マガジンのカバー画像

労働法のこと

13
労働法と労働法実務のことです。みんなのために書いていますが使用者寄りだと思います。
運営しているクリエイター

記事一覧

● ジョブ型雇用のこと

1 ジョブ型

メンバーシップ型とかジョブ型とか語られることがあって、よく分からないなと思いながらネットの情報を見たり本を読んだりしていましたが、いまのところ、要するに次のような感じに整理しています。

メンバーシップ型 長期雇用、年功賃金、企業別組合という特徴を捉え、実態としては雇用契約の締結だけでは具体的な職務が特定されない本質を備える雇用契約の態様(日本型雇用システム)
ジョブ型 従事する職

もっとみる

「孤独なボウリング」備忘

2006年に出版された「孤独なボウリング」(ロバート・D・パットナム。芝内康文訳)という本があります。これは社会関係資本に関する本なのですが、その中で職場に関するものとして次のような記述があります。

この本は、社会関係資本の本であって、労働社会学や産業社会学の本ではないのですが(ましてや労働法の本ではないのですが)、社会関係資本の文脈から職場の社会関係を一つのジャンルとして取り上げていて、そこに

もっとみる

事実調査のための自宅待機 2/2

(承前)

4.考え方

不祥事や事故があっても、懲戒の判断をするまでに時間をいくらか要するのは通常のことで、重大な不祥事であればあるほど時間を要するかもしれません。
このときに、賃金をどうするかという課題については、民法536条2項の適用を受けるかどうか、労務の受領拒絶が使用者の「責に帰すべき事由」に当たるかどうか、ということになっています。

そして、その判断には、懲戒事由に該当する事故や不祥

もっとみる

事実調査のための自宅待機 1/2

事故とか不祥事があって、懲戒処分や解雇があるだろう/あるかもしれない、という場合に、その懲戒処分について結論が出るまでの間、当該従業員の処遇(賃金の支払い)をどうするかというのは、まあまあ悩ましい問題である場合があります。社内では事故や不祥事の噂みたいなものは一瞬で広まりますし、多少のことであればともかく、重大なことであれば、もはや、あるいは、当面、出勤させられない局面も普通にあると思います。

もっとみる

降給のこと 4/4

(承前)

13.裁判例をひとつ

就業規則(賃金規程)の変更によって基本給を減額した例で、合理性が認められた例がありますので、書きとどめておきます(東京高裁H26.2.26、原審横浜地裁H25.6.20)。これは就業規則の内容の一部である給与規定(と労使慣行)によって金額が決まっていた基本給などを減額変更したという例で、裁判所は、その就業規則の変更が労働契約法10条により有効であると判断しました

もっとみる

降給のこと 3/4

(承前)

7.そうはいっても

降給について具体的に合意を得たり、降給を許す就業規則の変更を行うことは容易ではありませんが、そうはいっても、何も用意をしていなければどうしようもないので、とにかく何か用意をしておかなければなりません。

先に引用した最高裁判例(最判2小H9.2.28)ですと、「同種事項に関する我が国社会における一般的状況等」には配慮するとされていますから、世の中の雰囲気が変わって

もっとみる

降給のこと 2/4

(承前)

5.モデル就業規則

厚生労働省はモデル就業規則というものを提供しています。モデル就業規則では、給料の決め方に関して、次のような条項が設けられています。

以上のように、モデル就業規則では、降給に関する規定はありません。これだと、降給はさせられるでしょうか。参考にできる裁判例があって(東京地判H12.1.31)、これによると、就業規則に降格可能性について言及がなかったという理由で、降給

もっとみる

降給のこと 1/4

1.従業員の給料を下げたい

従業員の賃金を下げたい、ということがあると思いますが、そういうときどうしたらいいんでしょうね。これは、懲戒処分としての減給のことではなくて、会社の業績が振るわないので、とか、従業員の能力不足による降給のことを想定しています。

2.法律

このことを考えるためにまず見ないといけない法律は、労働契約法8条です。

契約の内容は契約当事者の合意があるときは、変更できます。

もっとみる

従業員に対する損害賠償裁判例手控え

1.最1小判S51.7.8

従業員が事故などで会社に損害を生じさせた場合、これを会社が従業員に賠償請求できるかという問題については、この最高裁判決がリーディングケースでしょうか。定着している用語かどうか分かりませんが責任軽減法理とか言われることがあって、いつでも全部従業員に賠償させられるとは限らないです。

最高裁は、総合判断で信義則上相当と認める範囲で請求できるという言い方をしていますから、事

もっとみる

オンラインによる団体交渉のこと

1.中労委R4.3.24

令和4年3月24日に中央労働委員会から、コロナで緊急事態宣言にある状況と下で、書面による回答にとどめ、対面による団体交渉を拒絶した、という態度が、不当労働行為に当たるという判断が出ています(中労委のウェブサイトでリリースを見れます。)。
感染対策すれば団体交渉できなくもないでしょ、という内容です。

2.東京高判H2.12.26

裁判例では、団体交渉は「直接話し合う方

もっとみる

● 平均賃金のこと

1.平均賃金

平均賃金(労働基準法(以下「法」。)12条1項)は、①解雇予告手当(法20条1項)、②休業手当(法26条)、③年次有給休暇の賃金(法39条9項)、④休業補償(法76条1項)⑤減給の制裁の限度額(法91条)などの計算の基礎となる賃金です。最低賃金を画する賃金や、残業代の計算の基礎となる賃金とは別のものです。多くのかたは、解雇予告手当のところで接する機会が多いと思います。

2.平均賃

もっとみる

残業代計算の基礎になる賃金のこと

「時間外労働」「休日労働」「深夜労働」が生じたときは、通常の賃金(通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額)に加算して割増賃金を支払わないといけません(労働基準法(以下「法」。)37条1項)。割増率は、「時間外労働」では25%、「休日労働」では35%、「深夜労働」では25%とされています(法37条1項、4項、労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令に定める原則

もっとみる

時間外労働の上限規制のこと

労働基準法(以下「法」。)が定める労働時間の上限の原則は、次のとおりです(法定労働時間。例外あります。これを超えて労働させるのが「時間外労働」です。)。【第1段階/原則】

休憩時間を除き、1日につき、8時間(法32条2項)。

休憩時間を除き、1週間につき、40時間(法32条1項)。

ついでに、これプラス、使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないのが原則です(法

もっとみる