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短歌五十音

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「短歌五十音」は、中森温泉、初夏みどり、桜庭紀子、ぽっぷこーんじぇるが五十音順に歌人を紹介する記事です。毎月第一〜第四土曜日に更新予定。 画像は桜庭さんよりいただきました。
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2024年8月の記事一覧

短歌五十音(ふ)藤井貞和『うた――ゆくりなく夏姿するきみは去り』

短歌五十音(ふ)藤井貞和『うた――ゆくりなく夏姿するきみは去り』

1.水・記憶・戦争藤井貞和は詩人・古代文学研究者。折口学を受け継ぐが(→短歌五十音(し)釈迢空)、その肩書きに歌人が入ることはない。文学を考え、文法を論じ、詩を綴る。その生活から上の発言が生まれる(発言については後半で確認しよう)。

彼は歌人を名乗らないが、『うた――ゆくりなく夏姿するきみは去り』(書肆山田、2011)という一冊の歌集がある。主に若いころの歌をまとめていて、「そのころ自分の体内に

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短歌五十音「ひ」東直子『十階』

短歌五十音「ひ」東直子『十階』

短歌五十音シリーズ、「ひ」の歌人として取り上げる東直子氏は、1963年広島県生まれ。1996年に第7回歌壇賞を受賞し、歌集には『春原さんのリコーダー』『青卵』などがある。短歌だけでなく詩や小説、エッセイ、評論、イラストレーションなどの分野で幅広く活躍。書肆侃々房の新鋭短歌シリーズの監修も担当している。

『十階』は、ふらんす堂の「短歌日記」シリーズの一冊として出版されたもの。2007年1月1日から

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短歌五十音(は)早川志織『早川志織集』

短歌五十音(は)早川志織『早川志織集』

はじめに

早川志織さんの歌集を読み進めて思ったことは、読んでいると植物園にいるような心地がするということだった。
早川さんの歌には植物や生き物が多く詠み込まれている。
第一歌集は特にどの連作にもほぼ植物が出てくる。
そして植物や生き物が詠み込まれた歌は妙に生々しく艶やかな印象がある。
そんな中、日常の何気ない瞬間の歌も非常に魅力的であった。

日常の歌

傘と海月のイメージが重なる。雨という多く

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短歌五十音(の)野口あや子『くびすじの欠片』

短歌五十音(の)野口あや子『くびすじの欠片』

青春は、食べて、飲む。『くびすじの欠片』は、2009年に刊行された野口あや子の第一歌集。
また、2023年に文庫版として刊行されており、本稿では、文庫版のご紹介をする。

本歌集は、著者の15歳から20歳までの作品311首が収録されている。
全体が2部に分かれており、第1章は、短歌研究新人賞受賞作品「カシスドロップ」、同賞次席作品「セロファンの鞄」を中心に、2006年まで(著者19歳までと考えられ

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