【詩を食べる】すだすだと吹きゆる若夏の風（読み人知らず）／若夏のきゅうり素麺

ここは、詩情ポエジオを味わう架空の食堂「ポエジオ食堂」―詩のソムリエによる、詩を味わうレシピエッセイです。夏は涼やかなうたを一篇、いかが？沖縄の琉歌を、さっぱりとした風情のすり流し素麺とどうぞ。

布はためく、夏

梅雨も開け、夏本番。「冬将軍」に対して「夏将軍」という言葉もあってもいいのではないか…というくらい、烈しい日差し。「夏って、洗濯物がはやく乾くくらいしか楽しみがない」などと言いつつ、真っ白いシーツが風にはためく姿を見るのは、すがすがしくて好き。

持統天皇の「春すぎて　夏来きにけらし　白妙の　衣ほすてふ　天の香具山」（新古今・夏・175）という歌は中学生で習ったが、大学生になり洗濯を自分でするようになってから好きになった。山の若々しい緑に、はためく衣。夏の美しさといったとき、わたしは洗濯物が風にそよいでいる風景を思い浮かべる。

去年、倉敷民藝館で芭蕉布ばしょうふで織られた着物を見た。芭蕉布とは、糸芭蕉 の繊維を用い、沖縄北部・大宜味おおぎみ 村の喜如嘉きじょか を中心にすべての工程を手作業で作られている「幻の布」。展示で見た映像では、女性たちが繊維を叩き、歌いながら広げ、青い海に布をさらしている姿が印象的だった。

展示の詳しくはこちら

袖に心地のよい風

民藝館には芭蕉布で織られた着物の展示もあって、足を止めしばし見惚れた。とんぼの羽のように薄い布で織られた袖は、ゆったりと風を通す作りでいかにも涼しそう。

すだすだと吹きゆる　若夏の風や　いつもわが袖に宿て呉れな
（すぃだすぃだとぅふちゅる、わかなつぃぬかじや、いつぃんわがすでぃに、やどぅてぃくゐらな）

島袋盛敏『琉歌大全』

この琉歌りゅうか※と出会ったとき、芭蕉布の着物の袖を通り抜ける風を感じるようだった。「すだすだと」は、涼しい様子やすがすがしさをあらわす沖縄特有の表現らしい（池澤夏樹『日本語のために』を参照）。

発音がおぼつかないものの、「すぃだすぃだとぅふちゅる」と声に出すと、心地のよい風がさらさらと肌をくすぐるようだ。
「若夏」というのも、「初夏」とはまた異なるさわやかさがあるし、「いつもわが袖に宿て呉れな」という風に語りかける言い方も、かわいくていい。

※琉歌とは音韻が八八八六の歌で、恋・四季・雑歌・狂歌に分類される。最も古い文献が14世紀末頃。

若夏のさわやかさを五感で味わう。若夏のきゅうり素麺

この歌を味わうレシピとして考えたのは、「若夏のきゅうり素麺」。きゅうりを一本すりおろして、だしを加えて冷やした「すり流し」といただく冷たい夏の麺だ。布のイメージで、幅広い麺を使用した。涼やかな緑も目のごちそう。きゅうりの新しい魅力にも出会えるひとさらだ。

群馬の「ひもかわうどん」を使っているけれど、素麺でも◎

《材料》一人分
・きゅうり　一本
・白だし　大さじ2/3
・水　100cc
・青じそ　好きなだけ
・海老　好きなだけ
・塩、日本酒　適量
・素麺　好きなだけ（今回はひもかわうどんを使用）
・出汁醤油（お好みで）

《作り方》
・きゅうりを一本すりおろし、だし大さじ2/3と水100ccを加え、冷蔵庫で30分ほど冷やしておく。
・海老は殻をむいて背わたをとり、塩と日本酒適量をまぶし、さっと茹でる。白だし（分量外）をすこしまぶしておく。
・しそは細かく刻む。
・お湯をわかし、麺を茹でる。
・茹で上がったら氷で麺をしめ、器に麺、すり流し、えび、しそをトッピングする。好みで、出汁醤油をさっとかけていただく。

お急ぎの場合は冷凍庫で

ひもかわうどんは、洗いたての布のように美しい

▼芭蕉布について

芭蕉布とは。空気のように軽やかな着物は、沖縄の畑から生まれる | 中川政七商店の読みもの

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今日もすてきな一日になりますように。
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