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弱聴の逃亡日記

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東京から故郷の岩手県まで歩いて旅した経験談を少しコミカルに、ときどき真面目に綴ります。
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#徒歩

弱聴の逃亡日記「ヘッドライト照射と温かい飲み物」

  2017年11月30日 夜

 福島県那須川市を出て、郡山市を通過し、二本松市の町に着く頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
 夕飯は何にしようなどと考えながら歩いていると、ちょうどよく商業施設が建ち並ぶ賑やかな一角に入り、弱聴はラーメン屋さんの隣にあったたこ焼き屋さんに入った。
 簡易テーブルとパイプ椅子のこじんまりとした店内でアツアツのたこ焼きをホフホフと頬張っていると外は雨が降り出してき

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弱聴の逃亡日記「イモムシ姿、目撃される」

  2017年11月29日 7日目後半
 国道四号線を北上し福島県白河市から那須川市まで順調に歩みを運ぶ。
 山の森林、家々が並ぶ町の景色、風の匂い。見るもの触れるものに不思議と親しみを感じるのは福島県に入ったせいだろうか。
 福島県は出身地の岩手県と同じ東北地方に分類される。福島は小さい頃に何度か訪れたことがあるし、同じ東北というだけで自然と親近感が湧く。
 東日本大震災後からよく見かけるように

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弱聴の逃亡日記「坊主頭にした理由」

 2017年11月29日 7日目 朝

 朝目覚めると、辺り一面が白い薄膜に覆われていた。雪が降ったのかと思ったが、降りた霜が凍ったらしい。草花も砂利石も白い衣を日の光に反射させキラキラと光っている。自分の荷物や上に羽織っていたレインコートも白くなり凍っている。
 見るだけで凍りそうな気分。こんな霜も凍る山の中で自分は眠っていたのか。しかも寝袋無しで、食事も摂らずに。
 よく目覚めたな、と感心しつ

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弱聴の逃亡日記「山の野宿」

2017年11月28日 6日目 夜の続き

あのコンビニを出てからどのくらい歩いただろうか。
まだ2時間しか経っていないような気もするし、5時間以上歩いてきたような気もする。
興奮の熱に任せて歩いてきたせいで距離と時間の感覚を完全に見失ってしまった。

途中、外灯が一つもない真っ暗な道を懐中電灯の灯りだけを頼りに歩いたり、歩道のない狭い道で車のスレスレを歩いたり、安っぽく灯るラブホテルの看板を見つ

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弱聴の逃亡日記「人生の選択」

2017年11月28日 6日目 夜

辺りも暗くなってきた午後5時。
そろそろ休む場所を見つけようという頃、来た道を戻って温泉へ行くか、休む場所など当分ありそうにない山道を進み続けるかの選択を迫られ、弱聴は戻って温泉へ行くのではなく、進み続ける道を選択した。

悪い予想は当たった。果てしなく山道が続いたのだ。
日が沈んだ山道はあっという間に暗闇に包まれ、雑木林の中を分け入る国道は、外灯が無く懐中電

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弱聴の逃亡日記「国道脇のお昼寝と決意」

2017年11月28日 6日目
この日の旅路は今までとは一味違った様相だった。
那須塩原の町を過ぎたあたりから建物は姿を消し、山を分け入って敷かれた道幅の広い道路が続く。

途中、珍しい標識に遭遇した。山の峰の絵が描かれた標識だ。
那須山と山名が示されたその向こうに絵と同じ形をした山々がそびえている。
「おぉ、あれが那須岳かぁ」弱聴は標識の絵と実際の那須岳を見比べながら知った風な声を上げる。
川や

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弱聴の逃亡日記「5日ぶりの手紙」

2017年11月27日 5日目 午前

弱聴が目を覚ますとご老人の井戸端会議の輪の中にいた。
えっ? どゆこと? 弱聴自身もポカン…ある。

深夜2時に宇都宮を出発し、夜通し歩き続け、朝方さくら市に到着した弱聴は、コンビニで朝食をとった後、大きな公園に寝心地の良さそうな東屋を発見し、これ幸いと仮眠をとることにした。

東屋の柱と柱を繋ぎ四角い囲いのように設置されたベンチの一つをお借りして横になった

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弱聴の逃亡日記「計画 その1」

2017年11月23日 逃亡1日目

 弱聴は玄関を出て、大きく深呼吸した。
 空は雲一つない快晴。正に天気も祝う出発日和。
(中略)
 とても気分が良かった。
 以前から歩いて旅することに憧れていた。社会人になってまさかこの夢が実現できる日が来るなんて思ってもみなかった。
 なんて浮かれている場合か、弱聴! 仕事はどうした? 今日はたまたま休みだが、明日から普通に出勤するはずだったではないか。

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弱聴の逃亡日記「決意の夜」

 午前0時。明かりのない六畳間に、テレビだけが耳障りな音と薄暗い光を放っている。テレビの前の円卓には使った食器やら食べかけのパンやらお菓子のビニールやらが散らかっている。

 そのすぐ脇の、シワだらけの布団に丸まり、テレビ画面を見つめたまま微動だにしない物体。これがこの部屋の主であり、この旅の主人公、弱聴だ。
 弱聴はつい最近、女にも関わらず頭を刈り丸坊主にした。それで周りから「弱聴」と呼ばれるよ

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弱聴の逃亡日記 予告編

弱聴の逃亡日記 予告編

――この物語は坊主頭の28歳独身女、弱聴(仮名)が現代社会という荒波から抜け出し、東京から故郷の岩手県まで約430キロの距離を歩いて旅したお話である。
(本編より)

仮タイトル「弱聴の逃亡日記 ~430キロ徒歩の旅~」

――弱聴は突然むくりと起き上がり、ニット帽を脱いだ。
 坊主頭が露わになる。数ミリしか伸びていない髪の毛に、丸い頭の形がはっきりと表れる。さっきまでニット帽に入っていた耳がなん

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弱聴の逃亡日記

坊主頭のフリーター、弱聴でございます。

去年11月下旬、「しばらく会社休みます」のメールを残し、連絡が取れなくなった弱聴…。
失踪?蒸発?病気?…いろいろな疑惑が飛び交ったことでしょう。
何せその数週間前に頭を丸刈りにして周囲をざわつかせた女ですから。

連絡が途絶えた期間、弱聴は何をしていたか…

東京から岩手まで歩いて旅をしておりました!

本当です。ウソじゃないです。

「それ、本書いたら

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