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荷物くんの旅

ぼくは、とてもワクワクしている。この倉庫に着いた時から。

明るく優しい挨拶の声が聞こえてくる。

少し古い倉庫なのに、部屋の隅々まで綺麗だ。
パレットもカゴ車もオリコンも壊れていなくて、みんなニコニコしている。

ぼくが格納されたラックも、とても心地良くて、仲間たちとスヤスヤ眠れている。

ぼくは、どんな人と出会えるんだろう。楽しみだなぁ。


出発の日がやってきた。ぼくらは皆、ソーターに乗せられて移動する。ソーターのスイッチが押され動き出した。

ちょうど先頭になったぼくは、ガイドさんごっこをはじめた。

皆さま、冒険の旅へようこそ。はい、はい、そこのお客さん、ご覧ください。手前に見えてきたのは、海外から送られてきた大量の荷物の山です。何処の国から来たのでしょう?おぉ!ベトナムと箱に記されていますね。

はい、右に曲がりまーす。しばらく穏やかな道が続きます。たくさんのラックが並んでいますね。
新たな冒険を待つ方々が楽しそうに笑談しています。

はい!見晴らしの良い場所に出ました。ちょうど下ではフォークリフトが運搬中。沢山の荷物の中から、ぼくたちに気がついて手を振ってくれている荷物ちゃん達がいます。私たちも手をふりましょう。「こんにちはぁ♪きみたちも出発の時が来たんだね。いってらっしゃ〜い。」

それにしても高い所からの見晴らしは素晴らしいですね。お!急に下りになりました。トンネルに入りまーす。くるっと回って方向転換。まるでジェットコースターのようですね。

まだまだ乗っていたいけれど、ソーターランプの灯りが見えてきたので、間もなく到着です。皆さまの善き旅をお祈りいたします。

ソーターが止まると、いっせいに「万歳!万歳!」と仲間たちから声があがった。良かった、ガイドごっこ喜んでくれたんだ。嬉しくて皆に手をふっていたら、ヒョイと持ち上げられカートに乗せられた。
そして突然、あなたも大好きな人のところで幸せになってね。と話しかけられたんだ。

ぼく、驚いちゃったよ。もしかして、ぼくの声が聞こえる人間がいるのかな?って。


ぼく達にシールを付ける人、ぼく達をピッキングする人、ぼく達をハンディーで検品する人、ぼく達を梱包する人。

やっぱり、この倉庫で働く人たちの手は温かいなぁ。優しいなぁ。

いよいよ、ぼく達は、運送会社のトラックに積み込まれて、この倉庫とはお別れだ。短い間だったけど楽しかった。ゆっくり休めたなぁ。さあ、ぼくを待つ人の所へ向かおう。


トラックの中は、お喋り大会。
みんな同じ倉庫にいたから思い出もいっぱい。

「ねぇねぇ、すっごく私は好みの派遣さんがいたのよ。耳をすませて、パートさんとのお話聞いちゃった。ウフフ。」

「で、どうだったの?」

「彼はね、俳優目指してるの。ロックバンドのベースも弾いているのよ。しびれるわぁ。」

「へぇ〜、がんばってるねぇ。」

「ぼくはね、パートさんの苦労話を聞いたよ。今、変な病が世界中で流行っていて、そのパートさんの旦那様の会社が倒産しちゃったから、お仕事に来たんだって。でも楽しそうに働いてたなぁ。」

「そうですわね。私も働く皆様が楽しそうと思いましたわよ。色んなお話が聞けましたけど、悪口やケンカもなく穏やかな倉庫でしたわね。」

「そうだな。ラックも綺麗で最高だった。」

「色んな意味で素敵な倉庫だったわ。」

「ぼ、ぼくも楽しかったし、ゆっくり休めたよ。みんなもそうだろ。」

その場にいた荷物たちは、いっせいにうなづいた。そしてキラキラな笑顔になったんだ。


沢山のトラックが停まる場所で、愉快な仲間たちとぼくは、それぞれの地域に向かうトラックに運ばれた。ちょっと寂しいけど、こんな時こそ笑顔で見送らないとね。みんな幸せになるんだぞう。いってらっしゃい。

ん?今度のトラックの中の荷物たち、なんだか陰気臭いなぁ。

「こんにちは。はじめまして。君はどこから来たの?」とお隣さんに声をかけてみる。

ちらっと片目で、ぼくを見た。よく見ると箱に傷がある。

「その傷どつしたの?」
「ねぇ、ねぇ、その傷はどうしたの?」

「勲章。」と重い声が聞こえた。

ぼくの好奇心に火がついた。だって、お隣に座ったんだよ。すごい偶然でご縁がある証拠だよ。

「なんで勲章なの?」

ぼくの粘りに負けたのか、しばらく経つと、お隣さんは話を聞かせてくれた。

お隣さんがいた倉庫では、ダンボールが蹴られたり投げられていた。無理な積み方をされて落ちる荷物もあった。埃まみれだし、旅立ち日の間違いが多くて、やっとこの倉庫から抜け出せる思ったのにラックに戻されてうんざりしたことも。

「俺たちは、誰かに求められて、愛されて、生まれてきたはすなんだ。だから俺は、俺を待つ誰かと出会うまで辛抱強くいる。だから、俺さまの傷は勲章。」

バーンって思わずお隣さんの肩を叩いちゃったよ。いいやつじゃん、そうだよ!君の傷はまさしく勲章そのものだ!そして、ぼくはしばらく泣いてしまった。ぼくの泣き声につられたのか?いつの間にかトラックの中は泣き声の大合唱になった。

大切な贈り物なのに、適当に詰められて怪我をしたこと。子ども達に夢を与える商品なのに倉庫で働く人たちが一人も笑っていなくて怖かったこと。海外から来た子は、こんな話も聞かせてくれた。

「学校に行けない子どもたちを安い賃金でつかって生まれてきたのが私。大切な飲み水もその工場から流す汚水で汚れていてショックだった。
私なんか生まれてこなければよかった。」

かぼそい声で話す、見た目はとてもスタイリッシュな彼女をぼくは忘れられない。


ピンポ〜ン
「お届け物です。」

ぼくを受け取るその手は、大きくてガッチリしていて、少しばかりガサツだった。

「やだぁ〜、お父さん、そんな所に置いちゃだめよ。」

ふわっと、ぼくを抱いたポニーテールの彼女は嬉しそうに、ぼくに話しかけてきた。

「わたし、あなたが大好き。これからよろしくね。」

〜 END  〜

日々、様々な倉庫で働いていて、思い浮かんだ物語です。世の中にある商品は、きっと誰かが、こんな物があったら幸せだな。便利だな。とその方々の愛の想いから生まれてきたと思います。

だからこそ、その商品一つひとつも、その商品を待っている方々に届くまで、心地良く扱われてほしい。幸せであってほしいと願います。

たくさんの人の手を旅する時、大切に扱われた商品は愛をたくさん貯めて、その商品を待っている方に届いた時、宝物のように昇華するような気もするのです。

そんな想いもこめて書きました。お読みくださり有難うございます。ポレポレ気分






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