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読まずに売った本の話
わたしの実家の本棚には、池波正太郎などの歴史小説が溜まっていた。
溜まっていたと過去形にしたのは、9冊のうち4冊ほどしか読めなかったから。
大学卒業時に、まとめて売ってしまった。
厳密には、自分で売った覚えがないので、
恐らく家族に要否を聞かれて
「もう、必要ない」と答えてしまった。
「きっと、読みたくなったらまた買うだろう」という表向きの理由で、歴史小説たちを手放した。
でも、読まないだけ
「ソメイヨシノ」ひとりごと
ソメイヨシノが怖いのは、多分、綺麗であることに違和感を覚えない景色、空気感への忌避。
花の大群が空を隠し、大地を丸呑みする。
近づけば、唸る幹に人は巻き込まれてしまうのではないか。巻き込まれた人が、潰された下半身の苦痛から逃れようと腕を伸ばし、助けを乞う。
吉野の桜が色づいて道を浮かべるのには表情があった。ぼんやりとした表情があった。
ソメイヨシノ。どうか人のために咲いてくれるな
夢の話(ひとりごと)
冷たいフローリングの上で
横になって涼むきみがいた。
きみに気づいて欲しくて、
きみの鼻先に顔を当てるように
私は寝転んだ。
いつもの息に触れて、
目を閉じて、
きみが私に反応してにおいを嗅ぐ音。
一瞬にして懐かしさを覚えた。
懐かしさが仇となり、
空間が、時間が、間も無く
崩壊してしまいそうな不安が過ぎる。
すぐにでもきみの姿を
永遠に収めるべく
目を開けば、
そこは既に現であった。
懐