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#柳町
粟盛北光著 「小説 名娼明月」 自序
博多を中心としたる筑前一帯ほど、趣味多き歴史的伝説的物語の多いところはない。曰く箱崎文庫、曰く石童丸(いしどうまる)、曰く米一丸(よねいちまる)、曰く何、曰く何と、数え上げたらいくらでもある。
しかし、およそ女郎明月の物語くらい色彩に富み変化に裕(ゆた)かに、かつ優艶なる物語は、おそらく他にあるまい。
その備中の武家に生まれて博多柳町の女郎に終わるまでの波瀾曲折ある二十余年の生涯は、実に勇気
「小説 名娼明月」 第68話:女人成仏(にょにんじょうぶつ)の願い(前)
かつて大阪の川口の夜、女郎に扮装(いでた)ちて、織田勢を悩殺せしお秋、今、博多柳町は薩摩屋の女郎となって、明月の盛名廓内を圧し、その花を欺く容姿と、他の女郎に見られぬ気品に憧れて、群れ来る遊冶郎(ゆうやろう)の数知れず、明月を一度は買っておかねば話ができぬという有様で、薩摩屋の前は、日暮るる前より、これらの人にて市をなし、薩摩屋の名は、明月の名とともに、日を追うて高いようになった。
されば、薩