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我が家とサザエさん

「平屋の一戸建てに住むなんて夢だなぁ」
と旦那が家探しをしていた時に言っていた。私たちが見に行った物件の隣が平屋の一軒家だった。そして売りだし中なのだ。
ただ、草は腰くらいまで生い茂り、梅雨が終わり、夏が始まろうとしている夕方頃だったこともあり、蚊に刺されてしまう、そんな土地と状況。

平屋の一戸建てと言えば、サザエさん一家を思い出す人も多いのではないか。子供の頃は何気なく見ていたが、今、自分たちが家を探している状況でサザエさん一家を見ると、とてつもないスーパー家族に見えてくる。
平屋の一戸建ては、いつからこんなに憧れを帯びる存在になっていったのだろうか…と日曜の夕方、ビールを飲みながら考えたのであった。

と、ふと思い出す。

そういえば私、平屋に住んでたなぁと。
実は、昔、住んでいた家が平屋だった。でも、小学生くらいのときに増築して2階建てになった。2階建ての記憶が鮮明に残っているので、「平屋に住みたい」その一言では思い出さなかった。
サザエさんを見ていると蘇った記憶。

私たちの家探しは、そんなところからスタートした。
本命の土地を見に行ったはずなのに、平屋に目が行く旦那。
家に執着がない私。きっと平屋に住んでいなかったら憧れが出て、もっとやる気になっていたのかもしれない。
その後、色んな家を見て回った。でも平屋に出会うことはなかった。

見つかったのは、昔、製糸工場を営んでいたご家族の家。
こんな土地にはもう出会えないかもしれない。という期待をあおる旦那の一言。
正直、今まで見に行った家は、どこもピンとくるところがなかった。そして、ますますそんなに急いで家を探さなくても、いいじゃないか、というどこか後ろ向きな想い。
反対ではないけど賛成でもない私がその場所に連れていかれて、中を見る。
正直、あまりイメージが湧かなかった。
ただ、家の外を出て、10歩くらい歩いたときに、青く澄んだ大きな空に負けないくらいの大きな橋が見えたのだ。
なぜか、その景色にやられた。
あ、ここ、いいかもしれない…と初めて旦那に言った気がする。

夫婦ふたり、ここに新しい家を建てることに決めた。

それから、私たちはそこに一軒家を建てた。
もちろん平屋で。2階建てで。

新しい我が家に私たちふたりと、長年連れそう金魚と住んだ。
休みの日には、一目惚れした橋の近くの河原であつあつのたこ焼きとビールを飲んで、なんでもない休日を過ごすこともあった。

間も無くして新しい家族が誕生することになる。

いつ産まれてもいい状況だったが、第1子はそんなに簡単には降りてきてくれなかった。

ヤキモキしつつも、こればっかりは仕方ないと考えないようにしていた日曜の夕方。
こんな日にはサザエさんだ。季節に合わせたプチ雑学を波平さんが教えてくれる、賢くなれるのに頭を使わなくて良い最高の時間。
のはずが、なぜか私は食欲がなかった。お昼食べ過ぎたからかなぁなんて呑気なことを考えて、
CMに差し掛かったところでトイレへ。

おしるしだ。

驚きと焦りと緊張。色んな感情が混ざり合った状態で旦那に報告。だが、まだ陣痛はない。そのまま座り、サザエさんに集中しようとするが、集中できるわけもなく、馴染みのエンディングが流れる。
すると、だんだんお腹が痛くなってきた。

まさか。感覚を計るとまだ大丈夫。このあと、ラグビーを見る予定だから頑張れと謎の励ましを自分に入れる。その頑張りとは裏腹に、強くなり、短くなる陣痛。そして、とうとう旦那に「産婦人科に電話する」と。

私は母になったのだ。

家と子との出会い。そして、いつもそばにサザエさん。
子が大きくなり、自分のテレビを見たいと言うが、我が家は絶対、日曜18時30分はサザエさんをつけることにしている。

これが私の家の話。

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