オンラインによる団体交渉のこと

1.中労委R4.3.24

令和4年3月24日に中央労働委員会から、コロナで緊急事態宣言にある状況と下で、書面による回答にとどめ、対面による団体交渉を拒絶した、という態度が、不当労働行為に当たるという判断が出ています(中労委のウェブサイトでリリースを見れます。)。
感染対策すれば団体交渉できなくもないでしょ、という内容です。

2.東京高判H2.12.26

裁判例では、団体交渉は「直接話し合う方式」でするのが最も適当とされています(東京高判H2.12.26労判632ー21、東京地判H2.4.11労判562ー84、最三小判H5.4.6)。次の引用は、地裁判決に、高裁判決が加筆した部分を足しています。

「団体交渉の申入れに対して書面の交換による交渉に固執し、直接話し合うことを拒否していたものであり、原告のこのような態度は、誠実に団体交渉に応じたものということはできない。」
「書面の交換による方式が許される場合があるとしても、それによって団体交渉義務の履行があったということができるのは、直接話し合う方式を採ることが困難であるなど特段の事情があるときに限ると解すべきである(労使双方が自己の意思を円滑かつ迅速に伝達し、相互の意思疎通を図るには、直接話し合う方式によるのが最も適当であり、その際、書面を補充的な手段として用いることは許されるとしても、控訴人の主張する専ら書面の交換による方式は、右の直接話し合う方式に代わる機能を有するものではなく、労働組合法の予定する団体交渉の方式ということはできない。)。」

この裁判例によると、「直接話し合う方式」が最も適当とされる実質的な理由は、「労使双方が自己の意思を円滑かつ迅速に伝達し、相互の意思疎通を図る」ため、という部分になるでしょうか。

3.オンラインの団体交渉

では、オンラインの団体交渉はどうでしょう。会って行う団体交渉を拒絶して、オンラインの実施にとどめた場合、団交拒絶の不当労働行為になるでしょうか。最初の中労委の命令は、「実際面談」と「書面」の対照の事案なので、オンラインには言及がありません。以下は、コロナとか関係なく、平常時も含めたこととして書きます。

前記の裁判例からすると、①オンラインは「直接話し合う方式」に含まれるかどうか、②「直接話し合う方式」に含まれないとした場合、オンラインでは、「労使双方が自己の意思を円滑かつ迅速に伝達し、相互の意思疎通を図る」という機能において、会って行う団体交渉に劣るか、というあたりが問題になるでしょうか。

①については、顔が見えるから直接だともいえるし、現に会っていない以上直接ではないともいえます。直接という用語に含まれるものの限界を、用語自体から探求することに実益はないと思いますので、①はいったんスルーでよいかなと思います。

なので、問題は②のほうですよね。この点については、団体交渉に関して「労使双方が自己の意思を円滑かつ迅速に伝達し、相互の意思疎通を図る」ためには、現実に会うのと、オンラインとで違いはないように私は感じています。ですがここは人により、あるいは立場により、考え方が違うかもしれません。

施設入所しているおばあちゃんに会うとか、遠くの孫に会うとか、恋人同士が会うとかだと、オンラインはオンラインでやるとしても、現実に会うこととオンラインとでは質が違う部分がありそうです。
ですが、法律実務一般のこととしていうと、オンラインは便利で、どうしても会って話さないことになどうにもならない、という話題やジャンルのほうが例外なのではないかと思います。裁判所だって、オンラインの手続が広がりを示し始めていますしね。

なので、団体交渉に関しても、オンラインでも、やっていること・できることは、現実に会うのと変わらないのではないかなと思います。このため、先の裁判例に戻っていうと、オンラインの団体交渉は、「直接話し合う方式」に含めてもよいのではないかと思います。

4.現実に会う団体交渉

団体交渉について、実際面談方式とオンライン方式が、通常許容される方式であると(勝手に)した場合、例えば、組合が実際面談方式を求めるのに対して、会社が、オンライン方式ならよいけど実際面談方式はしない、とやった場合、不当労働行為になるでしょうか。実際面談方式とオンライン方式は、何が違うでしょうか、何か違いはあるでしょうか?

これは、最初に紹介した中労委の命令でも判断されていないし、この点について判断した裁判例も見当たらないので、これからの課題になります。

実際面談方式とオンライン方式の違いとしては、オンラインは現実に会わないので、席の空気、と言いますか、雰囲気、みたいなものは、多少なりとも違っているように感じます。なので、「現実に面談することによってもたらされる席の雰囲気に直接接しなければならない義務」が、団体交渉応諾義務の範囲に含まれるか、みたいな考え方をすることになるでしょうか。

5.実際の課題

私の体験を具体的に書くわけにはいかないので濁しながら書きますが、労働組合の側でも、オンライン方式の団体交渉を許容する姿勢はあると感じています。実際便利ですからね。だれかがどこかまで出向いていかなければならないこともありませんし、何人でも参加できますし、会議室借りなくてもよいですし。

ただ、例えば、労使間で鋭く意見が対立する議題が発生したときに、労働組合から、これはオンラインではできないから現実に会ってやりたい、と言われることがあるかもしれません。そういったときは、会社には、実際面談方式にする義務があるでしょうか。

こういうのが、上記の「現実に面談することによってもたらされる席の雰囲気に直接接しなければならない義務」の有無、みたいなことになってくるのかなと思います。あるいは、議題によってはオンラインNGとか、そういう議論がありうるでしょうか。こういったことも含めて、裁判例的には未解決です。

6.そもそも

途中で紹介した裁判例では、「労使双方が自己の意思を円滑かつ迅速に伝達し、相互の意思疎通を図るには、直接話し合う方式によるのが最も適当」と判示しているのですが、そもそもそうか?という気もします。

団体交渉は、通常は、連日やるというものでもないので、書面も利用したほうが迅速です(実際書面のやりとりも少なからず発生します。)。また、書面ですと、当然のこととして正確に後に記録として残ります。会話では推敲する時間がないので言葉尻を捉えた議論になる可能性が否定できませんが、書面だとそういった可能性も避けられる場合がありますので、無用の誤解を避けられ円滑でもあります。

以上のように円滑さ、迅速さ、正確さにおいて、一般的に書面が面談に劣るという感じはありません。少なくとも、「書面」と「面談」を対照して単純に優劣を語れるほど簡単なことではなくケースによると思います。なので、「労使双方が自己の意思を円滑かつ迅速に伝達し、相互の意思疎通を図るには、直接話し合う方式によるのが最も適当」というのは、ちょっと雑な言い方ではないかと思います。

極論のように言うなら、面談の席上で木で鼻を括ったようなその場しのぎの態度で臨む会社と、誤解のないよう書面で適時に詳しく説明する会社とで、どっちが誠実に団体交渉に応じているといえるのか、という話です。

7.最後に

オンラインの団体交渉については裁判例的には未解決で、ネットを叩くぐらいだと、会社側の立場からこれを許容する意見が散見されます。逆に、オンライン団交なんてけしからん、団体交渉とは認めない、みたいな意見は今のところ見当たらないようです。
現実には、オンラインの団体交渉は行われています。
なにか影響力のありそうな裁判例が出てくるまでは、打って出るか、ディフェンシブに行くか、抜き差し考えながら実務は動いてゆくことになりそうです。
そして、コロナが収まった後どうなるか、というところです。



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