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【広告考】みじめで都合の良い女を、自立した愛され女に変換するDior


Miss DiorのCMを見て、あなたは何を思うだろう。


「愛してる」
と言い寄る恋人に
「じゃあ証明してよ」
と強気に出るナタリーポートマンが演じる女性は、魅力的な笑顔で太陽の下を走り抜け、時には海に飛び込むダイナミックさを持つ。

彼女は最後に

「あなたは、愛のために何をする?」

と問いかけてくる。



ナタリーの溌剌とした美しさに、顔を出さずに活動するシンガーソングライターSiaの曲「chandelier」のサビ部分があわさると、刹那を生きる女性の強さを感じる印象を与える。

I'm gonna swing from the chandelier
From the chandelier
I'm gonna live like tomorrow doesn't exist
Like it doesn't exist


シャンデリアにぶら下がるわ
明日なんかまるで存在しないかのように生きるわ


Miss DiorのCMを見て「これは…!」と思った私はすぐに原曲を聞いてみたが、全編聴いてみると、 Diorの CMで聞いた印象と全く違うので驚いた。


こちらがSiaのミュージックビデオである。

このミュージックビデオもミュージックビデオで見た人をある種ギョッとさせる仕上がりであり、10代前半のマディージーグラーの圧倒的パフォーマンスはかなり強い印象を残すものだ。

彼女のパフォーマンスやこのミュージックビデオについても調べると色々面白いのだろうが、ここでは一旦置いておいて、歌詞を見てみよう。

「★」部分の和訳は私が適当に
「こういうストーリーか!?」
と考えて概ねを意訳したものだが、ネット上には正確な訳がたくさんあるはずなので、ご関心の方はググってください。





chandelier

Party girls don't get hurt
Can't feel anything, when will I learn?
I push it down, push it down


パーティーガールは傷ついたりしない
何も感じられないで
私はいつ気付くのかな
考えないようにするの、考えないようにしてるの


I'm the one  “for a good time call"
Phone's blowin' up, ringin' my doorbell
I feel the love, feel the love


私は「ちょっと呼び出す」のに都合の良い女だね
電話が鳴るたび、ドアが鳴るたび、私は愛されてるって感じてしまうの


1 2 3, 1 2 3, drink
1 2 3, 1 2 3, drink
1 2 3, 1 2 3, drink
Throw 'em back till I lose count


1,2,3飲んで
1,2,3飲んで
カウントもできなくなるくらいに飲み干す


I'm gonna swing from the chandelier
From the chandelier
I'm gonna live like tomorrow doesn't exist
Like it doesn't exist
I'm gonna fly like a bird through the night
Feel my tears as they dry
I'm gonna swing from the chandelier
From the chandelier


シャンデリアにぶら下がるわ
明日なんてまるで存在しないみたいに生きていく
夜通し鳥みたいに飛ぶの 涙が乾いたと思えるくらいに
シャンデリアにぶら下がるわ


But I'm holding on for dear life
Won't look down, won't open my eyes
Keep my glass full until morning light
'Cause I'm just holding on for tonight
Help me, I'm holding on for dear life
Won't look down, won't open my eyes
Keep my glass full until morning light
'Cause I'm just holding on for tonight
On for tonight


でもしがみついてるの
下は見たくないの 目も開けたくないわ
グラスは朝が来るまでは切らすことなく満たすの
ただこの夜にしがみつくの


Sun is up, I'm a mess
Gotta get out now, gotta run from this
Here comes the shame, here comes the shame


朝が来たら私はただの「めちゃくちゃ」だ
早くここから出ていかなきゃ
早くここから逃げなきゃ
恥ずかしさに押しつぶされる


'Cause I'm just holding on for tonight
Help me, I'm holding on for dear life
Won't look down, won't open my eyes
Keep my glass full until morning light
'Cause I'm just holding on for tonight
On for tonight


私はただこの夜にしがみついてるだけ
助けて欲しい
まだしがみついてるの
下を見たくないの 目を開けたくないの
朝日がのぼるまでグラスを満たしておかなきゃ
ただこの夜にしがみついてるだけの私だから


※一部リフレインなので省略しました


色んな解釈ができるそうですが、私は DiorのCMと対象的な女性像をここに見出してしまいます。

原曲の「パーティーガール」=「私」は、間違えても恋人からの「愛してる」って言葉に「証明してよ」なんて強気なこと言えないタイプ…よね!?


太陽の下で自由に海辺を走り回ったりもしない
挑戦的な目で愛を問うたりもしない

「私」にあるのは、気まぐれな夜の呼び出しと、虚しさから飲み続けてしまうお酒

それから朝の逃げ出したくなるような羞恥と後悔

なんじゃないかしら。

それを Diorはサビの部分を抜き出し、「drink」を消し去って、自由に駆けて愛の主導権を握る女性の歌にリメイクしちゃったのよね。

 Dior、さすがだなぁ、と、フルで原曲を聴いた時の私は思いました。


曲の使い方でかなり印象が変わるな、とか、限られた素材で打ち出すメッセージとか、CMでそういうものに触れるとちょっと嬉しくなったりする。

CMや広告に対して期待することじゃないのかもしれないけど、私は安直な「キーワード」で、誰でも飛びつく「シンボル」の濫用で、私たちを小さな脳みそを麻薬漬けにしないで欲しいなって思うことがあるのよね。

その方が「売れる」のは知ってるし、そうなるのは分かるのだけど。


Siaがこの曲を作ったのは、彼女自身がアルコール依存症になった時、という情報をどこかで見ました。

ちなみに私が好きなSiaの曲はこちら(Siaにとっては発売にあたって色々あった嫌な曲かもしれない…)。

お前らが傷つけようとしたってこっちは傷ついてやらねーからな、的な解釈をしておりますが、いかがでしょうか。

遊民的CM・広告考でした。また気づいたのがあれば書こうと思います。

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