自分自身が就職して、バリバリ仕事をこなす星の下で生まれて来なかっただけなのだと心得ているのかもしれない。
 大学も卒業していない。高校の成績もよくなくさらに、コンビニのアルバイトした事がない僕に今後、何が出来るというのだ…。
 そんな事を考えながら、就職を探す。

 普段は使わないパソコンで《就職 都内》で検索すると、沢山出てきて、全く訳の分からない世界に飛び込んだみたいになり、コンピュータより

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