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第3回 人に眠るもの、私の心の中(大澤→丸山)

先日の日記、焦る丸山さんを想像したらおかしくって、ぷぷぷと笑いながら読んでおりました。そうですよ、一週おきの更新ですからね。

ねえ丸山さん、読んでくださっている皆さん、今日は少しだけ艶っぽい話をしても良いですか。自分とミュージアムの向き合い方、そのスタンスの話です。

この気持ちは恋でも好奇心でもない

初めての商業出版誌『ミュージアムグッズのチカラ』を大学時代の恩師、メディア美学者の武邑光裕先生にお送りしたんです。そうしたら先生はFacebookで拙著を紹介してくださって。

その際に私のことを「ミュージアムの秘密に取り憑かれた」人としてご紹介くださったのでした。そのお言葉、何て適切なんだろうと思って。

よく、「大澤さんは本当にグッズがお好きなんですね」と言われるのですが、なんか芯を食っていないような気がして曖昧なお返事しかできなかったんです。私の、ミュージアムやミュージアムグッズに対する気持ちは、何だか恋のような「好き」とはちょっと違う気がする…と。

確かに好奇心はあるけども、もっと獣の生理的な反応に近く。ラフレシアの腐った匂いに引き寄せられる蠅とかにシンパシーを感じています。

でもその欲望に拘泥せず、どこか一歩引いた自分もいて。欲情しているけどその行為を冷静に天井から見つめている自分がいる。このスタンスは何なんだろうとずっと思っていました。

ミュージアム界の中村うさぎになりたい

私のすごく好きな本に、中村うさぎと佐藤優の対談集『聖書を語る』があるんです。

2人ともプロテスタントで同志社大学出身でありながら、洗礼を受けたのはバプテスト派の中村うさぎ、カルヴァン派の佐藤優。

宗派によって物事の考え方がこんなにも違うし、影響を与えるもんなんだと衝撃を受けた一冊です。

本著の中で佐藤優が中村うさぎのことをこう評しています。

うさぎさんの作品を読むうちに、この人はキリスト教、それもピューリタニズム(清い生活を重視するプロテスタントの一潮流)の影響を強く受けていると直感した(この直感は正しかった)。
それは、うさぎさんが遍歴したブランド品漁り、美容整形、ホストクラブ通い、デリヘル嬢体験などのすべてが、ピューリタニズムの倫理で厳しく禁止されている事柄だからだ。
人間は弱いので、浪費、飲酒、セックスを楽しむとそこから抜け出すことができなくなり、人間としての存在基盤が根底から崩されてしまう危険があるので、キリスト教がこれらの誘惑から人間を遠ざけようとする。
しかし、うさぎさんはどのような経験をしても崩れない。私の見立てでは、さまざまな経験を通じて、うさぎさんは人間の内側と外側を区別する輪郭を確認しようとしているのだ。この輪郭において、人間は神に触れることができるのである。

中村うさぎ、佐藤優『聖書を語る』,pp.12-13(改行は大澤による)

す、す、すばらしいーーー(パチパチ)と、これを読んだ当時28歳の大澤は感動したのでした。大学院を出て2年目、IT企業で人事として半泣きで働いていた頃です。

私は全然もう、欲にまみれたろくでもない人間である自覚はあるのですが、ミュージアムグッズや様々な消費活動を通じて、ミュージアムの内側と外側をなぞってみたいのかもしれない。そんなことを今も考えています。ミュージアム界の中村うさぎになりたいっ!

博物館と欲望の関係性をミュージアムグッズで探る

15世紀以降の王侯貴族のコレクションが形成され、キャビネットやヴンダーカンマーなどと呼ばれるようになったことからも、ミュージアムの起こりと欲望は無関係とは言えないと考えます。

現在のミュージアムの社会教育施設としての性質も興味深いのですが、個人的はミュージアムショップやミュージアムグッズに、ミュージアムの欲望の残り火が燃えているように思えるのです。

先述の「ミュージアムの内側と外側」が、組織的な中と外なのか、それとも何かもっと、教育と欲望なのか、それらは背反するものなのか…この輪郭をミュージアムにおける消費活動を使ってなぞることができたらな…というのが最近の私のテーマです。

欲にまみれた自分のスタンスとの親和性もよいですし、博士課程での研究にもうまく繋げられたらいいなーーーと思っているところです。

丸山さんへの宿題

そういえば私たち、この往復書簡のタイトル「Pre-sent 予め贈られている私たちの現在」について説明していなかったですよね。

もし丸山さんに次回の往復書簡のテーマが無ければ、このタイトルの裏話を丸山さんに託しちゃおうかななんて。でもね、書きたいことがあるのでしたら全然触れなくても大丈夫です。お任せします。

そういえば、先日の日記のタイトル「未来は僕らの手の中」はTHE BLUE HEARTSですか?それともDragon Ashの「Rock Band」?

ああでも、Dragon AshのkjはTHE BLUE HEARTSに影響を受けているから、やっぱり行きつく先はTHE BLUE HEARTSかしら。日記に裏テーマ曲があるの素敵ですね。

私の今回のタイトルも、私と娘の好きな曲です。最後にその曲を紹介して終わりますね。

理芽「法螺話 (with Guiano)」

「世の中推敲された嘘ばっか」という歌詞、ホントその通りだなとうなずけます。

それではまた来週。丸山さんからのお便りを楽しみにしております。

大澤夏美より

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大澤夏美(ミュージアムグッズ愛好家)

1987年生まれ。札幌市立大学でメディアデザインを学ぶ。在学中に博物館学に興味を持ち、卒業制作もミュージアムグッズがテーマ。北海道大学大学院文学研究科(当時)に進学し、博物館経営論の観点からミュージアムグッズを研究し修士課程を修了。会社員を経てミュージアムグッズ愛好家としての活動を始める。現在も「博物館体験」「博物館活動」の観点から、ミュージアムグッズの役割を広めている。

丸山晶崇(株式会社と)

東京都生まれ。デザイン事務所や制作会社勤務を経て2009年に独立。2010年4月より2012年6月まで「国立本店」の店長を担当。2011年、国立市谷保に建築家を中心とした市民協働プロジェクト『やぼろじ』を始める。また、2013年7月から2017年11月まで同施設にてギャラリー兼ブックショップ『circle [gallery & books]』を企画・運営。グラフィックデザインの仕事を中心として美術館のビジュアルディレクションや書籍のデザインの他、各種の企画からデザインまでを幅広く担当。
また2014年からmamoru(サウンドアーティスト)/下道基行(アーティスト)/芦部玲奈(アートマネージャー)と『旅するリサーチ・ラボラトリー』の活動も続けるなど、アーティストとの共同プロジェクトなどにも積極的に参加。「デザイナーとは職業ではなく生き方である」をモットーに、デザインを軸にしたその周りの仕事を進めている。長岡造形大学非常勤講師。


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