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短歌五十音

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「短歌五十音」は、中森温泉、初夏みどり、桜庭紀子、ぽっぷこーんじぇるが五十音順に歌人を紹介する記事です。毎月第一〜第四土曜日に更新予定。 画像は桜庭さんよりいただきました。
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2024年7月の記事一覧

短歌五十音(ね)根本芳平『弥陀笑ふ』

短歌五十音(ね)根本芳平『弥陀笑ふ』

根本芳平(ねもとよしひら)を知る人はどれだけいるだろうか。短歌辞典には名前がない。Xのつぶやきも見当たらない。著者略歴によると短歌誌「水甕」の編集委員というので、「水甕」の同人はご存知だろう。歌集は『譚』『弥陀笑ふ』の二冊がある。

彼の歌は『角川現代短歌集成』に20首載っているから、ここから知る人がいるかもしれない。掲出歌もその一首で、「たしかに」の確信、この踏み込みがいい。

ただ、概して『角

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短歌五十音(ぬ)沼波万里子『砂のぬくみ』

短歌五十音(ぬ)沼波万里子『砂のぬくみ』

今回の歌人、沼波万里子は1921年東京生まれ。歌誌「箒木」を経て「潮音」に入社。1946年、旧満州で夫と一女に死別、引き揚げ。1956年に再婚し、一女に恵まれている。2013年死去。中国残留孤児のボランティア活動も行なった。

歌集『砂のぬくみ』から気になった歌を見て行きたい。

「東京」という連作の中の一首。
頭上注意足元注意〜とたたみかけるように詠み、続く「靴、靴、靴」が、複数人の靴がどんどん

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短歌五十音(に)西田政史『スウィート・ホーム』

短歌五十音(に)西田政史『スウィート・ホーム』

はじめに

西田政史さんの『スウィート・ホーム』を手に取ってまず読み始めたのはあとがきからだった。
というか、歌集を読むとき8割くらいはあとがきから読み始める。
詳しく書きすぎるとネタバレになってしまうので控えるのだか、西田さんの誰のためでもなく自らのために短歌を詠む姿勢にとても惹かれ歌集を読み進めた。

自らを「辺境歌人」と名乗る西田さんの短歌は、読後に淋しげな印象が残る。しかし、淋しいだけでな

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短歌五十音(な)中井スピカ『ネクタリン』

短歌五十音(な)中井スピカ『ネクタリン』

生活即文学本稿で紹介するのは、中井スピカさんの第1歌集『ネクタリン』である。
中井スピカさんは、1975年生まれで、2022年に「空であって窓辺」で第33回歌壇賞を受賞している。
また、塔短歌会に所属するとともに、魚谷真梨子さん、江戸雪さんとともに短歌同人誌「Lily」にメンバーとして参加している。

冒頭に引用したのは、土屋文明が昭和22年に名古屋市で行った講演の速記であり、『短歌の現在および将

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短歌五十音(て)寺山修司『寺山修司青春歌集』

短歌五十音(て)寺山修司『寺山修司青春歌集』

寺山修司の歌集を取り上げようと思ったものの、実際に歌集を読んで混乱してしまった。「青春」とタイトルについていて、確かに初期の短歌は青春香るような作風なのだけれど、後半の短歌はどこか土臭い、おどろおどろしい世界を詠んでいるからである。初期の作風を脱ぎ捨てて、後の作風に変化していった心境はどんなものだったのかと思うが、今回は前者の歌を中心に書いていきたい。

寺山修司は1935年青森県生まれ。1954

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