残業代計算の基礎になる賃金のこと

「時間外労働」「休日労働」「深夜労働」が生じたときは、通常の賃金(通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額)に加算して割増賃金を支払わないといけません(労働基準法(以下「法」。)37条1項)。割増率は、「時間外労働」では25%、「休日労働」では35%、「深夜労働」では25%とされています(法37条1項、4項、労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令に定める原則。)。

時間外(25%)+深夜(25%)だと50%、休日(35%)+深夜(25%)だと60%になります。時間外+休日という局面は発生しません。

その計算の基礎となる賃金は、次の方法によって求めます(労働基準法施行規則(以下「規則」。)19条1項)。「計算の基礎となる賃金」と「労働時間数」の2つの変数を確定して、「計算の基礎となる賃金(時間単価)」を求める作業になります。

計算の基礎となる賃金」は次の計算によって時給で求めます。

  • 月給制のとき 賃金(月給)÷1年間における1月平均所定労働時間数(規則19条1項4号)

  • 週給制のとき 賃金(週給)÷4週間における1週平均所定労働時間数(規則19条1項3号)

  • 日給制のとき 賃金(日給)÷1週間における1日平均所定労働時間数(規則19条1項2号)

  • 歩合給のとき 賃金(歩合給)÷賃金の算定対象期間の総労働時間数(規則19条1項6号)

労働時間数」のほうは、賃金の算定対象期間ごとの所定労働時間数で割るのではなくて、平均所定労働時間数で割ります(日給の場合は、多くの場合、日給そのままになると思います。)。
平均所定労働時間数は、月給制かつ平年ですと、次のようになります。

  • (365日-年間休日数)×(1日の所定労働時間)÷12カ月

但し、歩合給については、「所定労働時間」ではなくて、「総労働時間」で割ることになります。歩合給は総労働時間に対して発生していると考えるためです。この表裏の問題として、割増賃金を算定するときは、歩合給では、割増部分だけを計算することになります。

「計算の基礎となる賃金」のほうは、計算から除外することができるものがあって(法37条5項)、それは次のとおりです。7つあります。

  • 家族手当(法37条5項)

  • 通勤手当(法37条5項)

  • 別居手当(規則21条1号)

  • 子女教育手当(規則21条2号)

  • 住宅手当(規則21条3号)

  • 臨時に支払われた賃金(規則21条4号)

  • 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(規則21条5号)

家族手当、通勤手当、住宅手当などでは、ある程度具体的に実情に合わせた支給をしておかないといけません。ざっくり概算で支給していると、計算の基礎から除外できないですよ、という主張を受けることがあります。

これらは、限定列挙と言われています。実務的には、就業規則や賃金規則などに「基準内賃金」「基準外賃金」という区別があって、基準内賃金を残業代の基礎とすることにしている例に接することがよくあります。ですが、こういった就業規則上の仕分けは、法律上は意味はありません(通用しません)。
このため、自前の「基準内」「基準外」で計算していると、「除外賃金のどれに当たるのか。どれにも当たらないので、時間外手当計算の基礎に入れろ。」という指摘を受けることがあります。

労働実態に対して十分な賃金を支払っていても、規則の立てつけのまずさに乗じて時間外手当の請求を受けてしまう、ということが起こります。

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