介護小説《アリセプト〜失われる記憶》⑤
その日夜に、電話がかかって来た。
着信を見ると、昼に面接にいった介護の所だった。
「どう、働いてみない?」
「いえ、僕には向いてないと思うんですよね?」
「最初から、向いている人はいないわよ」
「でも…」
「ベテランの人と一緒に最初は行くから大丈夫よ」
「そうですか…」
半分、僕は上の空で聞いている感じだった。
やっぱり、僕にはコンビニ店員がいいのだと思った。今から新しい事をするのは、実際に精神的に体力と気力がいる。
これといって欲がない僕にはどうでも良い話だった。
でも、そんな僕にも正社員になるチャンスが来たのだ。正社員と言ってもキツいと言われている介護業界だ。
親孝行の為に、全く介護の事を調べずに受かった会社に行った。
僕の頭の中では介護というものは、ボケたり、身体が不自由な高齢者のお世話をする仕事だと思っていた。
例えば、トイレを自分で行けなくなった人がオムツを交換したりする仕事だと思っていた。
訪問介護編
僕が入った会社は 『スマイル』という訪問介護の会社だった。
当日は、溜池山王で朝9時に集まる約束をしていた。
代表と髭を生やした男の人が待っていた。
僕は午前9時の3分前についた。
昼夜逆転している僕には起きるのがキツく、朝9時から働くというのが苦痛に感じた。
日光がまぶしく、何年かぶりに通勤ラッシュという現象を味わった。
土木作業員の人や鳶職の人、サラリーマンも電車に乗っていた。
普段見ない景色、いや本来ならこっちの景色を見ている人が多数だろう。
「今日は初日だから、この井上君と私がやる事を見ていれば大丈夫だから」
と社長は笑って言った。
初めて行った所はとても高級感がある30階くらいのビルで、独居の女性だった。
全く分からない異国に行く様な感覚が湧いて来た。
介護を本気で変えたいので、色々な人や施設にインタビューをしていきたいので宜しくお願いします。