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#1 きみが歌うクロッカスの歌も(寺山修司)/クロックムッシュ

口ずさむひと

春からいっしょに暮らしているひとが「オー・シャンゼリゼ」を口ずさんでいたので、私も台所でつられて口ずさむ。

♪いつも何かすてきなことが あなたを待つよシャンゼリゼ

台所の窓から、シャツやタオルが気持ちよさそうにゆれているのが見える。海からの風。今日もいい天気。

きみが歌うクロッカスの歌も新しき家具の一つに数えんとする

寺山修司 『血と麦』(1962)

詩人、歌人、劇作家、映画監督とマルチな才能を発揮した寺山修司による歌だ。



ふたりの生活をうたう歌

家具はまだそろっていない新しい部屋に、すきな人がいて口ずさんでいる。たったそれだけのことで、なんと生活が明るく、楽しくなることか。
そして、「きみ」は、どこかへ帰ってしまわない。
新しい家具のようにこの部屋に存在しつづけ、一緒にときを刻んでいく。

歌人のフレッシュな驚きと喜びがストレートに伝わる歌。
音のはじめを「あ・か行」で揃えたリズム(みがうたうロッカスのうたもたらしきぐのひとつにぞえんとする)は、若々しい印象を与える。

クロッカスは、ヨーロッパで「春を告げる花」として愛され、花言葉は「青春の喜び」。どんな歌なのかわからないけど、二人の新生活にふさわしい歌、という感じがすごい。

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寺山は、10歳のとき父が戦病死、母は遠く九州に出稼ぎに行き、青森でさみしい少年時代を過ごした。
ささやかでも、愛する人との暮らしをはじめたときはどんなにうれしかっただろう。

寺山が女優・九条映子と結婚したのは1963年。
「朝はダイニングテーブルでトースト」みたいな憧れがつのった時代。
ふたりのことだから、ちょっと洒落た朝食をとっていたのではないか、と想像し、クロックムッシュ、の響きが寺山っぽいので作ってみた。
(ちなみに、寺山は海外でも演劇を公演し、母国よりフランスなど海外における評価のほうが高い)

◆材料
◇ホワイトソース バタ30g/牛乳 400ml/薄力粉大さじ4/塩ふたつまみ
◇パン 2枚
◇チーズ 好きなだけ
◇ハム はさめるだけ

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◆作りかた
①ホワイトソースを作る。バターを弱火にかけ、バターがとろーんと溶けたら薄力粉を加え、まぜながら一体感が出るまで炒める。
(焦がすとブラウンソースになります。それはそれでよし。「ブラウンソースになっちゃった、と笑い飛ばしましょう。)
※多めにできるので、残ったら冷凍してグラタンやクリームパスタに。
②食パンにバターをゆるゆる塗って、ハムとチーズ、ホワイトソースをはさむ。
③パンにホワイトソース、チーズを重ねてオーブンやトースターでこんがり焼く。

余談。

寺山の妻、映子さんもいろいろ失敗して、それを寺山はかわいく思っていたようだ。劇作家「アヌイ」を「アモーレ」と得意満面でまちがえたエピソードのあとの記述が、二人らしくて微笑ましい。

「何かいてるのよ」
といま、これを書いていると映子が覗き込んで言った。私は急いでかくして、
「きみの失敗談だ」と答える。
すると映子はわかったようににらみつけて、
「ライスカレーに塩を入れ忘れたことでしょう」
と言うのであった。   「映子を見つめる」『ひとりぼっちのあなたに』

ふだんの会話だけで、詩や短歌が生まれ出そうな、美しい日々の泡。
クロックムッシュは、かんたんに「いつもの特別な」朝が手に入る。

作者とおすすめの本

◆作者について
寺山修司(1935-1983)青森生まれ。
短歌、詩、演劇、映画など精力的に活動した鬼才。演劇実験室『天井桟敷』を立ち上げ、海外での評価も高い。『田園に死す』『書を捨てよ、町へ出よう』など著書多数。短歌から読み始めたいひとは『寺山修司青春歌集』(角川文庫)をどうぞ。早熟な天才から発せられる香気がすごい。

◆おすすめ本
『寺山修司青春歌集』まずはこの一冊を。


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